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「ネット事業は本部の管轄。俺は、ここと、あと近隣の5店舗の面倒を見てる。つまり、店長の上司、といえば分かるかな」

は?
5店舗の店長の上司?
つまり、5店舗の従業員全員の指導とか、管轄しているの?

「チェーン展開だからね。本部の意に沿うよう指導している」
「え、そんな偉い方でしたか、すみません」
「あはは、面白いな、そんなに偉くないよ。店長を3年勤めて、業績を認められたら、希望して上れる階段だから」

おいおい3年も店長、しかも業績を認められた?
謙遜か自信か分からないぞ、この人は。
え、しかもかなり若いと踏んだのに、大卒なら少なくとも25才か。
見えない、かっこよすぎるし若い!

童顔なの?

スタイル良くて、顔が綺麗で、隙があるから誘うような感じ。
袖口から覗く細い手首。
襟が緩いのか首筋がチラ見する。
艶めく唇。

これが何処となく大人の色気。おいおい。

「綿屋くんは18か。俺とは7つ違い。へえ、親近感が湧く。俺にもね、年下の弟が居るんだ」
「そうなんですか」
弟を見るような感じかな。
既視感?
こんなかっこいいお兄さんが居たら自慢だな。
「よし。きみを採用するよ。但し、俺が指導するんじゃないから、そこは了承して。あとね、大事な事。いらっしゃいませ・が言えなかったら悪いけど辞めて貰うからね。そういう世界だよ」




お店に連れらえて店先で店長と名乗る、恰幅の良い男性に引き渡された。
「鈴木店長、この子よろしくね。綿屋くんて名前。履歴書も渡すから」
へえ、越後地区指導は背が高い。
180あるな、羨ましい。僕は160だ。女子なみ。
「越後地区指導が選んだなら、自分たちは文句もありませんよ。指導します。で、肝心の」
「ああ、話した。『いらっしゃいませ』が言えなければ、解雇でいいよ」
えっ?!
厳しいな、そうなのか。
「綿屋くん、バイト初めてだろ」
「どうして分かります?」
「だって、挨拶しないじゃない」
げっ!
「まあまあ、鈴木店長。最初から教えて見て。綿屋くんの弟さんがうちの顧客なんだ。無下にしないで。手がかかるけど、育つと思うよ」
どう挨拶をすれば良かったんだっけ、追い詰められて頭が真っ白だ。
「綿屋くん、」
越後地区指導が肩を叩いた。
「自己紹介と、『よろしくお願いします』だよ」
「はい、すみません」

「越後地区指導、甘いですよ、大丈夫ですか」
うわ、第一印象が悪すぎた。

「綿屋くんがお店に貢献する気がするけどね。何も知らない子は育てるのに手がかかる、その代わりに新しい知識をまるで水を吸うスポンジのように吸収できる。そこに俺は期待してるんだ。ま、あと容姿が可愛いよね」
「まあ、越後地区指導の仰る通りですが。なかなか、若いからか、少年ですよね」
「店長が気に入ったみたいだ、よかったね、スタッフには挨拶してよ? 今の汚名返上して」
「はい、」うわ、まずかったな。



「そこ『畏まりました』ね。ああ、覚える事沢山だけど、前向きにね。また、顔を見に来る」
あ、行ってしまうのか。そうだ、店舗を回る方なんだ。
じゃあ、今度来る時に、僕は居ないとまずいな。選んでくれたのは越後地区指導だから。

帰り道にコンビニへ立ち寄ろうとしたらスマホが鳴った。うわ、弟かな。面接に行くって話をしたから、結果を聞かせろだな。ぎゃんぎゃん吠えられたからな「兄ちゃんずるい、教えてあげたのに抜け駆けだ」なんて騒いだし。
「もしもし」
『綿屋碧くん? 越後だけど』
「え!」
『今日は面接、お疲れ様。俺が今度お店へ行くまで、首を切られないようにね。俺が選んだから気がかりだ。大丈夫だよね』
「あ、はい! 張り切ります」
『初日は来週だよね。それまで、色々なお店を回って、どんな挨拶や接客をされるか見てごらん。そうしたら身につく。気力だけでは駆け抜けられない道だよ。学ばないとね』
やさしいな。
前向きに行かないと。
「ありがとうございます、やります!」
『よし、また会えそうだ。楽しみにしてるよ。じゃあね』
うわ、まじかよ。
店長の上司だろ、こんな気配りするんだ。ああ、そうなんだ。だから出世してるんだ。
これは、とんでもない事になったぞ。ただお近づきになりたいなんて軽いノリだったけど、期待を裏切れない。また会いたいし。
早速、弟にLINEだ。『買い物につき合えよ。特に買うものは無いけど勉強したいんだ』


体当たりで各ショップを回り、挨拶が基本だと身に染みた。しかも皆が笑顔を惜しまない。
僕が買わないと悟ると、時間が惜しいのか立ち去る。
気位は高い。プライドを持っている。
それにッショップに並ぶ商品を身に着けている。
マネキンだ。
確かに畳まれた服を眺めるより、実際に来ている様は参考に成る。

お店で買いだめしよう。
Tシャツなら1700円くらいだ、数枚買える。

先程から耳にする「1番行きます」何だろう。
お昼時だ。ランチへ行くと言う隠語かな。
「2番、」これは休憩かな、言った人は5分足らずで売り場に戻ってきた。深いなこの世界は。

それに私語はない。てっきり身内で話でもするかと思いきや、だ。
お客で来る時とは視点を変えると参考に成る。
へえ、プロ意識が強いんだ。

僕も、売り場に立てば、プロとして見られるんだよな?
お店の商品を把握だ。
越後さんが教えてくれなかったら、クビだった。

命拾いしたけど、越後地区指導はたまにしか来店しないんだよな。他の店舗も回るんだから。


「いらっしゃいませ」
お声がけはするんだ、側に行くと。
でも、その後には付きまとわない。自由に服を物色出来る。
このフランクな感じも見習いたい。
「お客様、その服はもしや『RPG』の?」
あ、まずかったかな。
急にアグレッシブだ。ぐいぐい来てる。
「あのショップは自分も好きですよ。よく立ち寄ります」
へえ、ライバル視はしないんだ。
敵味方ではなく、共存か。根底を覆されたな。

「たまに見かける黒いスーツ姿の幹部、ご存知ですか。かっこいいし色気がありますよねえ」
ええ、他店まで知られてる。
「立ち姿が粋です。ぐっと惹きつけられます」
分かる。
「あの方は綺麗ですよ、仲間内で話題です」
うわ、確かに派手だよな。

「幾つに成っても手が届かないもどかしさを知りましたよ」

「え、それは」
「声を掛けても、振り返らないんです。あの方は」
そう?
「あれだけ美しいなら人を見下すだろうに、意に添わなうのか、しないんです、でも店内を監視はしますね。その為にカジュアルなショップなのにスーツ姿なのでしょう。威風堂々です、細身で貫録とは」

ああ、そうか。努力されているんだ。

「あの方になら、指導されてみたいですよ。実際、自分も希望したんですけど、不採用でした。人気店ですから機会があれば狙いたいです。あの方、お名前・越後さんですよね。ついて行きたいものです。たとえ手が届かない空の方でも」

思い当たる節があるな。手が届かない方だろう。いよいよ、顔に泥を塗る訳には行かない。



バイトの初日にスタッフへ挨拶し「お手を煩わせると思いますが、日々覚えてお店に尽力します」と話したら「少年のような見た目で、言葉を選ぶんだね」と驚かれた。そうかな。
棚に並べた服を畳み直すと「慣れてる」と、またびっくりさせた。
両親の助けになりたくて身につけたものだ。
ハンガーへのかけ方も「慣れてないと首元から強引に突っ込むのに、捲って中からハンガーを入れて掛けている。経験者なのかな」
いや、襟元がのびちゃうだろ。
家でハンガーを掛ける際に、服の中からハンガーを通さないと、無茶して襟元が駄目になる。
親のしつけのおかげかな、感謝しよう。

お客様が来店された際には「いらっしゃいませ」欠かさない。
少しでも。今日より明日、精進する。
越後地区指導に恥は欠かせない。慕っているから。

期待された想いに応えたい。
あなたに会いたくて、バイトなんて不謹慎だろうけど、しかもなかなか来ない多忙な幹部。
店長や先輩に聞いたけど「大卒スピード出世はあの方が初だよ。全社の注目株」
「普通は7店舗は経験と実績を詰む。その上で、評価されたら駆け上がる階段なんだ」

そうか、やはり、

若いのに店長を経験しただけあるな。
しかし謙遜しすぎ、もしかして他に何か興味のあるものがあるのかな。
地区指導が課長職扱いで、その上に地区長という3県に、またがる教育指導をされる方がおられると聞いたが、もしやそこまで出世をもくろむか。

まあ、あの方ならいけるだろう。
やさしくて穏やか、でもなあ。がんじがらめだ。あの方は承知なのか。自由がない。




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