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結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑨




数分後 路上


悠斗の病室を後にした結黄賊たちは、計画した通りカラオケへと足を向かわせる。
「チーム決めは、適当にじゃんけんでもして二つに分かれるか? ユイと藍梨さんは、二人で一つとして・・・」
「あ、じゃあ俺真宮と一緒になる!」
「え・・・? あぁ、分かった」
御子紫の発言を遮るよう椎野が元気よく言葉を発し、自分の意見を主張した。 
今みんなと真宮の間には壁があり、互いに気まずい状況でいるのは確かなのだが――――そんな彼らの気持ちを察したかのように、自ら真宮と一緒のチームになるよう発言した。
その意見を戸惑いながらも受け止める御子紫に対し、結人も続けて口にする。
「じゃあ俺と藍梨も、椎野と同じチームで。 伊達もこっちに来るか?」
「ッ・・・。 別に、いいけど」
「なら俺たちは決まり! 他は一緒のチームでいいだろ、人数も合うし」
結人がこの場を仕切り、みんなをまとめる。 結人も椎野の発言を聞いて彼の心情に気付き、みんなに気を遣うようにしてそう言葉を紡いだのだ。
伊達が言葉に詰まったのは藍梨と一緒のチームだからということであり、真宮に対して特別な思い入れがあるからというわけではない。
結人はこの中で一応部外者である彼を、わざと一緒のチームになるよう選んだ。 ここで仲のいい結黄賊の仲間を入れるよりも、真宮の居やすさを第一に考えて。
その結果チームは、結人、藍梨、椎野、真宮、伊達。 御子紫、コウ、優、北野、夜月となった。 

そしてカラオケへ着き、それぞれが部屋の中へと入って早速選曲を開始する。
「まずは一曲目、文化祭のユーシで踊った曲からいこう! はい、ユイマイクパス!」
「え、どうして俺から・・・」
この場は椎野が盛り上げてくれ、特に問題は起こらなく大丈夫だった。 

それからはあっという間に時間が過ぎ、カラオケを開始して約一時間経った時のこと――――
「ユイ」
「ん?」
先程まで向かい側にいた真宮が、いつの間にか今結人の横にいる。 そんな彼に『話がある』と言われ、椎野たちに一言を言って二人は部屋を後にした。
ドリンクバーのあるところにはソファーが置いてあり休憩所となっているため、そこへ結人たちは隣に並ぶようにそっと腰を下ろす。
わざわざ真宮が結人をみんながいないところへ呼び出したということは“これから何か重たい話でもするんだろうな”と予測していた。
そのせいで自然と緊張感が張り詰める中、天井にあるスピーカーから流れるBGMはこの場の雰囲気を少しでも和ませようと、一度も止まることなく流れ続けている。
そして――――そんなBGMの音色には意に介さず、真宮は結人に向かって突然話を切り出した。

「俺・・・副リーダーを、辞めたいんだ」

「はッ・・・?」

突然そのような言葉を放した真宮の方へ顔を向けると、彼は目を合わさずに俯いたままでいる。
―――真宮・・・お前は今、何を言っているんだよ。
気持ちは焦るばかりだが、ここで感情的になってしまっては駄目だと思い、平然を装いながらも言葉を返した。
「それは・・・本気か?」
真宮はそれを聞くと力強く頷き、なおも俯いたまま続けていく。
「俺は、みんなのことを守れなかった。 いや・・・もっと言えば、大切な仲間を傷付けた。 だからみんな、俺のことは“副リーダーとして相応しくない”と思っているはずだ」
「でもあれは、当然のことをしただけだろ」
結人がもし真宮の立場でいたのなら、自分も彼と同じことをやりかねない。 だから真宮をフォローするよう、そう言ったのだが――――
「それに、ユイには悪いと思っているけど、俺はこれ以上副リーダーとしての責任を負うことができない。 
 ユイの方がすげぇ責任を負っているのは分かっているけど、俺はもう・・・無理なんだ。 みんなは、俺のことを信じてはいない」
「・・・」
この場を耐えるように、両手を力強く握り締めながら今の気持ちを結人にぶつける。

「それに・・・今、凄く苦しいんだ。 みんなが無理して、笑いながら俺に接してくれる・・・。 それが、辛いんだ」

「ッ・・・」
―――真宮も、気付いていたのか。
―――・・・それもそうか。 
―――そういう性質を持っているんだもんな。
―――でも俺は、真宮がいないとやっていけねぇ。
彼の気持ちを理解しながらも、副リーダーを辞めるということには反対する結人。
「真宮、もう一度考え直せ」
「だからこれ以上! みんなには気を遣わせたくないんだ!」
「ッ・・・」
突然発せられた大きな声に、驚きのあまり言葉を詰まらせる。

「チームには、残りたい。 だけど・・・副リーダーは、降りたいんだ。 もう・・・みんなの辛い思いを知ってしまうのは、苦しいんだよ」

そう言って、真宮は険しい表情をしながら胸元の服を力強く掴んだ。 まるで自分の今の苦しさを、仕草によって現しているかのように。
だが結人は、何も返すことができなかった。 本当は辞めてほしくないのだが、彼にこれ以上苦しい思いはさせたくない。
そんな複雑な気持ちが葛藤し合う中――――突如一人の少年が、彼らの前に姿を現した。

「辞めたいっていうのは、本当か」

「ッ、椎野・・・! どうしてここに・・・」
椎野は結人たちよりも少し離れたところでそう口にした。 結人が突然の登場に戸惑いながらも言葉を返すと、彼は真剣な面持ちのまま二人のもとへ近寄り更に言葉を返す。
「トイレへ行こうとしたら、声が聞こえてきたんだよ。 そういう話、大声で話すもんじゃねぇぞ」
「悪い・・・」
いつもと違う雰囲気を纏った椎野にかしこまりながら謝罪をすると、彼は結人と自分で真宮を挟むようにしてソファーに腰を下ろす。
そして座って早々、真宮に向かって遠慮ない言葉を口にした。
「まぁ、真宮はそう思っていると俺は知っていたよ」
「・・・?」
「みんなは無理して、真宮と接しているって」
「・・・」
「ッ、おい!」
その鋭い一言を聞いて真宮が一瞬顔をしかめると、結人は彼をフォローするように何かを言おうとするが――――何も言わずに椎野は片手を上げ、発言を制してきた。 
そして、真宮に向かってゆっくりと語り出す。
「それでもみんな、真宮のことを心配して、ちゃんと考えていたぜ。 ・・・あの事件以来、ほとんどの奴が俺に相談してきてさ。 
 『真宮に普通に接しようとしても、どうしても気まずくなる。 でも真宮のことだから、俺たちのこの気まずい気持ちとか気付いているかもだよね。 どうしよう』って」
「・・・」
黙って話を聞いている中、椎野は言葉を綴り続ける。
「それだけみんな、真宮のことを思っているんだ。 でもみんなの話を聞く限り『真宮は副リーダーには相応しくないから辞めてほしい』とか、そんなことは言っていなかった。
 ・・・それでも、副リーダーを辞めたいと言うのか?」
真宮の気持ちを変えさせようと、みんなの気持ちを代表してそう言うが――――彼の意志は変わらなかった。 真宮はその問いにゆっくりと頷き、言葉を返していく。
「俺にはもう、副リーダーという責任を持つのは・・・無理だから。 それに、次に副リーダーを任せたい奴も俺の中では決まっている」
「それは誰?」
すぐ返された椎野の質問に、彼はある一人の少年の名を小さな声で口にした。

「・・・夜月」

―――夜月・・・か。
そして彼を選んだ理由を、簡潔に説明していった。
「俺の次にユイのことをよく知っているのは、夜月だと思ったから。 ユイも自分のことを知ってくれている人の方が、やりやすいだろ?」
「・・・」
今度は結人から椎野の方へ視線を移動させ、続けて言葉を放つ。
「椎野も考えたんだけど・・・ほら、俺と少し似ている性質を持っているからさ。 
 でも椎野はお調子者でチームのムードメーカーだし、副リーダーというよりそっちの役の方が向いているかなって・・・」
「はぁ!? ・・・まぁ、いいけどなッ! 俺はみんなをまとめる力とか、そんなものは全然ねぇしッ!?」
「・・・悪い」
その発言に対して大袈裟なリアクションをしながら言葉を返す椎野に、真宮は真剣な表情で謝りを入れる。
そんな真面目な反応を見て、椎野は慌てて修正を入れた。

―――真宮は副リーダーを辞めたい、か・・・。
―――真宮とは小さい頃からの仲で一番俺のことを知ってくれていたし、藍梨とも仲よくて副リーダーとしては最適だと思ったんだけ、ど・・・あれ?

一人考え込んでいると、ふと結人は大事なことを思い出す。
「おい椎野! 藍梨は今どこにいる?」
「え、藍梨さん? 部屋の中にいると思うけど」
「てことは今部屋の中には藍梨と伊達、二人きりになってんじゃねぇか! あの伊達が変なことをやらかすうちに、部屋へ戻るぞ!」
「はいはーい・・・。 あ、そうだ、俺トイレへ行かなきゃ! さっきからずっと我慢していたんだよねー」
「だったらさっさと行ってこい! ったく・・・」
小走りでトイレへ向かって行く椎野の背中を見つめながら、結人は軽く溜め息をつく。 
そして今もなおソファーに座って彼の後ろ姿を見つめている真宮に、優しく言葉を投げかけた。
「真宮。 お前の気持ちは、ちゃんと受け入れた。 だけど・・・もう少しだけ、考え直してくれ。 それでも答えが変わらないようだったら、その意見を取り入れるから」
真宮がその言葉に頷くことを確認し、結人は彼を連れて部屋へ向かって歩き出す。 

―――真宮が選んだ次の副リーダーは、夜月・・・か。

夜月に対しては不満などないのだが、結人は心のどこかで少し引っかかるような感じもした。


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