新型遊精の、各社販売合戦・1
4月1日。
この世界では1月から春、4月から夏という感じで三ヶ月の月の最初で季節が変わる。
秋分の日だけ6月2日とズレてしまう以外は、春分の日の1月1日、夏至の4月1日、冬至の10月1日と全て1日に来るので分かりやすい。
そして今日から学生が夏休みに突入する。ということで、新製品の売出しには絶好の日取りなのだ。
大須神具街。この国最大の、様々な神具を販売するお店が軒を連ねる繁華街。
ユーさんがアキハバラみたいだと言っていたが、異世界にも似たような場所があるのだろうか。
さて、今日からこの繁華街の一角に特設会場が設置され、遊精主要三社が新製品の宣伝を競う。
と言っても他の二者と違い我が社ユーユーだけ少数精鋭なので、会社は閉めて社員総出だ。
その代わりと言っては何だが、今回助っ人は多い。
「何で僕が……」
とスズちゃんの弟、
「いやー、前から話には聞いてたが一度お会いしたかったゼ」
「いつも兄がお世話になってますの」
と元気な声を上げるのはメッキくんの家族の父と妹。
「父の
「妹の
「あのな親父にカドミ、家の仕事はどうしたヨ」
自己紹介する父と妹に、メッキくんが頭を抱える。
「ああん?会社といえば家族も同然、そいつが困ってるとなりゃ助けるのが当然だゼ?」
「というのは建前で、兄の会社が美人女性揃いと聞いて興味津々だったんですの」
「おいカドミ、そういうのは内緒にしとくもんだゼ?」
「つか親父よ、そこで肯定しなきゃごまかせたんじゃねーの?」
「あ」
何だろう、この漫才一家。まぁ、楽しそうで何より。
さて、仕事に戻ろうか。
我が社ユーユーのウリの新製品は、成長する遊精”ゼロ”。
対するケドコは、国民的歌姫、水木朋そっくりな遊精”トモ”を全面的に押し出している。
この三社のうち、元祖にして最大手のカシコモだけが無名だったんだけど、今日解禁になったその新商品は、我々以上に独創的な案が話題になった。
”
我が社の新製品”ゼロ”とは違った形で、自分好みに変えられる遊精。
その発想があったか、とボクは舌を巻いた。
これを考えた人はどんな人なんだろう、とボクはそちらに興味が湧いた。
見るからに天才肌なのか、意外にユーさんみたく普通なのか。
などと考えながらカシコモの販売ブースを見ていると、丸メガネにだぶだぶの白衣、頭が天然パーマの少年がやってきた。
そして彼は社員と何やら会話をした後、こちらに向かって歩いてきた。
「小娘、ゼロの発明家は何処であるか?」
いきなり横柄な口調で、白衣の少年がそう言う。
「人に物を尋ねる時は自分から名乗るって教わらなかったか?」
とボクが不満気に言うと。
「そんな非生産的な行為に意味を感じないのである。
吾輩は、吾輩の関心のある事柄だけ確認出来れば良いのである」
あ、駄目だこれ。典型的な”人の話を聞かない変態科学者”だ。
「誰が変態であるか!失礼である!」
「お前が言うな!」
「あらあら、アルミちゃんどうしたの?」
そう声をあげ工場長が姿を見せる。
「これは姫様、ご機嫌うるわしゅうである」
「あー、久しぶりねぇリッちゃん」
リっちゃん?工場長の知りあいなのか。
「ああ、紹介するわ。
彼はカシコモの第一研究開発部長
「通称って、そう呼ぶのは姫様だけであるがな」
やや工場長とは違う温度差で、リッちゃんこと本郷が口を開いた。