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結人の誕生日とクリアリーブル事件2①




数日後 日中 沙楽総合病院 結人の病室


今日は6月16日、日曜日。 そう――――結人の誕生日だ。 それと同時に、結人が退院する日でもある。 というより、誕生日に合わせてこの日にしてくれた。
そして、同日に退院する者がもう一人。 ――――瀬翔吹優だ。 彼の足は完全に治ってはいないが、松葉杖を使って自力で歩けるようになったため退院することができた。
今日はこの後、結人は悠斗の病室へ来るよう仲間たちから言われている。 彼はまだ傷が癒えていなく、もう少し入院しなければならないらしい。
そのため優は『一緒に退院できるまで俺も残る』と言ったのだが、悠斗は『気を遣わなくていいよ、ありがとう』と言って断りを入れた。

結人は3週間程お世話になったこの病室全体を見渡し、一度深呼吸をする。 誰もいない中、窓から入る風の音だけが結人の耳に優しく届いていた。
―――入院生活、最初は長いと思っていたけど・・・何かあっという間だったな。
―――学校がある日はみんながいなくて寂しかったけど、これでまたみんなと一緒に通えるんだ。
―――それにこの病室でも、結黄賊としてみんな集まって・・・話し合いとかもしていたっけ。
つい最近起きた出来事を思い出しながら、結人は奥の方へ足を進める。 そして外から吹いてくる風を優しく切るように、ゆっくりと窓を閉めた。
―――またいつか事件を起こしてこの病院には世話になるかもだけど、そん時はまた、よろしくな。

―コンコン。

閉め終えると同時に、風の音と入れ違いになるようノックの音が耳に届いた。 それに対し返事をすると、廊下の方から声が聞こえてくる。
「ユイ、入るぞー」
許可を得ながらドアを開けた少年に向かって、結人は彼の方へ足を進めながら言葉を口にする。
「何だよ御子紫。 俺は一人でも大丈夫だって」
「いやー、荷物だけは持ってやろうと思ってな? ほら、入院生活も長かったわけだし荷物もそれなりに多いだろ」
そう言いながら御子紫はベッドの近くまで行き、バッグを手に取った。
「一つは俺が持つよ」
「いいって。 今日は特別」
優しく微笑みながら言われると、結人はその優しさを素直に受け止め礼を述べた。 そして今までお世話になったこの病室を後にし、悠斗の病室へ向かう。
特に話題も思い付かなかったため、仲間である一人の少年のことについて尋ねてみた。 この質問を彼にしてもいいのかと迷ったが“大丈夫だろう”と、信じて。
「なぁ、御子紫。 真宮は・・・最近どうなんだ?」
恐る恐る聞くと、御子紫は笑いながらこう答える。
「真宮? あぁ、相変わらずだよ。 俺たちと喧嘩もしていないし、仲間外れにもなっていない。 ・・・そう、いつも通りさ」
「・・・そっか」
そう、真宮とみんなの関係は、今でも崩れていない。 互いに少し気まずいところがあるのかもしれないが、仲間としての繋がりは保てていた。
いつかこの気まずい関係から、前のようにいいものに戻れたらいいのだが。 そう思っているのは結人だけでなく、きっとみんなも願っている。
「お、ユイユイー! こっちこっちー!」
悠斗の病室が見える廊下へ足を踏み入れると、目的地の前で立って待っていた椎野が、手を振りながら声を上げる。
「椎野も待ってくれていたのか。 やっぱり、こういうのはお前らが担当なのか?」
「何だよ、こういうのって。 とりあえず、みんながお待ちかねだ。 さっさと中へ入るぞ」
椎野がそう口にすると、結人の返事も聞かずに悠斗の病室へと続くドアをゆっくりと開けた。 その瞬間――――

「「「ユイ! 誕生日、おめでとー!」」」

大切に思っている仲間たちが、結人に向かって一斉に声を張り上げる。 
「お前ら・・・」
「ほらほら、早く早く」
あまりの迫力に圧倒されその場から動けずにいると、椎野は笑いながら結人の背中を押し奥の方へと誘導する。
そして拍手が溢れ返る中、仲間たちのもとへ足を進めた。 悠斗がいるベッドの近くまで行くと、近くにいたコウが椅子に手をかけながら声をかけてくる。
「ユイ、ここに座って」
言われるがままにそこへ座ると、ベッドの上で大人しく座っている悠斗が、あるモノを目の前に差し出してきた。
「ユイ。 ・・・これ、みんなからの気持ち。 一人ずつ言うと時間がかかるし照れ臭いから、文字で書いて残せる物にしようと思って」
それは――――結黄賊のみんなから結人への、メッセージが書かれている色紙だった。 悠斗からそれを受け取り、書かれている内容に目を通す。
この場にいる仲間は各々談笑しているが、そんなうるさい状況には気にも留めず結人は書かれている文を丁寧に読んでいった。


ユイ。 今まで迷惑をかけちまったりして、本当に悪いと思っている。 でもそんな俺を責めないでくれるのも、ユイの優しさのおかげなんだよな。
ユイが望むような結果をちゃんと出せるのかは分からないけど、俺はこれからもユイを信じて付いていこうと思う。 自分でも暴走しちまうことを抑えるよう、努力はするから。 
そして、誕生日おめでとう。 ユイは俺たちの、最高のリーダーさ。 マジ、ありがとな。 関口未来


誕生日おめでとう。 俺は・・・いつまでユイに、甘えていいのかな。 ユイは本当にいい人だし、俺だって常に感謝している。 尊敬しているところだってたくさんある。 
俺はよく自分を犠牲にして人から嫌われることもあるけど、ユイはそんなところもちゃんと理解してくれて、俺の隣にずっといてくれた。
そんなユイに、俺は今まで甘えていたのかもしれない。 でも久しぶりに泣いた時、気持ちがスッキリしたよ。 味方でいてくれて本当にありがとう、感謝し切れないよ。 神崎コウ


お前、どれだけいいリーダーなんだよ(笑) こんなにたくさんの個性あるチームをまとめ上げるなんて、ユイはやっぱりすげぇわ。
結黄賊を作ったのは中学の時だというのに、お前にはどれだけの力があるんだよ。 まぁ・・・それはやっぱり、ユイの性質なんだろうな。 尊敬するよ。
小学校の時は色々酷いことをしちまったけど、俺は今ユイと出会えてよかったと思っている。 こんな俺に、今まで傍にいてくれてありがとう。 八代夜月


お誕生日おめでとう、ユイ。 ユイは俺の憧れだった。 そんな人と今こうして同じチームになれて、俺は今でも感謝し切れないよ。
ユイはこんな俺でも、とても優しく接してくれた。 凄く嬉しかったんだ。 ユイが友達に見せる笑顔と変わらないものを、俺に見せてくれて。
結黄賊に誘ってくれて本当にありがとう。 みんないい人だし、みんなと出会えてよかったと思っている。 本当にありがとう。 北野流星


ユイー! お誕生日おめでとう! ハッピーバースデー! パチパチー! ユイと同じ誕生日の月がよかったなぁ。 一ヶ月違いでも悔しい!
そしてそして! ・・・日向の件では、とてもお世話になりました。 俺もあんなに自分が抑えられなくなったのは初めてで、自分でもちょっと怖かったんだ。
でもユイは、最後まで俺を気にかけてくれた。 ・・・やっぱりユイは、相変わらずいい人だね! うん、ユイと友達になれてよかったよ! 瀬翔吹優


ユイ、お誕生日おめでとう。 そして今まで、俺たちのことを信じてくれてありがとう。 ユイにはたくさん迷惑をかけたけど、たくさんの感謝もしているよ。
“ありがとう” この言葉以外にもユイに伝えたいことがいっぱいあるんだけど、その言葉しか見つからなかったんだ。 あと、結黄賊を作ってくれてありがとう。
そしてユイが、リーダーになってくれてよかった。 ユイの代わりになる人なんて、いないと思っている。 ユイ、俺を結黄賊に入れてくれて、本当にありがとう。 中村悠斗


誕生日おめでとう! ユイ! ユイが将軍でマジよかった。 そして何より、ユイと出会えてよかった。 いやその前に、生まれてきてくれてありがとう、かな?(笑)
ユイと出会ってから、俺は人生が変わったと思う。 俺が苦しい状況にいたとしても、ユイは最後まで俺の味方でいてくれた。 あの時は、すげぇ嬉しかったから。
これからも、よろしくな? 俺はユイが好きだ! 藍梨さんには負けるけど、藍梨さんの次にユイのことが好きだ! でもこれ、恋愛感情ではないから!(笑) 御子紫勇気


ユイ、誕生日おめでとう。 ユイとは小さい頃からの付き合いで、今でもその関係を保てているのは凄いと思う。 ユイと今まで、友達でいてよかった。
俺が最低なことをしてしまっても、ユイは俺のことを許してくれた。 申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、俺は素直に嬉しかったんだ。
いつもみんなを、まとめてくれてありがとう。 副リーダーとして、あまり活躍できてなくてごめん。 これからも、こんな俺をよろしくな。 真宮浩二


ユイー! 誕生日おめでとう! ユイは普段チャラいけど、結黄賊としてとなると急に真面目になるよなー。 ギャップって奴?(笑) そのギャップに惹かれt(殴)
まぁとりあえず、無理すんなよ? リーダーだからと言って、一人で抱え込む必要はない。 これからも俺たちをどんどん頼ってくれ!
絶対みんなも、ユイの命令には従うだろうからさ。 俺たちはユイに付いていくから、ユイは前だけを見て突っ走れ! いいな!(笑) 椎野真


―――みんな・・・マジ、ありがとな。
―――こちらこそ、ありがとう。
同級生の仲間の他に、藍梨と伊達から、そして後輩たちのメッセージまで書かれていた。 それらを全て読み終えた結人の目には、薄っすらと涙が浮かんでいる。
「あれー、ユイ読み終えたのか?」
「え、もしかして泣いてる!? 俺の告白を見て感動したか!」
「ははッ、うるせーな」
椎野と御子紫が俯いている結人の顔を覗き込みながら言葉を発してくるのに対し、手で目元を隠すようにして笑いながら返していく。 
そんな中、夜月が結人に向かって口を開いた。
「ユイ。 そろそろ外へ行こう。 公園には藍梨さんと伊達、そして後輩たちもみんな待っているから。 悠斗、また見舞いに来るからな」


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