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都築部長と取引を終えて、販促室で熨斗紙の提示をしている上京の具合を気にかけ、LINEした。
このLINEすら、最近していなかった。
既読が、ない。一気に既読表示になった、これは。
オレは送信されたものを読まずに、ただ上京からと分かるから見ていなかった。
一方的すぎた。
ん、
『祝儀袋は都の色どりシリーズのW105XH185。ご結婚祝いののし付き、鶴の水引だ。1セット3枚入りを1700だ。セット価格は980円』
『結びきりの水引の熨斗は祝いの10本切、金寿厚口100枚入りX2セットを8742円で売った。数量25』

立て続けにLINEが来る、話したいんじゃないのか。本当は。
これ、連打するのも大変だろう? 違うか、上京。
おまえらしくない、強行しないなんて。おまえは社内を疾走する弾丸だろう。
なあ、おい。

オレの立場を気遣い過ぎだ!

オレは確かに部長補佐だ、でもおまえだって課長補佐、
そうだろ、対等のはずだ。
同じ管理職だ、導いたのはオレだが、おまえが支えてくれたから気を張れる。

寂しくさせた。守るつもりが、放置した。
取り戻すぞ、大事な心を。
オレにはおまえしかいないからな! ちゃんと何回でも言う、側に居て見てるから。

LINEしたってことは通話できるだろ、上京。

『どうした生田、落ち合う場所か?』
名乗る前にオレだと分かるの、おまえだけだろ、上京。

『1Fのスイーツ巡りか? 部長に差し入れするんだろ。あまり甘味を与えるなよ?』
おまえ、オレの立場ばかり考えてるよな。
確信したぞ、おまえの上司は課長だ。部長は二の次、オレの上司。

「……会社に戻る前に、寄りたいところがあるけど、いいかな、上京」


昼下がりに出向いた先を見て上京が「はあ? ここは」と驚いてる。そうだよな、覚えてるよ、おまえなら。
「おまえと初めてコンビを組んで出向いた取引先だ。見た感じ、今のショッピングモールよりはるかに小規模だし、あえて言うならみすぼらしい。でも、ここからだった」
あのときは管理職でもなく、駆け出しだ。
上京は駆け足で業績を上げて、看板。オレは叶わない賢さと世渡り上手。
稼ぎ頭をくじいた責任を痛感した。
「側で見てた、おまえもオレを。でも、オレは見てたつもりだった、」
巻き返す。
何としても。
「生田は全社を担うんだ。当然だろ、俺を多少見なくても分かるぞ、目を伏せるなよ。どうした?」
「気を張るなよ、おまえが花を抱えるなんて初見だ」
「たまたま貰ったんだ。部屋に飾ろうかなと思って。生田の疲れが癒せるかなと。高貴な生田に似合う」
「だから! 上京、おまえらしくないんだよ!」
振り回せばいいだろ、ずっとそうだったはずだ。
「上京、オレは確かに全社を担う立場だ。でも、おまえを抱える覚悟は、余裕はあると断言する! もう寂しい想いを抱えるな、何でも言え、捕まえろ、来ないならオレからおまえを捉えに行くぞ!」
上京が凝視するので、そのまま肩を抱いてキスをした。
シートベルトがもどかしいので、一旦離して、ベルトを外すと「生田、おまえを独占するとやばいのは俺でも分かるが、いいのか? おまえは全社が注目する美麗な部長補佐だぞ、」
まだ言うか、
らしくないんだ、ここまでオレは上京を辛くさせて。放置したのか、
自分が許せない。この職位はおまえのおかげなのに。
「上京、何が欲しい? 側に居るからいつでも言えよ。何でも叶える。その時間を作る。オレにはおまえが最優先課題だ。……この先、確定した案件はまだ提示できないが、」
「俺を見て、話しをしてくれたらいいよ? 別に先は。一緒に上へ行くんだろ? 頼るぞ、なあ生田!」
「上京、我儘言うぞ。職位より、おまえの側の方が重要だ。如何なる大企業を落とすより、おまえが知りたい、仕事より、趣味の話とかしたい。オレを癒すのはおまえしかいないんだ、全力で来い!」


「……スーツの着替えは、あるんだったな、貢物が」
「ああ、何枚でもな、」
上京はスーツではない、社風で私服が許されて、好んでギンガムチェックのシャツを着ている。この柄なら何処の店でも着替えが入手可能。帰りに寄ればいいし。
「生田、ご無沙汰過ぎて忘れるところだった、」
身を乗り出して圧し掛かると唇を吸った。上京がもどかしく舌を絡めてくるので、随分待たせたと理解した。狂おしい夜を過ごしたか。オレが側に居ながら、抱かれたいとか抱きたいとか思いながら遠慮したか。
「……上京、脱がしていいよ、オレをいいようにしても許可する。おまえなら、全部やる」
「いつも嫌がるくせに、どうした?」
「おまえの心をほぐす手段が未だに見つからない、探ってくれないか? 上京なら分かると思う」
「は、生田、扇情的。倍増してる、百合の香りでやられたか、」
「……少し、らしくなったか。追い詰めると己を取り戻すのは似てるかな。でも、オレを蹂躙していいのは上京だけだよ。でも、好きだから、抱きたい。おまえの全部が欲しい、だから何回でも言う。今度はオレがおまえを口説く」

「上京の今もこれから先も、全部さらう。おまえが好きだ。惚れたからな、我儘言え、全力でおまえを守る! この先も、だ。職位に負けるな、食らいつけ」
上京が腕を伸ばして抱きついた。この体温が久しぶりに思えて、心の距離を痛感する。
「おまえなら許可するよ。……おいで、好きにしたらいい。おまえには敵わない」
おまえをオレの香りで包んであげる。


シートを倒すとそのまま圧し掛かった。流石に狭いが。上京なら小柄だから無理が利く。
「生田、外から丸見え、」
「ああ、隠してやるから。オレが」
体で包めば平気だろ。
「おまえが晒されるのは嫌だな。独占したい、」
「サンルーフつける、許可する?」
「もどかしい、生田」と腰に手を回すとシャツを引き上げた。晒された腰を撫で上げる指に欲情が突き動かされる。
「上京、そこじゃない。知ってるよな。おまえしか知らない」と顔を近づけるとネクタイを緩めてシャツの襟を開いた。貪るように喉ぼとけに食らいつく。
「ん、」
流石にくるな、
ここが弱いから。
上京はどうなんだ、そこを触ると固い。早く処理してやらないとボトムを買わないといけなくなる、まあいいけど。
ああ、鎖骨まで舐めてる。前戯が長いと焦らしてしまう。
「生田、高貴な香りがする、」
「おまえのせいだろ」
頬が紅潮してる、このまま押すか。
「ん! そこはまだ」
「暴れるな、何処かで肘を打つだろ。……指でもいい? 場所はまた改めて提示する。部屋でもいい?」
「……生田を抱きたい!」
「抱かせない!」
そこは譲らん。悪いな、上京。




「車内でするのもきついけど、着替えるのもおっくうだ。二度としない!」
「ああ、オレが悪いね」
何と言えばいいやら。欲情のままに盛り、襲った・襲わせた気がしないでもないが。
「悪くないぞ?」
「ん?」
「生田が好きでよかった」
「そう、ありがとう」
キスどころか抱くのも久しぶりとは、オレはきちんと上京を愛していたのかな。
済まない気持ちでいるが。
車を運転しながら、結婚式場をみつけた。「立ち寄る?」と上京に聞くと「興味ない」そうですか。
先の事、早く決めたい。
少しでも安心させてあげたい。
駐車場に着いて車を降りると、上京が寄ってきて見上げた。こら。可愛い仕草を止せ。
「まさにだ。生田よ、立てば芍薬・座れば牡丹・歩く姿は百合の花」
頭痛がする。
「美麗な男だ。独占したい」
「上京の、だよ。だけど、言うぞ。毎日は好きなようにはさせない。オレだっておまえを抱くからな、今日はたまたま好きにさせた。入れさせないけどな、そこは譲らない!」
「威厳が漂うな、会社に戻ると」
「それも、百合を象徴する言葉だよな。買い被りだ。何年、一緒に居ると思う」

いつか祝福されたい。全社を担いながらも上京と幸せに成りたい、そのときはカサブランカを贈るかな、柄じゃないけど。百合を抱えて疾走したくらいだ、意外に花が好きかも知れない。
意に添うか、オレはかなり甘くなった。大事なものが出来ると強くなれるしもろくなる。
全てを捧げてしまう程、どうやら惚れた。


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