販売合戦のはずが、リアルで戦闘が始まりました(前編)
”♪じゃーんじゃじゃじゃ じゃーらじゃー”
調子っ外れの歌声が、周囲に響き渡る。
聞き覚えのある、抑揚も感情も感じない機械音声。
おそらくそれは、というか間違いなく”遊精の風”のネオン。
”さあて、ここにお集まりの皆様。遊精の新製品発売を記念して、ちょっとした余興にお付き合いいただければと思います”
声の主はそう告げる。
「どうやら、今から突発的に催事が行われるようです」
先程取材していた
反遊精派とケドコとチューブが繋がってるなら、そりゃ好意的にも報道するわな。
”囚われのお姫様達を、遊精の会社の面々は救い出すことが出来るで……”
その声が終わるやいなやユーさんが歩み寄り、眼の前の大形人型精霊をその能力で”消そう”と試みるが。
”無駄だよ、おっさん。そのデカブツは神具じゃない。他国の技術を用いて作られてるから干渉は無理だ。もちろん、猫で設定を変えようとしても無理だ”
ボクが思ってることを先読みしたのか、ネオンが釘を刺す。
それならば、と鎖型の神具を伸ばすユーさんだったが、大形人型精霊は待ってましたとばかり触手を伸ばし、それを封じる。
”残念、その手も対策済みだ。それに、そう簡単に倒されてしまっては余興が興ざめだからね”
そもそもその余興自体が、こっちには不要だっつーの。
と言うか、先程悲鳴が上がった後に囚われの三人が一言も発していないのが気になる。
特に、あの一言多い工場長が何も言ってこないのが不自然だ。
”ああ、三人には特殊な毒を盛ってある。
一時間以内に助け出さないと、死ぬことはないけど今後一切声をだすことが出来なくなるよ?”
その言葉に、活弁士であるチタンさんの顔が青ざめる。
話すことを職業にしている彼女にとって、それは死活問題だ。
「さあ、大変な事になってまいりました!
あの有名な活弁士の時任チタンが、今後話せなくなるかもしれないという事態」
大変という言葉とは裏腹に、報道する活弁士は嬉しそうだ。
そりゃ、この人にしてみれば同業者が一人減れば自分の活躍の場が増えるかもしれないもんな。そして、あくまでこれは事件でなく催しだと強調したい。
工場長は”大丈夫よ”と言ったふうに我々には笑顔を、そして報道する活弁士には中指を立てて怖い形相で挑発した。
一方スズちゃんはと言うと、あーあ、顔をクシャクシャにして子供みたいに泣き出しちゃってるよ。
「スズさんは自分が必ず助けるっス!だから待ってて下さいっス」
そうメッキくんが声を掛けると、泣き止んで少し笑みを浮かべたけど。
”さて、囚われの姫様は塔の最上部で
声の主がそう言うと大形の人型精霊はその巨体を空中に浮かせ、そのまま背後にある巨大な塔、もといこの街で一番高い建物である中京平舞台配信塔、通称”楼閣”の上部へ消えていったのだった。
「さて、囚われの姫君を無事に助け出すことが出来るでしょうか」
何だろう、あの活弁士を一発殴りたくなってきた。