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結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑤




数十分後 伊達の家 リビング


「結人くん! 今日はハンバーグよ、ハンバーグは好き?」
「はい!」
「よかったわ。 お父さんはもう少しかかるみたいだから、先に食べてましょう」
そう言って、伊達のお母さんは食器が並べてあるテーブルへと向かい椅子に座る。 結人も促され、伊達のいる隣に腰を下ろした。
伊達のお母さんが作ってくれた温かくて美味しいご飯を口に運んでいると、思わず笑みがこぼれる。

―――やっぱり、人が作ったもんは美味いよな。
―――外食抜きで人が作ったものを食ったのは、キャンプへ行った時以来かも。

一ヶ月以上昔のことを思い出しながらこの時間を楽しんでいると、伊達のお母さんが突然結人にある話題を振った。
「結人くんって、本当にカッコ良いわよね。 モデルとかにはならないの?」
「モデルっすか? そんなの、俺には似合わないですよ」
苦笑しながら返すと、彼女は視線をそらし何かを考え込みながら小さな声で呟き出す。
「あれよ、あれー・・・。 ほら、何とかスクールっていう・・・」
「ラブスクですか?」
「あ、そうそれ! 年齢的にも丁度いいし、オーディションでも受けてみればいいじゃない」
ラブスク。 正式名称、Love Love School。 若者向けのファッション雑誌だ。 当然結人も毎月購入しており、ファッションなどを参考にしていた。
「お母さんもその雑誌、読んでいるんすか?」
「買っているのは直樹の方ね。 直樹が読み終えた後、私が借りて少し読んでいるくらいなんだけど。 絶対似合うわよ、モデル!」
伊達のお母さんにモデルになることを猛烈に勧められるが、結人は苦笑を返すことしかできなかった。

―――俺なんかが載ったとしても、人気が出ないことは目に見えているからなぁ。
―――それに藍梨のことや結黄賊のことを考えると、現実的にも無理があるし。

いつの間にかモデルの話に熱が入り、伊達のお母さんの話を聞き丁寧に返事をしていると、突如リビングのドアが開きそこから伊達のお父さんが現れた。
「あ、こんばんは! お邪魔しています」
話があまりにも盛り上がっていたため玄関のドアが開く音なんて聞こえず、突然の登場に慌ててその場に立つ。
そんな結人を見て、伊達のお父さんは手に持っている箱をこの場にいるみんなに見せながら、笑顔で言葉を発した。
「いえいえ、ゆっくりしていってね。 今日、結人くんの誕生日なんだろう? おめでとう。 ケーキを買ってきたから、後でみんなで食べようか」
「あ・・・。 ありがとうございます」
こんなにも気を遣ってもらえるとは思ってもみなかった結人は、戸惑いながらも心の底から感謝の言葉を述べる。
それからはお父さんも交ざり食事をし、食事後にはケーキを食べながら談笑した。 

そんな楽しいひと時を過ごし、結人は伊達と一緒に部屋へと戻る。
一緒にゲームをしたりテレビを見たりして過ごしていると、もうすぐ時計の針が21時を指そうとしていた。
「そろそろ風呂に入るか。 着替え、何でもいいか?」
「あぁ。 悪いな」
そう言って、伊達はクローゼットの方へ歩いていった。 結人はその間彼の部屋をキョロキョロと見渡していると、ふとあるモノに目が留まる。
それを少し睨むような目付きで数秒見つめた後、小さな声で言葉をかけた。
「伊達。 お前は・・・今藍梨のこと、どう思ってんの?」
「・・・は?」
彼はクローゼットの中を漁りながら、振り向きもせず適当に返す。 それに対し結人は、彼の方へ目を向け淡々とした口調で口を開いた。
「伊達は今でも、藍梨のことが好きなのか?」
「ッ・・・。 どうしてそんなことを聞くんだよ」
漁ることをいったん止め、顔だけを結人の方へ向けながらそう聞いてきた。 
そこで目が合ったことを確認し、結人は先刻見ていた――――伊達のスクールバッグへ視線を移動させながら、更に言葉を紡いだ。
「あのバッグに付いているストラップ・・・。 藍梨とお揃いのヤツだろ? 今でも藍梨、バッグに付けているからさ」
「・・・外してほしいなら、素直にそう言えよ」
「いや、別に外さなくていいんだけど」
そう言うと、クローゼットの方へ視線を戻し再び中を漁り出した。 その行為を見つめながら、静かな口調で言葉を発する。
「藍梨には、自分の気持ちを伝えなくていいのか?」
「伝えない」
「・・・お前は、それでいいのかよ」
そう口にすると、伊達は急にその場に立ち上がり結人の目の前まで足を進めてきた。 突然の行動に少し驚いていると、彼は少し頬を赤らませながら強い口調で言葉を放つ。

「藍梨が好きな気持ちは変わんねぇけど、気持ちは絶対に伝えない! 伝えても振られることは分かっているし、俺が伝えて藍梨に困られてもそれはそれで困る!」

「そうだけど・・・。 何か、申し訳ないっていうか・・・。 藍梨がもし伊達の方へ気持ちがいっちまっても、俺は止めることできないだろうし・・・」

「だからッ! 俺はお前ら二人のカップルの方が好きなんだよ! 藍梨がユイに取られても、嫌な気はしねぇんだ。 他の知らない奴に藍梨を取られるよりかは、断然マシ」

「ッ・・・」

「それに俺よりもユイの方が藍梨を守れる力がある。 だから、ユイなら安心して藍梨を任せられるんだ! 分かったらさっさと風呂へ行け! 
 ちゃんと、お湯にも浸かって来いよ!」

最後の言葉を言うと同時に、結人の胸元に着替えの服を思い切り強く押し付けてきた。 それを受け取りながら、苦笑した表情で言葉を返す。
「分かったよ。 何か・・・ありがとな」
「・・・」
結人は先刻伊達に風呂場の場所を教えてもらったので、一人で部屋を出てそこへと向かう。 本当は彼に謝りの言葉を言いたかったのだが、そこはあえて礼の言葉を述べた。
そうした理由は特にないが、強いて言うならば――――伊達をこれ以上感情的にさせないため――――それと、同情しても迷惑にしかならないと思ったからだ。

風呂場へ着いた結人は、服を脱ぎ身体を洗い、湯船にゆっくりと腰を下ろした。 そして一人になったところで、今日一日を振り返る。
と言っても――――結人の頭には夕食前に伊達と話した、過去のことしか思い浮かばなかったのだが。
あの時はつい過去のことを話してしまったが、結人の心の中ではスッキリしていない部分がある。 そんな中、突然ある嫌な考えが頭を過った。

“今は夜月と仲のいい関係を保っているが、それは表向きなだけなのだろうか”

―――・・・まさか、な。
嫌な考えを無理矢理削除するよう、濡れている髪を左右に振る。
―――・・・もし夜月がまだ俺のことを、偽善者だと思ってんならそれでもいい。
―――つか・・・俺は本当に、偽善者なのか。
―――今までみんなのことを大切に思って行動してきたこと、それらは全て・・・ただの表向きだったっていうのかよ。
結人は湯船の中で体育座りをするよう、腕で足を抱え込んで小さく丸まった。 
―――夜月の言っていること・・・本当に、当たっているのかもしれないな。
結黄賊の仲間であるみんなの顔、彼女である藍梨の顔、そして今同じ空間にいる友達である伊達の顔を思い出しながら、溜め息をついて一つの答えを出す。

―――俺は・・・自分を守るために、みんなのことを利用してんのかな。


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