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9話 明かされた衝撃の事実 その3


 全身に不快を感じ目が覚めた、感覚的に6時間は寝たはずだが外はまだ暗いようだ、どうやらエコノミー症候群になりかけたのか全身が痛い。
 立ち上がり通路に出て両手を上にあげて体を伸ばす。

 コキコキ、ボキボキ

 骨が鳴る音が機内に響いた、この音で起き上がっていないか彼女達が寝ている方を見渡すと、誰かがスマホを見ていようだ。

 スマホのバックライトが顔を下から照らしている、俺に気づいたようでその彼女はゆっくりと立ち上がる、薄暗くてよくわからないが身長と髪型そしてBらしき膨らみから推測すると瑠偉かな? 

 立ち上がった瑠偉は通路に出て人差し指をこちらを向けた、そして自分に向けて、そのまま指を外に向ける。

 ジェスチャーゲームか・・・たぶん<貴方と私、外に出る>か?
 俺は瑠偉に近づき彼女の手をつかみ飛行機の外にテレポートした。
 外に現れ周りを見回すと飛行機の中よりは明るかった、状況からみて夜明け寸前だろう。

「きゃ、っちょ、いきなりやらないでください」

 そう言って瑠偉はつかんでいる俺の手を勢いよく振り払った。

「他の奴ら起こしたくないしな」
「心の準備と言うものが…まぁ、いいです」

「で、なに?」
「少し、お話ししようと思いまして」

 瑠偉はそう話しながら、ハンカチで丹念に手を拭いてポッケトに入れた。
 城島瑠偉…その何気ない行動が人の心を傷つけるんだぞ?
 そう注意したいところだが、言い争いで負けそうなのでやめておこう…

 そのまま俺と瑠偉は立ち話を始めた。

「ああ、俺も聞きたいことある」
「そちらから、どうぞ」

「瑠偉、例の<狂気の妄想中二おやじ>の件は水に流そう、それ以外で隠してる事がある気がするのだが、あるよな?」
「あると言えば、ありますが…」

「俺は隠さず、すべて話したぞ、絶対秘密にしておくはずだった能力もな」
「…わかりました、実は私たち、高校2年生の17歳です」

「そうなんだ、でも年齢偽る必要あるのか?」
「いえ、18歳未満の学生同士で一泊旅行は何かと問題になるかもしれないので、さらに保護者の付き添いもいないですからね、そこで卒業旅行という設定にして18歳としましたし会話もそれで統一してました。隠しごとはそれだけです」

「勿体ぶった割に、たいしたことない秘密だったな」
「では織田、次は貴方の秘密を教えてください」

「それより、その呼び捨てと敬語の組み合わせなんとかならないの? ちょっとイラっとするんだけど」
「人は怒りに我を忘れ、意外と本音が出るものです。これが私の標準の話し方ですので変えれませんが・・・いいでしょうランクを上げて兼次と読んであげましょう」

「あ、ありがとう…」

 よし、ランクが上がったぞ! いや、そういう問題じゃないだろ俺
 まぁいい、もうこれ以降は口調には突っ込まないようにしよう。

「年齢はいくつですか?」
「45だな」

「そうですか、でもかなり若く見えますよ? 30代前半だと思っていました」
「そうかぁ、ふふっ」

「そのドヤ顔は気持ち悪いですね」
「っう」

 なんだよ、今度は上げて落とす作戦なのか?

「本当に45歳ですか?」
「ホントだぞ? 女じゃあるまいし、サバとか読まないからな」

 瑠偉がこちらを、凝視している。

「ウソですね?」
「なぜだ?」

「顔や目の微妙な動き方、通常の会話の時と違います」
「瑠偉、お前何者なの?」

「見習い心理カウンセラーです、私の目は誤魔化せません」
「見習いって?」

「心理カウンセラーには職業資格はありません、名乗るだけでできるのです、でも学生なので見習いとしています」
「それは初耳だな」

「話を逸らそうとしていますね、ウソ確定ですか? 貸し一つ帳消しでもいいですよ?」
「しかたないな…瑠偉、お前だけの秘密だぞ?」

「大丈夫です、誰にも言いません」
「千年近く生きている正確な年齢は覚えてないな、最近の戸籍はコンピュータ管理だろ? あれだと改変できないんだよ、しかたなく放置して45歳になってしまった。老化若返りはコントロールできるから見た目だけ変えている、内臓的な中身は16歳ぐらいで止めてるけどな」

 瑠偉、半口を開けて呆然としている、どうせ3歳ぐらいサバ読んでると思ってたんだろうな、予想を超えた返答に驚いているのか? それとも作戦か?
 でもさすがに信じんだろうな。

「かなり、驚いているようだが、こんな能力を使える時点で普通の人間じゃないってわかるだろ?」

 そう言いながら俺は近くに倒れている3メートルほどの丸太を力で浮かせ瑠偉の目の前を通過させた、瑠偉は頭を木の動きに合わせて動かしている。

「人間ですよね? 地球人ですよね?」
「失礼な言い方だな、一応昔子供を作れたから遺伝子的にも地球の人間だぞ、その子供はとっくに寿命を迎えて居ないから証明はできないけどな」

「と、とりあえす、また心の整理をしないと……」

 そう言うと瑠偉はため息をついて歩き始めそのまま近くに丸太に腰かける。
 しかし少し寒いかな? 丸太をバラバラにして焚き木でもするか。

 辺りを見回し適度な空間を見つけその周辺に転がっている木を浮かせて移動させる、その周りに座れそうな丸太を円形状に配置する。
 さらに別の小さい木を浮かせ縦に割り更に割り続ける、手ごろなサイズになった木を円形の中心に置き強制的に加熱すると水分が混じった白い煙が立ち込める、木が乾燥してきたころに火が付いた。

「少し寒いだろう? こっちに来て温まるといい」
「あ、ありがとう…」

 困惑してるのか? あり得ない現実が重なりすぎて思考が追いついていないんだろう。

「念を押すが、年齢の話は真実だ。信じる信じないはお前に任せる、年齢に関してはもう何も言わないし、これからも45歳で通すぞ」
「わかりました…」

「と言っても、12年過ぎてるから、地球では57歳になってるけどな、瑠偉もギリギリ20代だな、いや今年に三十路を迎えるのか・・・」
「そ、そうですね」

「瑠偉、甘未でも取って心を落ち着かせるがいい」
 と言い俺はおしるこを温め渡す。

「また、おしるこ…」
 瑠偉は両手で受け取りじっくり缶の温かみを確かめると栓を開け一口飲んで溜息をもらす。

「まだ聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「貴方に事ついて、もっと聞きたかったのですが・・・・
 予想を超える返答が返ってきそうなので、その質問はやめておきます」

「それがいいな」

 そのまま瑠偉は静かにおしるこを飲み始めた。

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