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第35話 セクシー竿だけ屋対スーパーカー消しゴム

「普通の運転じゃ動かないわよ。これ使うの」
 ありすが取り出したのはスーパーカー消しゴムといわれるもので、時夫もウーも見るのは初めてだった。運転席と助手席の間にゲームのボードのような板を渡して、消しゴムを置く。板にはサーキットが書かれ、周囲は壁によって外に飛び出さないようになっている。
「それで、このボクシーのボールペンのお尻のボタンで、カチカチッと押して、サーキットの中を走らせる! すると科術が掛かった本物の車が走り出す仕組みよ。後の制御は勝手にやってくれる。これは免許なしてもできる、『児童運転科術』なのよ! ちなみにこれが敵のさおだけ屋の消しゴム」
 カー消しゴムは二つ。こちらの消しゴムを飛ばして、もう一つをぶつける。今、免許なしでもって、言わなかったか?
「そうすると見てて。相手のさおだけ屋はスムーズに白彩にたどり着けない。これがスーパーカー消しゴムの科術よ」
 言われたとおりウーの親指がカチッとボールペンのスイッチを押し、お尻のボタンでスーパーカー「ランボルギーニ・カウンタック」が勢い良く飛び出していった。途端車のエンジンがかかり、ありすは運転する。
「そっか~。あいつが『無限明石焼き』とかいって、無限たこやきと似て非なるものだったから何かオカしいなとは思ってたんだよね。あたしは信じてたよ!」
 ……どこがだよ。
 ウーは、さおだけ屋役の消しゴムを二度三度と突き飛ばした。相手は「ランボルギーニ・ミウラ」の消しゴムだ。
「見えてきた!」
 ありすが会心の笑顔で前方を睨む。ちょうど白彩を通り過ぎたところだ。敵のセクシーさおだけ屋は、白彩で停まることができなかったらしい。
「フフフ、これが正真正銘の本物の科術ってモンよ。偽科術なんて、思慮のない行為よね。黒水晶、あんたはあたしのものだったんだから。今度こそ捕まえてやるッ!」
 「モリオン」は、放射線を浴びて黒くなった水晶だ。古城ありすの科術を浴びて黒くなったらしいが、最強の魔よけ石ともいわれている。
 あまりに勝ち誇りすぎるのも油断というものだ。時夫は警戒して沈黙した。しかしこんな凝った方法を取らなくても車を直した方が早くないか? いや、相手はのろのろ運転だし、走れば追いつきそうな程だった。お互い比較的ゆっくりとした追走劇である。
「はいお土産」
 「白っぽい恋人」ね……。ありすはどこに行ったんだか。
「で、どうだったんだ。ロケットで恋文町は脱出できたのか?」
「……それが、満月でぶつかって月丁目に戻ってきちゃった。ガス欠だったみたい」
 昔の白黒の無声映画の「月世界旅行」みたいな話だ。満月から女王が出てきた箱庭状態の恋文町は、あの恋武のタイムドーム・レストランが原因だったと見て間違いないだろう。ありすが戻ってきてしまったのは、まだ箱庭が完全に稼動していたからだろう。
「ガス欠?」
「ハンバーガーショップのロケットは、白彩の工場で作ってる砂糖の一種で動いてた。だから白彩でロケット燃料用の砂糖を手に入れないと、本当には脱出出来ない。それからなんとか師匠に通信する方法に作戦を変えたの。この町には通信の中継者がいる。携帯電波が圏外で、どんな状態になっても通信してくれるのが。でも、何度電話しても『すみません、ててて手違いがあって、忘れてました』とかさ、なんかふざけてんのよね。そいつ」
 ありすは数時間おきに連絡をしていたが、その都度、中継者は「手違いがあって忘れてました」と答えるのだった。技術的な問題なのか、人の問題なのか。
「いつ連絡してくれるのっていったら、『もう出ました』、『もう出ました』って、お前そば屋か!」
「そりゃダメなんじゃないですか」
「そうかもね。後でまた連絡してみるけど」
 なんでそんなに、その中継者とかいうのにこだわるか。
「……ずいぶん変わった仕組みだな」
 このボード上の操作は確かに実際の車の走行に関係している。ウーがノック式ボールペンでスーパーカーの消しゴムを飛ばさないと、車は徐々にスピードが落ちていくのだ。つまりそのボールペンは車のエンジンに当たる。意図的に実際の車を減速する事は可能で、その場合次の加速に問題はない。要するに消しゴムを飛ばすことで燃料が蓄積されていくのかもしれない。恋武の箱庭のメカニズムとも関係あるそうだ。わら人形スーパーカー版という奴かもしれないが、相手のコマをいきなり押しても、実際のさおだけ屋は動かない。あくまで自分のコマを押して、その反動で相手が押し出されることで、相手を操作することができる。戦車の魔改造に比べて、随分凝った仕組みだ。
「ヒントはね、昔、小学校で流行ったのよ。学校におもちゃを持ってきちゃいけないって先生から言われた小学生達が、『消しゴム』と称してスーパーカーの消しゴムを持っていった。休み時間中にそれで遊んだ。それって意味論みたいなもんよね。メーカーもそれを分かってて、もはや消しゴムとしての機能なんかないものを売り出した。机の外に相手の消しゴムを出すと勝ちよ。机上最強を競い合い、車のタイヤ部分にニスを塗ったりして威力を増したりさ。それを参考にしたの。それは遊びだけど、こっちは真剣にやるものよ」
 そのうち、ほとんどの学校でPTA等で問題となり、スーパーカー消しゴムは持ち込み禁止の憂き目にあった。それだけ、全国の子供達を熱中させたという事だろう。
「ありすってさ、結構昔のこと知ってるよな」
 さすが漢方師、いやそういう事か?
「そうそう、ヨーロッパのこと欧州とか言ったりしてね。喫茶店に来たときなんか『レスカちょうだい』だよ?」
「う、うるさいなッ」
「何それ」
 ウーによるとレスカとは「檸檬スカッシュ」の略で、八十年代に流行った言葉らしい。
「アイスコーヒーのこと、アイスコーシーって言ったりね。ホント、ありすって女子高生なのに、おばあちゃんみたい」
 ウーが調子に乗る。時夫も、ありすが「T字路」のことを「丁字路」といったときはおやっと思ったが、ひょっとするとこのゴスロリ衣装も、実は本物のアンティークドレスかもしれない。「半町半街」は、アンティーク家具を扱う店でもある。
「おばあちゃんて酷すぎじゃない? 失礼な」
 確かにお姉さん、おばさんを通り越していきなりおばあちゃんとは言いすぎだろう。
「でも確かに、漢方薬局に色々珍しい骨董品売ってるし、ひょっとすると店長の影響かもしれないな」
 時夫がフォローする。
「さおやぁ~~~~ん。さおだけぇえええ~~~ん」
 セクシー竿だけ屋は中央公園を通り過ぎていった。
「シムラウシロ!」
 竿だけ屋の黒水晶が「シムラウシロ」を放った。
「やるわねぇ、しかし」
 ありすはハンドルを右へ切って避けた。
「カトチャンペッ!」
 ありすは右手の二本指を鼻の下につける。すると衝撃波の壁が前方に放たれた。敵のシムラウシロが完全に相殺されている。
「そういや昔さぁ……」
 さおだけ屋を追いかけながら、なかなか距離が埋まらないのでウーが話を続けようとした。やっぱり走った方が速いんじゃ? 追いつくんじゃ? と時夫は喉まで出かかっている。すると車の右手に、巨大な黒い陰が併走して飛んでいる気配を感じた。とはいえ、天候になんらの異変はなかったので、サンダーバードではない事は分かった。巨大なトンボだ。体長七十センチ、羽を広げると二メートルはある。渡る世間は鬼ヤンマですかそうですか。
「何コレ? デカッ」
 ウーが唖然として沈黙した二人に代わって叫んだ。
「ム、ムカシトンボだよ。いや正確にはメガネウラか。追跡に気づいた敵の科術かもしれない。そうかもしれない。偽科術め」
 「虫」というより「蟲」。ありすの顔からして虫は苦手そうだ。蛾蝶や蜂人は大丈夫だったのか?
「敵の反撃か! それで昔……」
「ギャアアア」
 ありすが絶叫した。珍しい。
「バリウム飲んでるような声出さないでよ」
 ウーがびっくりする。
「ヘリウムね」
 ありすは上を見ろと目で合図する。
 巨大な触覚がフロントガラスの上方からチラチラ見えていた。明らかに上で巨大な何かが、確実にうごめいている。無数の足が屋根を擦るカシャカシャカシャ……という音がする。それの正体は……。
「ムカシムカデ、いやヤスデ?! せ、正確には……正確にはアースロプレウラだったけな」
 体長二メートルの巨大節足動物が車の屋根にしがみついていた。ありすの運転が蛇行をしはじめ、ウーと時夫はしがみつかなければいけなかった。
「いや、いやだから昔……」
「だから昔の話はヤメロっていってんだヨ!!」
 ウーが「昔」というたびに、何かが発生している。それは確実だ。やっぱりウーが怪しい!!
「ねぇ時夫ォ~非道(ひど)いんだよ。ありすが昔の話はするなって……」
 ウーが泣きそうな顔をする。「時夫が昔話聞きたがってるのに~」と続ける。確かに、時夫は昔の二人の話を聞きたかったが。
「いやそうじゃなくて。状況、状況、外の状況を見てよ」
 ドシン・ドシン・ドシン。
 今までと違う重厚な音が背後から響いてくる。嫌な予感がして三人は後ろを振り返った。
 Tレックスが追ってきていた。もう、この車降りたいと時夫は本気で思う。
「黒水晶の科術だよ! やるわねぇ」
 もしかすると連中の正体は全て白彩の菓子細工かもしれない。むろん、悪趣味極まるが。
「あたしの無限たこやき、真正面からしか撃てない。横の奴とか、上の奴とか、ウー。頼んだわよ」
「なんであたしが?」
「自分の責任でしょ。何とかしなさいよ、あんたの科術の呪文で」
「もうしょーがないなぁー。時夫、反撃するからボード代わって」
 時夫はいきなり手渡され、慌てて震える手でスーパーカー消しゴムを操作した。石川ウーは車窓から箱乗りして、屋根にくっついているアースロプレウラをギャーギャー言いながらもうさぎビームで退治した。続けて、自在な動きで飛び回るメガネウラを指先をくるくる回して、目を回させ退治に成功する。破壊の際の感触によると、やっぱり和菓子細工だったらしい。
「目が回っちゃった」
 自分で回した指差しで目を回してどうする。
「あいつは任せて。運転しててもやっつけられるから」
 不敵に笑うありすは、Tレックスに向けて例のアレを放つようだ。後部座席の時夫は上半身を伏せた。
「シムラウシロ!」
 ありすは運転席から振り向き様に叫んだ。三人で車の後方に追ってくるTレックスを見ていると、何とTレックスは器用に「シムラウシロ」の衝撃波を避けていた。
「ほら、手を止めないで。スピード落ちてるわよ」
 ありすに言われて時夫はボード操作を再開する。
「シムラウシロ! シムラウシロ!」
「ダメだ、全てかわされている……」
 まるでシムラウシロを学習した耐性菌みたいだ。おまけに、さおだけ屋の後をくっついて走っているだけなので、今現在町内のどこを走っているのかもよく分からなくなっている。
「酔っ払いのお土産の科術は?」
「あれ、どっかから帰ってきた時限定」
 他の二人は運転できないので、ありすの運転を代わるわけにもいかない。
「Tレックスめ~。フライド恐竜にしちゃうゾ!」
 できるもんならやってみな。
「あそうだ!」
 時夫はボールペンを分解し始めた。
「何してんのよ?」
 ウーが怪訝な顔で見つめている間、時夫は取り出した金属製のバネを引っ張って伸ばした。伸びたバネを再びボールペンの中に仕込む。勢い二倍で弾きやがれ! するとボールペンのボタンを押した途端、スーパーカー消しゴムは勢い良く飛び出し、相手のコマにぶつかった。ありすの車も、竿だけ屋に急接近し、ガシンとぶつかった。
「お手柄……」
 Tレックスは所詮お菓子で作られたモノ、長時間あの巨体で走るようには出来ていない。スピードに乗ったありすの車にどんどん引き離されていった。時夫はペンを手の上でシャカシャカ回した。
「問題の焦点を絞ったことで、Tレックスが無関係になっていく。奴を追い詰めるのも時間の問題だ!」
 なにか金沢時夫もいっぱしの科術使いになった気分だった。T字路を何度か曲がっているうちにTレックスは消え去っていた。
「なるほど確かに! Tを制するものはTを制す!」
 時夫が得意げに宣言したところで、セクシー竿だけ屋がドリフトしながらT字路を左に曲がった。今度こそ車から降りて掴まえてやる。だが、セクシー竿だけ屋のアナウンスが突如途絶えた。
「ストップ! 金時君」
 ありすの声で、時夫はボード操作を止める。見覚えのあるお化けアロエがあった。
「一度踏み入れると二度と戻れない横丁……なんて事だ」
 前に一度来て、ありすが忠告した場所。道の向こうが不自然に暗くて何も見えない。正式名称は「バミューダ横丁」というらしい。第一この辺一体、さっきまで走ってた通りより町全体が暗い。夕丁目だ。もう黒水晶と白井雪絵は、時空の狭間、トワイライトゾーンから、地下世界へと姿を消したのだ。
「うかつだった。相手はめちゃめちゃに逃げているようで、最初からここを目指していたんだ。白彩に到着しないと分かった時点で、行き先を変更したわね。ムカシトンボやTレックスに気を取られて気づかないなんて、ああ、あたしとした事が……本当にうかつだった」
 時すでに遅し。ありすの顔に ○| ̄|_ と描いてある。ちなみに、このお化けアロエの正式名称はリュウゼツランらしい。
「……リュウゼツランはロケットバーガーのワサビサイダーに使われていた、アガベシロップの原材料よ」
「で、どうなる、これから」
「もうダメだ。雪絵さんは地下で女王サリーの餌になる。サリーがさなぎからふ化して、完全に地上に這い出てくる。私の黒水晶まで地下に行ってしまった。今まで不思議の国現象で留まっていたものが、完全にお菓子な国現象にまで進化する」
「どこがどう違うんだ」
「これまでみたいに雉とか、雪絵さんとか、Tレックスみたいに一部がお菓子になるだけじゃない。町が、全てが……お菓子になる」
 ありすは呆然とT字路でたたずみ、左側路地の霞む暗闇を見つめていた。
「冗談だろ。俺はそんなの認めない」
 時夫はスーパーカー消しゴムのボードを地面に置いて、ボールペンのボタンを押すと、闇の向こうへと勢いよくありすの車を発進させた。
「ちょっとトキオ、バカッ」
 三人は下車していたので、車は自動発進した。闇の向こうでガッシャーンと派手な音だけが響いてきた。リュウゼツランが化け物のように踊り出し、電線が唸り声を上げて激しく震えた。時夫は闇に向かって走り出した。
「待って!」
 ありすは叫んだ。
 ウーはしゃがんで、ボード上のカウンタックを逆向きに飛ばした。車が勢いよくバックしてきた。それっきり、横丁は暗闇の向こうで沈黙した。車の中に、気絶した白井雪絵と時夫が乗っていた。
「……無茶しないでよ。もうちょっとで女王の虜になるところだったよ。金時君、君まで居なくなったらあたし」
 ありすはぽつりと呟いた。
 ありすにも、横丁のどこまで先まで行けば二度と引き返せなくなるのか分からない。時夫は幸運だったのに過ぎなかった。
「そうだ、中継者は?」
「そうだね。まだ中継者から師匠に連絡を取ってる最中だった」
「そっちは?」
「この近くに、中継者の基地がある。行きましょ」
 古城ありすによるとその中継者とは、ありすが契約しているスマフォの携帯ショップだが、案の定その辺にある「ショップ」ではなく、大災害などで一切の通信が遮断された状況でもつながるという、ある種の科術使いらしい。その店主はお店さえ構えていないそうだ。そういえば、時夫はあれきり伊都川みさえと連絡を取っていない。今も通じるのか不安だった。彼に会えば、みさえにも連絡がつくかもしれない。問題はその個人商店たる中継者が機械音痴の男で、おまけにかなり「抜けている」ことだ。
「こっちは切羽詰ってんのよ。直接掴まえて問いただすわ。何がどーなってんのか」
 ありすは指をパキパキと鳴らした。
「本当に大丈夫なんだろうな? そいつさ。女王の手先でないと言いきれるのか」
「大丈夫に決まってんでしょ。師匠の知り合いよ。科術使いだから信用してるの。今じゃ、最後の希望といってもいい」
 それは一体どんな科術なのか?
 三人は車を夕丁目に置いてありすの携帯を頼りに歩いた。
「近いわ。皆、変な奴みたら教えてくれる」
 俺達は変な奴を追っているのか。そう時夫が不審に思っていると、ありすとウーは中腰の姿勢でカニ歩きしながらあたりに目をらんらんと光らせるといった、怪しすぎる動作で探っていた。ターゲットの中継者は、半径百メートル以内にいるという。相手は仕事サボって何をほっつき歩いているのか知らないが、ありすに掴まったらとんでもない目に合わされるだろうなと予想できる。

 ジャーン!

 シンバルを鳴らす音がする。

 ジャーン!

「居た!」
 ありすが指差す五十メートル先の十字路に、右からオリンピックおじさんのような派手なチンドン屋が歩いてきた。頭にアンテナ着きのヘルメットをつけ、サングラス、ひげ、アロハシャツ、背中に何かの機器を背負い、そして下駄を履いている。南国のサンタクロースといった風情。日焼けした両腕にシンバルを持って、十メートル置きに立ち止まり、くわっと歯を食いしばり空を見上げて「ジャーン!」と鳴らす。
 ありすは電柱の影でへなへなとその場に崩れ落ち、転げ回って笑った。こんな爆笑するありすをウーと時夫は始めてみた。
「……だ、ダメだ。ダメだこりゃ」
 確かにありすの言うとおりだ。科術が何か分からない金沢時夫でも、通信するのにシンバルを鳴らして歩き回ってる、あのインチキ雨乞いの祈祷師みたいな輩が外との通信に成功するとはとても思えなかった。この町は完全に外界と遮断されている。完璧なクローズド・サークルだ。ところが……
「雪絵さんを連れて、一刻も早くこの町を脱出しないと」
 ありすはこの町の何かを見極めたのか、はっきりとそう言った。
「えっ。でも、君が脱出できないって言ったんじゃないか」
 ロケットでも脱出できなかった。
「ぷらんで~と・恋武の箱庭システムを停止させた今だからこそ、脱出できる道が存在する。ロケットは単なるガス欠に過ぎない。黒水晶の箱庭がまたどっかに復活しない内に、今こそ脱出するチャンスよ。金時君も、東西南北すべて試した訳じゃないでしょ。少なくとも私が動けば脱出路くらい見つけられる」
「逃げるってどこへ?」
「ここじゃない何処かよ。考えてる暇はない。もう二度と、雪絵さんを女王に取られる訳にはいかないの。がむしゃらにやれば可能性はある。やってみるしかないよ。金時君、ウー、行くよ」
 いや、セリフはかっこいいけれども……。ありすも確証はないらしいが、確かにありすの言うとおりだろう。事が魔学が絡んでいるなら、必ず科術で打ち破れるはずだ。雪絵はまだ気絶している。
「う、うん……」
 石川ウーは浮かない顔で親友に返事をした。

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