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connect-part:メイドのお仕事【次回予告】

 マリナは頭を吹き飛ばされ動かなくなった魔獣を見て、ようやく(あん)()のため息を吐いた。

 エリザを(おとり)にするというのは正直、賭けだった。

 確かに魔獣は()いつくだろうし、マリナは外から不意を突くことが出来る。だが、正面エントランスまでエリザが逃げ切れるかどうかは、甘めに考えても五分五分。その上、魔導灯(シャンデリア)によって拘束できるかと言えば、かなり怪しかった。実際、魔獣を操っていた何者かはエリザの狙いを読んでいたのだから。エリザが会話を引き伸ばしてマリナが不意を突くチャンスを作ってくれなければ、二人ともここには居なかったかもしれない。

 会話と言えば、気になるのは魔獣を操っていた何者かが残した『戦争を再開するため』という言葉。簡単に言えばエリザを暗殺し、その犯人を帝国とやらに仕立て上げて戦争を吹っかけるという話だ。

 だが今は、()()()()()()()も大切な事がある。

「よくやったな、エリザ」

 マリナは言って、エリザの銀髪(ブロンド)の頭をくしゃくしゃと()でた。
 隣でしゃがみ込んでいたエリザは、マリナを見上げて「いひひ」と笑う。小さな子供が親に褒められた時のような笑顔に、マリナの心も()やされた。

 このエリザという少女は本当によくやった。魔獣の注意を引きつけるために、できるだけ会話を引き伸ばしたのは彼女の功績だ。恐怖に(とら)われず、偶然転がり込んできたチャンスをモノにしたのだから。

「マリナさん、本当にありが――うわっ、」
「っと、」

 立ち上がろうとしたエリザが突然体勢を崩す。マリナは慌ててそれを支え、なんとかエリザを立ち上がらせた。考えてみればエリザはかなり重傷を負っている。魔導式で出血を抑えているらしいが、だからと言って傷が無くなるわけではない。痛みも相当なもののはずだ。実際、エリザは額に脂汗を浮かべている。

「……マリナさん、申し訳ないけど、応接間にある伝声式具(でんわ)で教会に(つな)いでもらえる? さすがに、治癒式を使わないとマズイ、かも」
「伝声式具――、ああ『電話』か。分かった」

 どうやら教会は病院のような役割も担っているらしい。魔導式なんてものがあるこの世界の宗教観がどうなっているのか知らないが、教会が生と死を扱うのは変わらないのだろう。

 とにかくエリザをどこかで休ませなければならない。彼女の私室は(しゆ)(りゆう)(だん)で破壊してしまったから、応接間のソファに寝かせるしかないだろう。

 そう決めたマリナは、立っているのも辛そうなエリザを両手で抱きかかえる。エリザもマリナの成すがまま、素直に抱きかかえられた。いわゆる『お姫様抱っこ』というやつだ。
 こんな体勢になる事を素直に受け入れるなんて――あまり表には出さないが、本当に辛いのだろう。よく泣き出さないものだ。

 強い女だ、とマリナは思う。

 そうしてお姫様抱っこをされたエリザは、少し恥ずかしそうに「お願いがあるの」と口を開いた。

「なんだ?」
「教会に連絡したら、わたしの部屋を()(れい)にしておいて(もら)えるかしら……。掃除用具とか、ゴミをまとめる袋なんかは隣の部屋に全部あるから」
「あー……、」
 
 エリザは部屋の惨状を知らないのだろう。掃除も何も、爆破したのだから何から何まで燃えかすになっている。だがそれを今伝えてショックを受けられても仕方ない。マリナは「分かった」と返事をする。

「それから、廊下もね……。とりあえず教会の人が通る場所だけでいいから掃除しておいて頂戴」
「ああ」
「割れた窓ガラスは商会でシュヴァルツァーさんに言えば手配してもらえるから」
「おーけー」
「教会の人には城の裏から入ってもらってね。正面はこんな有様だし。マリナさんが案内してあげて」
「……おう」
「中庭の畑の様子も見ておいて。トマトはもうすぐ卸すことになってたから潰れてたら、商会に言っておかないといけないし」
「…………、」
「それと地下蔵の中にあるものも確認して。目録も地下蔵にあるから、壊れたものと無事なものを分けておいて」
「………え、いや、」
「魔獣の死骸は中庭に持って行ってちょうだい。牙とか爪は商会で引き取ってもらえるから、切り取って()(れい)に洗ってまとめておいて。身体の方は出来るなら(さば)いてバラバラにしてくれないかしら。(なた)とかは納屋にあるから。うちの野菜は魔導肥料で育ててるけど、魔獣の死骸も良い肥料になるし。あ、幻獣の死骸はそのままで良いわよ? 根幹魔導式が崩れてるから勝手に大魔(マナ)に分解されるから。でも明日の内に新しい馬車と幻獣の手配はお願い。あと朝ごはんは軽めのものを作っておいて。紅茶はケルティックの茶葉が良いかな。それとこの騒ぎをエッドフォード家の憲兵軍が聞きつけてここに来た時の(ため)に接待用の茶菓子も選別しておいて。きっとエッジリアさんも一緒だからあの人の好きな南部のお菓子を――」
「ちょっ! ちょっと待ってくれ、」

 マリナは慌ててエリザの言葉を遮った。
 口早に次々と指示を出していたエリザは「ん?」と、マリナの腕の中でキョトンとした顔をこちらへ向けている。
 
「何か分からなかった? そしたら、その都度(つど)()いてくれればいいから――」
「いや、そうじゃなくてさ」
「じゃあ、なに?」
「……やることが多すぎないか?」
「でも先延ばしに出来ないもの。下手したら明日には役人が調査に来るかもしれないし。貧乏暇なし、よ」
「あー、いや、そのな――それ全部、オレがやるのか?」
「あたりまえでしょう?」
 
 エリザは何を当たり前のことを聞くのだ、とでも言いたげに笑った。
 それはとても無邪気で、こちらを信頼しきった屈託のない――それでいて有無を言わせない迫力を伴った、なんとも()()()()()()

 エリザベート・ドラクリア・バラスタインは、仲村マリナの腕の中で宣言する。


「だって、あなたはもう――わたしのメイドなんだから」

 



    ◆ ◆ ◆ ◆



    【次回予告】


 異世界で魂魄人形(ゴーレム)となった仲村マリナは、戦争で家族を失った公女エリザベートと主従契約(テスタメント)を結び、武装戦闘メイドとして転生。『メイド服から武器を取り出せる能力』によって、魔獣の襲撃を退けた。
 しかし、マリナとエリザベートの災難はそれで終わりではなかった。


 (つい)に動き出す十三騎士の末裔(ラウンディア)
 (いくさ)支度(じたく)を急ぐ二人。
 しかしチェルノートの終末は、すぐそこまで迫っていた。
 仲村マリナという名のメイドの戦いが今、始まる。
 断罪の(ごう)()がくだす宣告に、エリザベートは何を思うのか。
 ああ、それでもわたしは――


 次回、メイドin異世界(ファンタジア)
 ――第2話『戦場のメイド服』――


 ※第2話以降は毎晩1sceneごとに更新します。

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