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文化祭とクリアリーブル事件⑤⑦




夜 道路


―――くそッ・・・くそ!

真っ暗で、何の音も聞こえない静かな道路。 車も通らず、人一人いないこの場所を、たった一人の少年は無我夢中で走り続ける。

―――優が・・・どうしてッ・・・!

長距離を走り疲れているというのに、足はとある目的地へと休まずに向かっていく。 身体が重い中、少年は心から彼らを恨み続けた。

―――ふざけんな・・・ふざけんなよ!





「コウ・・・。 優に、何があったんだよ」
これは先刻、コウから聞いた話だ。 優が骨折まで至った話を、彼は重たい口を開けゆっくりと説明してくれた。
「今日・・・集まるために、この病院へ向かっていたんだ」
そして、ついさっき起きた出来事を話し始める。


「今日は何して遊ぶんだろうねー? ボウリングかなぁー、またカラオケかなぁー」
これからの予定を楽しそうに予想している優と共に、コウは結人のいる病院へ向かっている。 彼の見舞いを終えてから遊びに行こうと、みんなで約束していた。
そんな時、歩道橋を渡ろうとすると突然一人の男の声が二人の耳に届く。
「女子高生が襲われているぞ!」
その声が聞こえた瞬間、コウたちは居ても立っても居られなくなった。 早く助けに行かないと、その女子高生が危ない。 そう瞬時に判断したコウは、優に向かって言い放つ。
「優、俺は今すぐ女子高生のもとへ行く。 その間、優は警察を呼んできてくれ」
結人に連絡が取れず相手と喧嘩はできないため、警察を頼りにしたコウ。 その言葉に対し何も反論せず、優は頷き素直に呼びに行った。
彼が走り出したのを確認したコウは、すぐさま女子高生のもとへと駆け付ける。 だが――――男が言っていた女子高生が襲われている場所には、誰もいなかった。

―――何だ・・・デマかよ。

ここまで急いで走ってきた自分が阿保らしく思い、自嘲の笑みを浮かべながら踵を返した。 そして来た道を戻りながら、携帯を取り出し優に電話をする。
「・・・あ、優? 何か、女子高生が襲われているっていうのは嘘だったらしい。 優は今どこにいるんだ?」

『コウ! 助けて! 俺は今、ここから動けないんだ!』

―――え?

その言葉を聞いた瞬間、急いで今言われた場所まで全力で向かった。 そしてコウは――――先程いた歩道橋の下で、足をさすりながらその場に座り込んでいる優を発見する。
「優! おい・・・何があったんだよ」
苦しんでいる姿を見るなりすぐに彼のもとへ駆け寄り、起きた出来事を問いただした。 そして優は、先刻起きたことを話し始める。
「コウに言われて、警察を呼びに行こうとしたんだ。 ほら、警察ってこの歩道橋の先にいるでしょ?  だからここを渡って行こうとした。
 そして走りながら階段を下りようとした時、突然後ろから誰かに背中を押されて・・・」

―――おい・・・それって。
―――ユイと同じじゃねぇか!

コウがそう思った瞬間、優はその気持ちを察したのか慌てて修正を入れてくる。
「でもね! 今は明るいから! 突然押されてびっくりしたけど、今は明るくて足元がちゃんと見えるから、そのまま着地できるかなって思ったんだ。
 だけど・・・失敗しちゃったみたい」
そう言って、苦笑しながら腫れている足首を再びさすり出した。


その後、コウは優を背負い病院まで運んだ。 そして優が検査している最中に、結人たちがコウのもとへ駆け付ける。 それから数十分後――――優の結果が、彼らに言い渡された。
検査の結果――――優は片足を骨折し、もう片方の足の骨にはヒビが入っているため松葉杖でも自力で歩けず、結局は入院することになった。





―――意味が、意味が分かんねぇ・・・!

優の検査結果を思い出しながら、一人の少年はひたすら目的地へと走り続ける。 このもどかしい気持ちは抑えたくても抑えられず、ただ苛立っていくばかりだった。

―――約束が・・・ちげぇだろ!

そしてやっと――――少年は目的としていたところへ辿り着いた。 何の躊躇いもなく、足をその場所へと進めていく。
入り口には二人の男が立っているが、彼らに名を告げるとすんなりその場を通してくれた。 更に、足を前へ進めていく。
そして奥へ、奥へと進み――――少年は、ついに彼らの前に姿を現した。 その存在に気付いた目の前にいる男が、ニヤリとしながらゆっくりと口を開く。
「久しぶりだな」
「・・・ッ」
少年はできるだけ感情的にならないよう努力していたが、今のこの状況になっても不自然な程に笑ってくる相手を見て、我慢の限界が訪れ思わず声を上げてしまう。
「おい! 俺の仲間に何てことをしてくれてんだよ!」
「あぁ?」
目の前にいる男の方へゆっくりと足を近付けていき、更に怒鳴り声を上げていく。

「約束しただろうが! どうして約束を破ったんだ! 結黄賊は・・・結黄賊には、俺が手を出すって言ったじゃねぇか! 
 なのにどうして俺に相談もなしで、勝手に手を出したりしたんだ!」

それを聞くと、相手はニヤニヤとした表情から一瞬にして冷たいものへと変わった。 そしてその面持ちのまま、冷静なトーンで言葉を放つ。

「だってお前・・・このアジトの場所、結黄賊の奴らにチクったろ?」

「・・・は?」

その発言を聞いた少年は、思わず足がその場に止まり動けなくなってしまった。 そんな少年に対し、なおも残酷な目付きで睨み続ける目の前の男。
そして頭の中でも整理がつかぬまま、覚束ない口調で否定の言葉を述べていく。
「いや・・・。 違う・・・。 俺じゃ、ねぇ・・・。 俺はチクってなんかいねぇ!」
「もういい。 お前にはがっかりだわ」
「だからッ・・・! 俺じゃねぇ!」
必死に抵抗する少年に対し、男は少年のことを冷めた目で見ながら手下たちに一言命令を下す。
「やれ」
「ッ! おい待てよ! ちげぇつってんだろ!」
その命令が言い渡された瞬間、周りにいる他の男たちは少年を囲み一気に押さえ付けた。 
その状況を何とか逃れようと必死に足掻くが、大人の男に抑えられてはどうしようもできない。
「おい・・・! 待てよ! 話はまだ終わっちゃいねぇ!」
反抗を続けるも、数人の男たちに捕まりそのまま他の場所へと誘導されていく。

―――畜生・・・どうなってんだよ!

少年は特に目立つものも何もない殺風景の個室に連れ込まれ、その中にある一本の棒の真下に無理矢理突き放された。
その直後、再び男らは少年に近付き両手を後ろへ回させ、真後ろの棒に縄で縛り付ける。 つまり――――身動きが取れない状態。

―――・・・くそッ!

腕を掴まれ縄で縛られながら、目の前にいる手下である一人の男に向かって尋ねかける。
「おい・・・教えてくれ。 お前らに何があったんだ」
その問いに対し、相手は面倒くさそうな態度をとりながら適当に答えていく。
「あぁ? あー・・・。 昨日、このアジトに乗り込んできたガキがいてさ。 ソイツらに、俺らはやられたんだよ」

―――は・・・?

「ソイツらって・・・」
これ以上先の言葉は聞きたくないと思いつつも、震えている声を肺から無理矢理絞り出し問い続ける。
「・・・結黄賊、だったよ」

―――ッ!

その言葉を聞いた瞬間、少年の身体は一気に凍り付く。 そしてもう一つ思い浮かんだ疑問を、恐る恐る口にした。
「それ、は・・・どんな奴、だった?」
驚きのあまり、少年は今見ているものに焦点が合わないまま、口だけを動かしそう尋ねる。 そして男は、昨日起きた出来事を思い出しながら淡々とした口調で答えていく。
「あー・・・。 誰だったかなぁ・・・。 身長は、お前よりも低かったぜ」

―――身長が・・・低い。

そして更に、昨日現れた結黄賊のメンバーを明確にしていく。
「あと・・・アイツらは二人だった。 仲よさそうな感じがしたなぁ。 片方の男がやられたら、もう片方はすげぇ怒った顔していたし」

―――仲のいい・・・二人。

結黄賊のメンバーの中から徐々に絞られていくこの状況で、少しずつ鼓動が早くなり冷や汗を流し始める。

―――どう、して・・・。

そして男は、何も言えなくなっている少年に向かって決定的な一言を言い放った。
「あぁ、そうそう。 確かアイツ・・・オレンジ色の服を着ていたぜ」
その言葉を聞いた瞬間、少年の心の中にある何かが一気に崩れ落ちた。 

―――どうして・・・未来と悠斗が・・・。

―――このアジトの場所を、知っているんだ・・・?

一人困惑している間、男は近くにある鉄パイプを取りに行き再び少年の目の前に立つ。
そしてその彼は今から起こす行動を何も躊躇いもなく、かつあまりにも残酷な程の冷静さを保ちながら手にしている鉄パイプを振り上げた。 
最後に――――少年に向かって、心無い一言を言い放つ。

「まぁ・・・悪いな。 しばらくの間、眠っていてくれ」

―――え・・・?

その瞬間――――真宮浩二は、その場に倒れ込み次第に意識が遠のいていった。


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