バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

一番星の見える場所

コンビニから帰ってきた片瀬なら紅茶を受け取る。

「ありがとう」
「うん、で、次はどこだって?」
「プラネタリウム」

私の地元は、遊園地が近くにあったりしてわりと都会だ。そのせいで星はよく見えないことが多い。そんな環境なのに、洸は星が好きだった。望遠鏡を買うほど、本格的に星を見ていた訳では無いけれど月に何度もプラネタリウムに足を運んでいた。どうしてプラネタリウムに行くのか洸に聞いた時、洸は「地元で一番星がたくさん見えるから」と答えた。だから、次の手紙の場所はきっと、地元にある小さなプラネタリウムだ。



「着いたよ」

片瀬に肩を揺すられて目を覚ますと、見慣れた風景が周りに広がっていた。洸と何度も来たプラネタリウムがそこにあった。

ぎぃっと音のする扉を開けて中に入る。昔から変わらない白髪の生えた館長に迎えられてお金を払う。ちょうど上映時間の少し前で、スクリーン室に入ると暗い照明に一瞬たじろぐ。すぐに目がなれてきて、ガラガラのスクリーン室内が見える。いつも洸と座っていた席にまっすぐ向かうと片瀬は隣ではなく1列後に腰を下ろした。

「片瀬?」

後ろを振り返って、名前を呼ぶ。

「俺はこっちで見るよ。」
「分かった」

前を向いてすぐにプラネタリウムが始まる。
最初の30分は季節ごとの星空紹介でそのあとの1時間が、星空を旅する番組だったり、世界の動物の番組だったりと色々ある。私たちが今回見ているのは洸が一番好きだっま世界の星空を旅する番組だ。

北半球を越えて南半球に映像が移る。ハワイから見える星空は映像だからなのかすごく綺麗だった。デートで何度も、このプラネタリウムに来たことをふと思い出す。最初にある季節の星空紹介なんて、内容を覚えるくらい聞いている。

つぅっと頬を涙が伝うのが分かる。
大人になったら、子供を連れてこようと話したことをつい昨日のことのように覚えているのに、洸はもう隣にいない。真剣に星空を見つめていた洸を隣でそっと見るのが何よりも好きだった。でも、今は空席があるだけだ。その事が洸はもういないんだと突きつけてくるようで、涙がまた溢れた。

プラネタリウムが終わっても涙が止まらなくて、なかなか席を立てない私を片瀬はずっと待ってくれた。何も言わずに、ただ後ろから黙って頭を撫でながら待ってくれた。その手が暖かくて、また涙が溢れる。

私と片瀬以外誰もいなくなったスクリーン室に私の嗚咽だけがたんたんと響いていた。

しおり