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69話 逃避行には準備が必要

「帝国があるこの地にかつて魔王が出現し、人間を蹂躙したのは事実のようです。それまでは存在しなかった魔族系の魔物の大群を引き連れて。帝都の禁書庫にある古文書に記述がありました。それを多くの犠牲の上に作り出された勇者が打ち倒したのですが……」

 姫様の説明に引っ掛かりを覚える。そう、そこよ! 魔王を倒したのなら、わざわざ異界から勇者召喚なんてしなくても。

「人間がいくら研鑽しようとも、至る事の出来ない境地の勇者の強さに、父は心を奪われてしまったようです。そして人は、力を手に入れれば行使したくなるでしょう。父は勇者が完成(・・)するまで異界人の召喚を辞める事はないと思います」

 という事は、魔王を倒すなんてお題目は真っ赤な嘘で、手に入れた勇者を使って世界征服でもするつもり? それじゃあ皇帝自身が魔王じゃない!

「姫殿下は、周辺国から帝国に圧力を掛けて、異界人の召喚を止めさせたいのかな?」

 メッサーさんからの問いに、姫様は力なく首を振った。

「いいえ。そのような事で止まる父ではありません。何しろ魔王討伐の為、という名目があるので。むしろ周辺国には、帝国の侵攻に備えていただきたいのです。力を手に入れた父は、いずれ必ず周囲に牙を剥きます」

「だが、勇者の器はまだいないのだろう?」

「異界人そのものが強力なのです。このまま異界人の数が増えたら大きな脅威となります。スキルを奪う事をせずに戦力として抱え込み、近隣諸国に侵攻を始めたら……」
 
 そこまで言うと、姫様はぐっと拳を握りしめ、唇を噛み締め俯いた。

 ははぁ、異界人をたくさん召喚して、鍛え上げたら短期間で強力な兵士が、ううん、兵器がお手軽に調達出来ちゃうってスンポーな訳ね。こんな事をする皇帝さんは異界人を使い捨ての道具としか思ってないでしょうからね。うがぁ! なんかすっごくムカついてきました!

「姫様の言う通りなら、王国に知らせておいた方がいいだろうけど、だからって事態の解決にはならないよね? それどころか、国から出る事すら難しいよ? 街道から少し山に入ったくらいでオーガの群れと出くわすんだ。山中を進んで国境を超えるのもかなり危険だと思うけど?」

 お姉ちゃんの指摘に姫様はぐぬぬ、と唇を噛みしめる。そんな姫様を痛ましそうな視線で見つめるレン君。レン君だって、お姉ちゃんの言いたい事は分かっているんだろう。だけど逃亡中の自分達に出来る事は余りにも少ない。そんな感情があたしにまで流れ込んで来る。

 そんな二人を横目に、お姉ちゃんは魔法鞄から何やらぽいぽいと取り出しながら、明るい声で励ますように、姫様に話し掛けた。

「ボク達はただの冒険者だからね。国王に会いたいとか言われても困っちゃうけど、幸いにも辺境伯閣下には繋ぐ事が出来るかも知れないかな。ね?メッサーさん?」
「そうだね。一旦辺境伯領に戻ろうか」

 あ!、アインさん達に繋いでもらうのね! それに領主様はあたし達に指名依頼をして来たし。
 まあ、異名持ちのあたし達が、ただの冒険者っていうのもアレだけど。

 明らかに、鞄の容量以上のモノを取り出しているお姉ちゃんにびっくりしすぎて、お姉ちゃんとメッサーさんの言葉が頭に入っていかないのか、姫様がポカンとしている。
 お姉ちゃんが出しているのは、あたし達がパーティを組み始めたあたりに使っていたオークキング素材の装備一式と、旅に必要な小物とかいろいろ。

「姫殿下とレン君には、このまま山中を移動して国境を越えてもらう。私達が護衛しよう。国境を越えたら、辺境伯閣下に会いに行けるように手配する。しかしその為にはまずは準備だね」

 改めてメッサーさんに言われて、ようやく姫様は理解したみたい。希望が見えた。そんな顔だ。

「レン君にはメッサーさんのがサイズ合いそうかな。姫様にはシルトのが大丈夫そうだね。お姉さん達の使用済みだけど我慢してね? 性能は保証するし。それから、レン君はこっちの剣を使ってみなよ?」

 なんだか『お姉さん達の使用済み』のところでレン君の顔が赤くなったのはなぜ? 後で聞いてみよう! あ、お姉ちゃんがレン君に渡したのはオークキングの大剣。迷宮産の武器は迷宮に潜る度にゲットしているので予備品としていくつか保管しているのがあるんだ。あたしのメイスもあるよ!

「この剣は……すげえ。今使ってるやつとはモノが違う……」

 確かにね。魔法を纏わせて使えるっていう、ロマンが詰まった剣だもの。

「それはね、これと同じ事が出来るんだ」

 お姉ちゃんが『紅蓮』を持って、赤い刀身に炎を纏わせる。あ!、レン君がキラッキラの目で見とれてる! すぐさまレン君が真似し始めた。

「おお!? すげえ!! 見てくれよこれ!!」

 大はしゃぎね……確かに、刀身にパチパチと紫電を纏わせている剣とは打ち合いたくないし、盾で受けるのもイヤよね。
 ……て言うか、レン君も魔法剣士になるのか。いいな。かっこいいな。あ、レン君じゃなくて魔法剣士がね。

「さて、姫殿下もいつまでも破れたドレスと間に合わせのサンダルじゃあ、これからの山越えは大変だ。着替えを済ませていただこう。レン君、周辺の警戒をしてくれるかい? ちなみにこちらを覗いたら切り刻む事になるので、気を付けるのがいいだろう」

 そう言ってメッサーさんが、風魔法を飛ばして大木を一本斬り倒した。凄いなあ。あ、威力もそうだけど、魔力を収束させるスピードが前より格段に上がってるの。特級になってからも鍛錬を欠かさないんだよね~。レン君、ガクブル状態で哨戒任務に飛び出して行きました。クス。

 着替えのついでに、姫様は栗色の豊かな髪をばっさりと切り落とした。邪魔にならないショートボブ。わぁ、きれい。『お姫様』の雰囲気がどこかに行ってすごくシャープな感じになったのね。
 そこへレン君が戻って来る。なにか期待している目でレン君を見つめる姫様。

「髪、似合うじゃん。そっちのがいいんじゃね?」

 まあ、ぶっきらぼうな言い方だったけど、変化に気付いて一言褒めるのは合格かしら?

「うふふっ。そうですか? 似合いますか? よかった! レンが気に入ってくれて!」

 あらあら、姫様も嬉しそうに……

「爆発すればいいんだ」
「同意です。お姉ちゃん」

「おいおい、穏やかじゃないな」

「「メッサーさんは爆発して、更にもげればいいんだ……」」

 あたし達姉妹は、プライベートが充実している人達がうらめやましいの!

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