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1-9ー3 龍馬のエスコート?記念の晩餐?

 日当たりの良い開けた場所に、教室の机を2つくっつけて白い布を被せテーブルクロスにする。
 2つ椅子を出して向かい合って座った。

 もう少し温かければ、地面にビニールシートを敷いて座るのだが、もうすぐ12月に入ろうというこの時期では少し寒い。

 テーブルの上には俺が今朝握ったおにぎりが並んでいる。
 中身は、おかか・梅・昆布・鮭の4種類だ。
 勿論海苔は食べる時に巻く……パリッとした海苔の食感を損なわないためだ。

 おかずにはオークの角煮・ポテトサラダ・鶏のから揚げを用意した。
 これも今朝俺が作ったものだ。

 「これ全部龍馬君が作ったの?凄く美味しい」

 桜から美味しいのお墨付きが出た。
 変態料理部の部長のお墨付きだ、地味に嬉しい。こだわった甲斐があったというものだ。

 「良かった。桜は舌が肥えてるからちょっと心配だったんだ」

 まぁ、ナビーにせがまれて【一流料理人】Lv10・【調理師】Lv10・【ぱてぃしえ】Lv10・【和菓子職人】Lv10を創らされてパッシブ効果を得ているんだけどね。

 “料理部の女子を落とすなら、まず味覚で落とすのが良い”だそうだ。
 
 でも俺は知っている……俺の熟練度に連動している工房内の人形たちが作るモノを、味見と称してナビーがつまみ食いをしているのを。

 「美味しすぎてちょっと複雑な心境よ。私より美味しいのはちょっとムカつく」
 「ええ~。美味しいからムカつくっておかしいでしょ?」

 「だって自分の旦那様に、美味しいものは私が作って食べさせてあげたいって思ってたんだもん」
 「旦那様って……凄いドキドキした。なにげに嬉しい事言ってくれるんだね。キュン死するとこだった」

 「あはは、キュン死って何よ。変な人~」
 
 高評価の昼食を終え、緑茶を楽しみながら、午後の予定を伝える。

 「さっきの猪が自然薯を掘ってただろ?俺たちも幾らか採っていこうと思ってる」
 「でもあれ、掘るの大変なのよ。折らないように掘ってたら2・3時間はかかるわよ」

 「まー、普通はそうだね」
 「え?普通じゃない掘り方?」

 「さっき粘土を採取したのと同じやり方をすれば簡単でしょ?」
 「あ!確かに……凄い事思いつくのね。確かに空間魔法で囲ってレビテトで空中に持ち上げてから土を崩せば簡単にGETできちゃうわね。ねぇ!早く採りに行きましょ!自然薯美味しいのよね」

 下流に下りながら大きな自然薯の弦を見つけては採取しまくった。

 「あ!松茸!龍馬君松茸よ!凄い、此処、そこらじゅうに群生してるわよ!」

 ナビーの案内で松茸の群生地にやってきたのだが、自然薯以上に興奮気味だ。
 思ってたとおり、桜は食材の採取に楽しみや喜びを感じるタイプだ。

 凄い素敵な笑顔で松茸狩りを楽しんでくれている。

 「喜んでくれて俺も嬉しいよ。桜なら知ってるだろうけど、根こそぎは採っちゃダメだよ。また何年か後に来れるように間引くように採るのがコツだからね」

 「ええ!是非また来たいわ!そのうちまた連れてきてね」

 各種薬草も採り、谷に下りる。


 「今度は何するの?」
 「今度は川釣り、渓流釣りっていわれるやつだね。本来日本じゃこの時期は禁漁時期なんだけど、この世界じゃ関係ないからね」

 「何が釣れるの?」
 「イワナやヤマメ、ヒメマスなんかがいるようだよ」

 「イワナの塩焼き美味しいのよね。さぁ、早く行きましょ」


 秋の山魚は産卵の為バカ食いをする。水温が下がり、活動の鈍る冬に備えるってのもあるだろう。

 何が言いたいかというと……。

 「キャー!また釣れた!龍馬君、これ大きいよ!」

 入れ食いだ。しかも大きいとか言ってるヤツは30cm以上ありそうだ。
 俗にいう尺イワナと言われてるヤツだ。

 イワナなどの山魚は警戒心が強く、人影が水面に映っただけで岩陰に潜んで釣れなくなると言われている。
 だがこちらの世界では関係ないようだ……キャッキャと桜が騒いでいる同じポイントでもガンガン食ってくる。

 一人3匹ずつ釣ったら少し下流に下るを繰り返しながら、少し大きな滝の下にやってきた。

 もう西の空は赤く染まってきている。
 この滝が最終的に俺の目指してた場所だ。

 ここは、一人で出てた時に見つけた場所で、思わず見惚れてしまったとても幻想的な場所なのだ。
 この場所を桜に見せたかったのと、この後の計画の為にここにきた。


 『ナビー、出来てるか?』
 『……もうすぐですので15分程お待ちください。今、最終確認をしているところです』

 『急かすようで済まないな』
 『……いえ、もう少し早く完成できると思ってましたが、やはり鍛冶工房に時間を取られちゃいました。日暮れ前には完成しますので計画は続行です』

 『ああ、頼む』


 「龍馬君そろそろ日が暮れそうよ……」
 「ああ、そうだね。ねぇ桜、俺は今日お山デートのつもりでエスコートしてみたんだけどどうだった?」

 「私も二人でって言われた時からデートのつもりだったよ。茜たちと猟師に交じって初めて狩りに行った時もワクワクドキドキして楽しかったけど。あなたとの今日の一日はこれまでの人生の中で一番楽しかったわ」
 
 「良かった。人によっては採取や狩りに全く興味の無い人もいるからね。採ってきてくれたら食べるけど、自分が採りに行くのは面倒って人も居るしね」

 釣竿などの道具を片付けながら今日の一日を振り返り楽しく会話する。

 『……マスター、完成しました。良い出来だと思います。ご確認ください』
 『うん、ありがとうな』


 「え~と、ひょっとしてここで野営とかの予定なのかな?」

 流石は桜、俺の下心なんかお見通しか。
 でも頑張る、ナビーも急ぎで間に合わせてくれたんだ。

 「そうなんだけど、ちょっと俺の秘密を桜に話したいんだよね」
 「あなたにいろいろ秘密があるのはなんとなく知ってるわ。特にスキルとかだよね?時間停止付きの【亜空間倉庫】や【無詠唱】【連弾魔法】シールドもちょっとダメージ吸収量がおかしいよね?レベルの上がり方もあなたの居る時は異常に上がるしね」

 「うん、そういうのもろもろ含めての話だけどね。まずこれを見てもらおうか、俺も初出しで楽しみなんだけど、どうだろう【ハウス・クリエイト】召喚【ログハウス・タイプA】」

 目の前に赤い5m程のサークル型の魔法陣がでた。
 魔法陣に書かれている文字とかは嘘っぱちだ。それっぽいのと言ってナビーに丸投げして描いてもらったものだ。

 魔法陣が赤い時は地が凸凹すぎだったり、ログハウスを出すスペースが足らなかったりの理由で召喚できない。
 そして条件をクリアした場所なら、青くサークルの色が変わり、そこに呼び出し可能だ。

 俺は魔法陣の色が青くなった場所で更に建物の向きを定める。
 この後の演出の為だ、ここは一切妥協できない。

 そして滝下の川の直ぐ脇にログハウスを呼び出す。

 「なっ!召喚って聞こえたけど、家!まさか本物のログハウス!?」

 桜はかなり驚いたようだ。
 うん、俺が創ったスキルだけど俺もびっくりだ!

 「5分程前に完成したばかりなので、俺も中に入るの初めてなんだ。一緒に入ってみよう」



 「何これ?外から見るよりずっと広くない?どういう事?」

 驚くのも無理もない。外からの見た目は山間部で造られてる平屋の炭焼き小屋ぐらいしかない。だが小屋の中は空間魔法で拡張され、部屋数は8部屋、リビングとキッチン、5人が体を伸ばして入れるほどの浴槽とサウナ室まである。

 浴室にはまだ案内しない。あそこが本日のメインになる場所だ。

 桜は真っ先にキッチンが見たいと言ってきた。

 「コンロは魔石を利用した魔道コンロだ。3つ口あって高火力が出せる。水も給湯完備で水道水より美味しい水が出るようにしてある。使った排水は下水を使わず俺の【亜空間倉庫】に行くようになっている」

 「何なのコレ?ねぇ、龍馬君どうなってるの?」 
 「いろいろ秘密があるんだ。取り敢えず夕飯にしようか?手伝ってくれるかな?」

 ナビーに下ごしらえをさせようと思ってたが、昨晩のナビーとの話し合いで一緒に作った方がいいとアドバイスをもらったので、ここはナビーの指示に従う。

 「開き戸や棚の上に調理道具一式揃ってるんだね」
 「うん、結構拘って主要道具は俺オリジナルなんだよ。ほら、このまな板も今日も狩ったけど、木の魔獣が居たでしょ?」

 「ええ、トレントでしょ?」
 「そそ、この板もトレント製なんだけど、かなりの高級品なんだって。この板、檜より凄いんだよ。防菌・防カビ・防臭とかあって、硬いから普通の木のまな板より何倍も長持ちするらしいよ。後、その包丁もミスリルが10%混じってる。そうする事によって、抗菌作用があるうえに、錆びない刃こぼれしない物になるんだ」

 「へ~、包丁に希少金属使っちゃう人なんだ……」
 「うっ……皆に黙って使っちゃってごめん!」

 「あはは、冗談よ。逆に嬉しいかな……包丁なんかに使うなとか言う人だと、ちょっと凹むかも」
 「やっぱそうでしょ?桜ならそう言ってくれると思ったんだ」

 「で、何作る予定なの?それとも私に任せてくれるの?」
 「え~と、実はさっき狩ったレア猪が食べたいんだ。なので今晩は牡丹鍋です。もう熟成とスライスまで完成しているから、桜には白菜とか今日採ったキノコなんかを下ごしらえしてほしいんだ。人参や大根なんかをおろして、もみじおろしも良いよね」

 前回味噌仕立てだったので、今回は醤油ベースのポン酢であっさり食べたいのだ。
 上位種なので肉そのものがかなり旨いそうで、味噌仕立てより良いかと判断したのだ。

 「熟成は3日はかかるよ?」
 「その辺にも秘密があって、もう熟成終えてるんだ」

 ナビーの言うとおり、桜は俺と一緒に揃って料理をする方が楽しいみたいだ。


 牡丹鍋に今日採った自然薯をつみれにして投入、摩り下ろしてとろろ芋にした物も作った。
 桜がさっと松茸の茶碗蒸しも作ってくれて凄い豪華な夕飯になった。


 本日の夕飯
 ・牡丹鍋(松茸・自然薯のつみれ入り)
 ・松茸の茶碗蒸し
 ・焼き松茸
 ・自然薯のとろろご飯
 ・俺は炭酸ジュース・桜はオレンジジュース


 「龍馬君待って!これ食べる前に写メっておくね!」

 確かに凄い豪華なので撮って残して置きたい。

 『……桜はマスターとの記念になるかもと思い、こういうちょっとした事でも記録して残したいのです。意外と鈍いですね……』
 『そうなのか。うん、そう言われると嬉しい』

 「うわ~凄い美味しいな……なんか皆に申し訳なくなってきた」
 「上位種ってオークもそうだけど格段に美味しいよね?」

 「殆ど獲れないそうだからね。獲れた時はオークションに懸けるんだって。この猪、Aランク魔獣だけど上位種だから、狩るときは30人のレイドPTで狩るんだそうだよ」

 「それをあなた一人で狩っちゃうんだから凄いよね」
 「桜もそうだけど、勇者補正って凄い反面危険だよね。絶対、権力者に知れたら悪用しようとする輩が出ると思う」


 それから他愛もない雑談をしながらお腹いっぱい食べた。

 いよいよこっからが本番だ……。

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