バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

7、ステーキ! 素敵!

「書庫ということは、ウェルナー様にお勉強を教わっていたのですか?」

 私もウェルナー様から教わっていたのですよ、とルシアちゃんが可愛く微笑む。
 おーおー、指を組んで頬を染めちゃって。これはあれかい? 初恋の相手ってやつかい? 嫉妬しちゃうよ俺。
 でも嫉妬心剥き出しなんてカッコ悪いから態度には出さないけどね。

『ああ。ウェルナーとやらは教え方が上手いな。もう文字が読めるようになった』
「まぁ! たった1日で文字を覚えてしまうなんて! 流石はリージェ様ですわ!」

 ルシアちゃんは大げさに褒めて、自分のことのように喜んでくれる。
 そう、ウェルナーではなく俺を! ふはははは!


「ウェルナー様は教え方がお上手でしょう?」

 今でこそ王城の書庫の番人なぞやっているが、本当は王都の大学で教鞭を取っていたのだそうで。
 瞬く間に学校での授業を吸収し、教わることなど何もない、とたった二年で学校を卒業した超天才。
 生粋の研究肌で、古代の書物を読み解くことに執着していたらしい。が、それでは生活できないと教師を兼任していたそうだ。

 そんな天才が目をつけたのが、王城の書庫にしかない古書。
 書庫の管理をしつつ、古書を読み解き歴史の編纂をするのがウェルナーの仕事らしい。
 なるほど、それは確かに「暇がない」になるだろうな。



『救護院の方はどうだったのだ?』
「あっ! そうでした。今日は少しばかりの心付けをいただいたのです。せっかくの王都ですし、たまには外食しませんか?」

 心付け……というとちょっと賄賂のようなものをイメージしてしまうが、治療したことに対する報酬というか謝礼らしい。
 基本的には教会が運営しているので、治療は無料。その代わりに寄付金で賄っているそうだ。
 寄付金は冒険者ギルドからが半分、教会の礼拝者や救護院で治療を受けた人で残り半分らしい。


 宿まで送る、という御者を制して救護院前で送迎の馬車から降ろしてもらった。
 というか、救護院も宿も主だった店も皆広場の両側に密集してるし。

「この広場は街の顔ですからね。観光客なども来ますし、美味しいお店も多いのですが少し高めです」

 なるほど。何も知らない一見さんから毟り取ろうってことか。
 静かで安くて、でも美味しいお店はこちらに、とルシアちゃんは俺を抱いたまま裏路地に入っていく。


 そこは日本の縁日を思わせる不思議な空間だった。
 表通りと違い、魔法を込めた石による街灯が無く。代わりに提灯に似たランプが建物の壁から吊るされている。
 魔法ではない火の灯りは、薄暗くなった街並みを赤く染めとても幻想的だ。


 客引きもいない通りはそれだけで静かで。
 所々に飲み屋があるのか、どんちゃん騒ぎをする喧騒が少し遠くに聞こえる。
 結界が破れていつモンスターが襲ってくるかわからない状況であっても、人々はいつも通りの生活をしているようだ。いや、緊迫した状態だからかもしれない。


「アルベルト様から聞いたお勧めのお店がこちらです」

 裏通りを少し行った所でルシアちゃんが立ち止まる。
 いつの間にそんなやり取りしていたんだ君達。というツッコミはしないでおこう。
 外観だけ見ればお洒落な喫茶店といった趣だ。


「いらっしゃい」

 カラン、とドアベルの音を立てて中に入ると、渋い感じの初老の男に席に案内された。
 店内はけっこう客が入っていて、騒ぐでもなく食事を楽しんでいる。
 木のテーブルを、同じく木製の衝立で区切ることで周囲を気にさせない工夫のようだ。


「ご注文は?」
「ムッカのソテーステーキをこの子の分も」

 ステーキ! 素敵!
 何かわからんけど、ステーキならお肉だよね!?
 思わずはしゃいでしまった俺に微笑を向け「畏まりました」と去っていく。

 結論から言おう。牛だった!
 柔らかくて脂の乗った牛肉がミディアムレアで出てきた。
 味付けは何かの香草と塩。これがまた肉の旨味を引き出していて美味い。
 口に入れると溶けるように消えていく。これならいくらでも入りそうだ。


「お気に召したようで良かったですわ」

 一心不乱に食べていると、ルシアちゃんが嬉しそうに笑っていた。
 食べながらルシアちゃんが救護院での出来事を話してくれる。
 重傷者だった人達も、少しずつ回復しているそうだ。軽傷者は救護院のシスター達でほぼ完治。
 ここ数日は強いモンスターの襲撃がなかったこともあり、だいぶ患者は減ったらしい。まぁ、新しい怪我人が来なければいつかは全員治るもんな。


 これで一安心です、と笑うルシアちゃん。
 幸福な食事タイムを過ごして宿に帰ろうとした時だった。


「誰か! 戦える奴は皆来てくれ! 北門が破られそうだ!」

 そう叫びながら表通りを駆ける青年。額から大量の血を流し、左腕も負傷したのか右手で抑えながら走っている。
 アルベルト達がいない時に、そんな強靭なモンスターが来るとは。

『ルシア、この本を預ける。その男を救護院へ。北門には俺様が行こう』
「は、はい。お気を付けて!」


 表通りの喧騒が悲鳴や怒号で塗り替えられていく。
 武装した人々が駆けていく方向が北門だろう。
 俺は翼に力を込めて、押し合うように混乱する人々の上へと飛び上がった。

しおり