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70話 要塞を体現する者

 思わぬ所から飛び火して、しょんぼりしているメッサーさんが膝を抱えて座っている。その間にレン君も装備を整えて準備万端。

「ほらほら、メッサーさん、行きますよ! 国境越えたらイングおにいに会えますから!」

 ガバッと顔をあげて、ソッコーで復活しやがったメッサーさん。

「そうだな! 急ごうか! 邪魔する奴は魔物だろうが帝国だろうが、微塵切りにしてやる!」

 全くもう。最初から素直になればいいのに。それにしてもイングおにい、今までずっと独身だったのは、メッサーさんを一途に想ってたからなのね。ちょっとカッコいいじゃん。時間も距離も引き離せない程の恋心だなんて……
 ……やっぱり爆発すればいいと思うわ!

「あー、シルト。君にもその内いい人が現れるさ……多分」

 慰められた!? むう……
 おっと膨れてる場合じゃ無かった! 魔力視に見えるは、何者かの魔力。

「何かいます! 数は……四、五、……六体!」

 カサカサと、落ち葉や枯れ枝を踏みしめる音を立ててはまずいので、全員に停止を促す。野生の動物とかならマシなんだけど……人間だったら面倒が起きそうね。

「見つかってますね。こっちに近付いてきます……匂いかな?」
「ああ、あんなに美味しい肉を焼いていたら、匂いに釣られて来る輩もいるかも知れないね」

 メッサーさんが苦笑しながら言った。でもそれはもう、仕方がない。あんなに美味しいドラ肉が悪い。

「でも匂いを嗅ぎつけて来たのなら、人間の可能性は低いね」

 なるほど。お姉ちゃんの言う通り、人間の嗅覚が嗅ぎ付けられる距離じゃないか。うん、野生の獣か魔物かな。

「あれ? 包囲されちゃいました。こういう狩猟っぽいやり方は、狼とかそういうのですかね?まあ、ちょっと面白くないので包囲網を崩して来ます。姫様をお願いします」

*****

 パーティの中で、一番年少と思われる少女がどうやら敵を見つけたらしい。俺にはまったく分からないが、包囲されているとの事だ。少女、と言っても、俺と同じくらいの年齢に見える女の子がどれほど強いのか分からないが、包囲網に穴を開けると言い放ち、一人敵に向かって進んでいくのを、他のメンバーは止めようとはしなかった。

「お、おい、俺も……」

 思わず俺も助勢を申し出ようとした。

「まあいいから見てなよ。君も姫様も気絶してたから分からないと思うけど、いい機会だから、あの子の戦闘を見ておくといいよ。それに君は姫様から離れちゃダメでしょ!」

 少女一人に戦いを任せきりにするなんて出来るか。そんな俺を押し止めたのはスレンダーな赤髪美人だった。こっちの世界は美人が多いけど、この人は造形が整いすぎていて人間じゃないみたいだ。
 おっと、見とれている場合じゃない。言われた通りで、俺達はオーガとの戦闘で不覚を取り、気を失っていた為この人達がどうやってオーガを倒したのか分からない。

「そうだったな……」

 一言だけそう返す。この人達には助けられた恩があるけど、今日出会ったばかりでもある。もしもの事があれば、この人達を囮にしてでも、お姫さん連れて逃げさせてもらうさ。

 ………

 なんて、さっきまで考えていた俺を殴ってやりたい。

 敵はオークが六体だった。普通の奴より強い上位種という奴らしく、指揮官らしき奴は結構まともな装備をしていた。作戦っぽい行動をしてきたのは指揮官がいたせいか。
 お姫さんの話では、そのオークも中々手強い魔物らしく、一般の雑兵では勝ち目がないらしい。その手強いオークをだ。

 ――撲殺。

 見た目は割と可愛い少女がオークの頭をぶん殴る。オークの攻撃を盾で受け止めると何故かオークは硬直するようだ。その隙にぶん殴る。

 ――一撃必殺。

 一発で頭を潰され絶命するオーク。少女を手強いと見たか、散開していたオークが少女に殺到していく。この状態でも赤髪美人と青髪巨乳美人は涼しい顔だ。
 盾で防御しながら反撃する重戦士タイプかと思ったが、オークに囲まれても軽いフットワークで避けるわ躱すわ。

 凄え。

 オークが一撃入れると、次の瞬間にはカウンターで頭を潰される。攻撃=即死。
 確か、彼女達のパーティはフォートレスと言う名前だったか。
 ❘フォートレス《要塞》。そうだな。その通りすぎて笑えて来た。要塞を攻略するには、多大な犠牲が必要だって事か。
 今まさに、オークは難攻不落の要塞に、無謀な突撃を仕掛けてしまった己の愚かさを噛みしめているかも知れないな。

「どうだい?」
 
 赤髪美人がニヤリとした笑みを浮かべながら聞いて来る。ちくしょう。

「……驚いた。んで、ちょっと感動もしてる。お姫さんの身体を治し、俺の腕を再生させた人が、ガチンコの殴り合いであそこまで強いだなんてさ。俺達異界人なんかより、よほど勇者だよな」

「1級冒険者とは、皆様あのようにお強いのですか?」

 姫さんがそう尋ねた。
 うん。俺は宮殿で騎士や魔法使いに修行を付けて貰ってたけど、冒険者の実力というのは分からない。聞けば、青髪巨乳さんが特級、赤髪ひんにゅ……美人さんが1級、あの少女も1級だそうだ。

「冒険者のランクと強さは必ずしも比例しないさ。例えば、特級の私と1級のシルトが戦ったら、私は手も足も出ずに完敗だろうね」

 特級の青髪さんがあの子に負ける? やっぱすげえんだな。
 それから、ずっと気になっていた事がある。

「なあ、あんた達のパーティが、俺達を辺境伯のところまで護衛してくれるのが今回の契約だよな? 契約延長は可能か? 可能なら報酬はどれだけ必要だ?」

 俺はリーダーの青髪をじっと見る。同じ事を考えていたであろう姫さんも同じく青髪の答えを待っているようだ。

 おそらく、このパーティが今後も行動を共にしてくれるなら、姫さんはどんな報酬でも払うだろうな。それこそ自身の身を犠牲にしても。そう、俺達にはあのシルトという少女の力がどうしても必要なんだ。

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