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28話 冒険者の戦い

「左から四匹! 右から六匹! 来ます!」
「視認した! 先行してくる左集団を片付ける!!」

 あたしはこのパーティーの『目』だ。魔力視のスキルで魔物を識別出来るこの能力は、戦闘を有利に運べる。
 メッサーさんの魔法で先行する四匹のコボルトが瞬殺される。たった一発の魔法でアレだもん。ホント凄いよ、メッサーさん。その間にあたしとラーヴァさんは六匹の集団へと走る。メッサーさんに向かったヘイトはあたしが横取りするんだ!

 ――ズドオオオン!!

「こっち向きなさい、ワンちゃん達!」

 星球部分をコボルト達の集団に向けて飛ばし、地面にめり込ませながら叫ぶ。よし! 注意を引けた!

《ウオオオオン!》

 来た! グリップのボタンを離して鋼線を巻き取り、星球を引き戻す。引き戻した星球を再度飛ばして一匹を潰してそのまま振り回す。凶悪な突起が付いた鉄球の暴風に、さらに三匹が巻き込まれ命を散らした。

「シルト、スイッチ!」
「はい!」

 モーニングスターで牽制しながら距離を取ると、後ろから炎の蛇が迸り一匹を焼き尽くした。あれは大剣に纏わせた炎を飛ばす、ラーヴァさんの中距離攻撃の技。魔法剣ってカッコいいなぁ。
 残るはコボルトナイトのみ。あたしとラーヴァさんは左右からコボルトナイトに迫る。迫るあたし達に対するコボルトナイトの選択はこうだ。左から来るラーヴァさんの攻撃を盾でやり過ごし右から来るあたしに剣で攻撃。でもね、それは悪手なの!

 コボルトナイトの剣を盾で受け止めたあたしは、そのままサイドステップで横にズレる。一瞬前まであたしが居たその場所を風の刃が走り抜けると、コボルトナイトの右肩から先が斬り飛ばされた。さらに、ラーヴァさんの炎の剣が盾を切り裂き左腕が燃え上がる。

「今楽にしてあげるよ」

 あたしは無慈悲にコボルトナイトの顔面にモーニングスターを叩き込み、息の根を止めた。

「さて、アイン小隊の諸君、あれ? おい? おい!?」

 なぜか放心状態のお姉さん方。一体どうしたのかしら?

「は!? いや、すみません。あれが一般的な冒険者の戦闘なのでしょうか……」
「凄すぎてあまり参考になりませんでした……」
「1級のメッサー殿は納得出来る強さなのです! しかしラーヴァ殿とシルト殿は……3級冒険者とは皆そのようにお強いのしょうか!?」

 ああ~、相手がコボルトレベルだと、ほぼこっちの筋書き通りに戦闘を進められるからねぇ……完璧な戦闘を見せたら尊敬の眼差しになっちゃってるわ。

「いや、私達はこれでもこの街ではトップクラスのパーティだ。誰も彼もがこのように戦える訳ではないよ。それにラーヴァもシルトもまだ冒険者となってから期間が短い故の3級だ。実力は1級に匹敵するよ」

 えへへへ~、メッサーさんにそんなに褒められるとニヤけちゃうなぁ。

「なるほど……実力は1級パーティー並みと言う事ですか……メッサー殿、この先の雑魚魔物は私達の小隊に」
「了解した。何かあれば指示を出すのでそれには従うように」
「「「はい!」」」

 そんな訳で、道中で出くわした雑魚敵はお姉さん小隊が対処する事になったのだけれど。

「そんな各々が勝手に戦っていてはダメだ! さっきの私達の戦闘の何処を見ていた!」
「「「はいぃ」」」
「剣士が下がって弓士が前に出るスイッチがあるか! バカなのか君たちは!」
「「「すみません……」」」

 ヤヴァい……メッサーさんの血管が……あ、魔力が暴走しそう。元通りになあれ。ふう、あぶないあぶない。

「ふう……すまないね、シルト。危うく魔法を暴発させるところだった」
「あははは。流石のメッサーさんも手を焼いていますね」
「ああ。シルトやラーヴァがいかに優秀な生徒だったか思い知ったよ」

 今はお姉さん小隊はゴブリンと戦闘中だ。メッサーさんを気の毒に思ったラーヴァさんが教官代行になってるね。

「でもメッサーさん、お姉さん達、同じ間違いは繰り返しませんね。実戦で覚えるタイプですよ、アレ」
「うむ。だからこそ解せないのだが……騎士団では一体どんな訓練をして来たのだろう?」

 流石に騎士なだけはあって、武術という点でみれば基本は出来ているらしい。個々の能力は低くない。それに、一度教わった事はしっかりと吸収していく。

*****

「なるほど。見習い騎士時代は周囲が君たちに合わせていた様だな」

 束の間の休憩タイム。街道を作る為に伐採された切り株に腰かけて、お茶を喫しながらお姉さん達の話を聞いている。

「それが正式に騎士になってからは、周りについていけずに落ちこぼれていた訳だね」
「見習い時代に周りが合わせてくれていた事に気付かなかったんですか?」

 そんなメッサーさんとあたしの指摘にアインさん達は縮こまって答えた。

「……恥ずかしながら、それが当然なのだと思っていたのです」

 なるほどねぇ。プライドが高い、か。ラーヴァさんの言った通りだわ。

「でもお姉さん達、ちゃんと武術のスキル持ってるんでしょ?」
「ああ、一応スキルに応じた得物を扱っている。そもそも何かしらの武術スキルが無ければ騎士団には入れないのだよ」
「そうなんですか! あたしは武術スキルが無いので羨ましいです!」
「「「な!?」」」

*****

 見目麗しく線の細い、三人の女冒険者が待っていた。まさかこの様な者達が領内に名を轟かす異名持ちだとは思いもよらなかった。

 この冒険者達と行動を共にしていると心が折れそうになる。でも辺境伯閣下が私達を派遣した理由はこれだったのだろう。騎士団で腐っていた私達に助言を与えてくれる者はいつしかいなくなった。当然だな。聞く耳を持たなかったし周囲が悪いと考えていたのだから。リャンとミィの二人は我が家の騎士団長の家系の出で、幼い頃から従っていた故に私のする事は全て是だ。

 しかし、この冒険者達は厳しいがちゃんと過ちを指摘し、助言してくれた。実力で叩きのめされた私達には従うしか道はなかったように思う。初めは恨んだし憎しみもした。しかし助言に従ってみると戦闘時に納得させられる。この冒険者達は正しいのだと。

《迷宮で死にたくないなら必死で覚えて下さい。あたし達の戦いは演習じゃないんです。いつも死と隣り合わせなんです》

 あのシルトという少女の言葉が頭から離れない。 

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