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第31話

「うっ、うわああああーーーー!」
「ジ――!」

 襲いかかってきたヒューマノイドと澄人は、もつれあう形で転倒してしまう。

「澄人さんっ……!」

 急いで助けに行こうとするはる。しかし足に力が入らず、なかなか立ち上がることができない。 

「ジ、ジ……!」

 ヒューマノイドの右手が、逃げようとする澄人の左足を掴み、締め付けていく。

「は、離せ! 離せ――!!」

 彼は右足でヒューマノイドの右手を何度も蹴るが、その細いながらも頑丈な腕はびくともしない。

「うっ……く……!」

 そして、はるがやっとの思いで立ち上がった時――ゴギッ! という、骨が折れる音が鳴った。

「いっ、ぎゃああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!」

 叫び声を上げ、涙を流し、唾液を吐き出す澄人。

 しかし、彼がいくら痛がって叫び声をあげようとも、ヒューマノイドは右手を離さない。それどころか、彼の右足にも左手を伸ばし、掴んできた。

「澄人……さん――!!」

 ふらついているはるは、壁や棚に体をぶつけながら走り、そしてレジ近くにあったハサミを手に取ると、それをヒューマノイドの首筋――配線が集中している箇所に何度も突き刺す。すると、バチッ――! と、小さな火花が起き、ヒューマノイドは機能を停止した。

 はるは、すぐにヒューマノイドの手を澄人の足から離し、ケガの状態を確認したが……

「っ……」

 彼の左足のすねの辺りは、くの字に曲がり……ズボンには血が滲んでいた。

 右足も、ヒューマノイドの指の跡がくっきりと残って赤くなり、内出血が起きている。

「うっ……うう……」
「すぐに手当をしますから……!」

 はるは、スタッフルームから救急箱とタオル。冷凍庫からはアイスパック。そして掃除用具入れからホウキを持ってきた。

「……少し痛いかもしれませんが、我慢してください」
「う……うん……」

 彼女はホウキの取っ手を折ると、それを澄人の折れた左足に当て、包帯で固定。右足には湿布を貼り、その上からタオルで包んだアイスパックを当てた。

 無論、この程度の手当をしたところで、澄人が歩けるようになるわけではない。それにはるも、澄人を抱えて歩けるほどのエネルギーはもうない。

 澄人とはるは……このコンビニで、助けがくるのを祈りながら待つことしかできない状態となってしまった。

 だが、やはり夜になっても助けは現れず。はるはスタッフルームに一枚だけあった毛布を澄人の体にかけると、彼の隣に座り、寄り添っていた。

「……ごめんよ。僕が足をケガしなかったら……」
「いいえ……謝るのはわたしの方です。わたしが、澄人さんを守らなきゃいけないのに……」

 互いに謝ってばかりの二人。だが、どれだけ謝ろうとも、この現実が変わるわけではない。

「ねえ……はる。ヒューマノイドは、どうして急に暴走しちゃったのかな……?」
「……わかりません。可能性はいろいろ考えられますけど……」

 最も考えられるのは人為的なもの。

 ただ、なぜヒューマノイドだけを暴走させたのかは、やはりわからない。

「もしかしたら……僕達人間のせいなのかも」
「人間のせい……?」
「……ヒューマノイドが機械だからって、無茶な仕事を押し付けて……雑に扱って……いらなくなったら捨てて……そんなことをしていたから、きっと罰があたったんだ……」

 澄人は、動かなくなった――コンビニの制服を着たヒューマノイドを、悲しそうに見つめた。

「ヒューマノイドには、はるやアーティナル・レイスみたいに、意思とか感情はないって言われているけど……酷い扱いをされていたら、いくら感情がなくても、恨みみたいなのが積み重なってさ……もしそうなったら――僕がもし、そんなヒューマノイドだったら、きっと人間のことが憎くて憎くて、たまらなくなると思うんだ」
「…………」
「だから、ヒューマノイドがこんなふうになっちゃったのは、きっと僕達人間のせいなんだよ」
「……それでも――いくら憎くても、こんなのは間違っています。こんな……人間の命を奪うような方法は……」

 そう。どんな理由があろうと、人間の命を奪って良いはずがない。それに……

「それに……澄人さんはヒューマノイドに、何もしていないじゃないですか。買い物に行った時の店員さんがヒューマノイドでも、ありがとうってお礼を言って……昔の――ヒューマノイドのような見た目だったわたしにだって、澄人さんはこんにちはって言って、友達になってくれて……」

 次第にはるの目に、涙が溢れてきた。

「澄人さんが憎くまれる理由なんて、何もないのに……澄人さんは、とても優しい人なのに……なんで……こんな目にあわなくちゃいけないんですか……」

 澄人が幸せになることが、そんなにいけないことなのか? なぜ彼が、こんなに辛い思いばかりしなければならないのか? 

 はるは、世界を――神という存在がいるのならば、それを呪いたい気持ちになった。

 その時、外から足音が聞こえてきた。

「「……!」」

 はるは、静かに……身を隠している棚から顔を半分だけ出して、窓の方を見る。

 駐車場に、一体のヒューマノイド……いや、一体だけではない。よく見ると……三十体以上のヒューマノイドが、このコンビニを取り囲むように、近づいてきていた。

「なんて、数……」

 このままでは、間違いなく二人とも助からない。はるは、どうすればいいか考える。そして……。

「……澄人さん。わたしが……あのヒューマノイド達を……遠くまで、誘導します」
「な……何を言っているの……?」
「あのヒューマノイド達は、遅かれ早かれ……ここにきます。だから……わたしが、囮になって……」
「ダ、ダメだ……そんなのダメだよ、はる!」

 はるは、左耳部分にあるスロットから、カード型のマイクロメモリを抜くと、それを澄人の手に握らせた。

「これは、澄人さんとわたしの……希望です。これを……あなたに託します」
「ダメだダメだダメだ! 側にいてくれるって言ったじゃないか! これからは、ずっと一緒にいられるって! 僕は……これからもはると――!」

 澄人がそう言って、はるに手を伸ばそうとした時、

「っ……!?」

 彼女は澄人の両手を抑え、澄人にキスをした。

「澄人さん…………愛しています」

 そして、澄人が掴んでくる前に、彼から距離をとった。

「待って……待ってよ、はる! いやだ……お願いだから行かないでっ!」

 手を伸ばす澄人。だが、その手はもう届かない。立ち上がろうとしても、骨折と痛みで動かない足は言うことを聞かず、転んでしまう。

「――っ」

 はるは、コンビニの出口から外へ出て扉を閉めると、走り出した。

「はる! はる!! はるーーーーーーーーーーーーっ!!」

 叫び呼び続ける澄人に、彼女は願いを込めた言葉をつぶやく。

「生きてください……澄人さん」

 そしてはるは、ヒューマノイドの群れの中へと身を投じ、彼の前から姿を消した……。

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