バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

1-8-7 柴崎さんと三田村先輩?キングの槍?

 例の問題児の柴崎さんが、俺たちの前にやってきた。
 少し目を腫らして、小生意気そうな顔も少ししおらしくなっている。

 「あの、格技場主催の狩りに参加させてください!」
 「柴崎さん、あなたは【身体強化】を取ってないので、皆に付いていけません。足手まといなので勿論ダメです」

 「十分反省してます!お願い見捨てないで!」
 「信用はたった一度で失います。信頼されるまでに皆努力をして信用を得るのです。二度も裏切ったあなたの言葉はもう信じられません」

 「頑張って付いていって魔獣を倒してちゃんと【身体強化】を最優先でLv10にします」
 「武器も持たずにどうやって魔獣を倒すのですか?最弱のゴブリンでも素手では厳しいですよ?」

 「おい、小鳥遊!いい加減にしろ!幾ら何でも可哀想だ!ここに一杯あるんだから武器一本ぐらい貸してやれよ!」

 「あはは、三田村先輩は龍馬君に良いように利用されてくれますね。うふふ」
 「え?あの、な、何の事だい、城崎さん?」

 いきなり桜に声を掛けられ、ちょっと頬を染めて緊張している……ちょっとイラッとする。
 俺の嫁に頬赤らめんなボケー!

 「兄様、何でそうやっていつも悪役を買って出ようとするのかな?」
 「ん!龍馬はバカ」

 「え~と、どういう事だい?」
 「三田村先輩は、兄様に利用されているのですよ」

 「こら、菜奈!人聞きの悪い言い方するな!」

 「兄様は柴崎先輩を見捨てたりしませんよ、ねぇ桜先輩」
 「そうね、なんだかんだ言いながらどうせ助けるんでしょうね。柴崎先輩、龍馬君は昨日の夕飯時、あなたを私たちA班と同じゲーム脳の人みたいだから、草原に出たらうちのPTで預かってパワーレベリングをするけど仲間に入れて良いかと許可を求めてきていたのですよ?なのに一夜明けたらまたあなたは同じ裏切り行為をして、龍馬君がどれ程落胆したか思うと、多少は彼に苛められたら良いと思います。でも龍馬君の真意はあなたを苛めるのが目的じゃないのよね……」

 「ごめんなさい。私、昨晩寝た時にオークの事思いだして、怖くて怖くてどうしようもなかったの。あの部屋で死にたくないという思いが強く出てしまって、怒られるかなと思いながらも回復魔法を取ってしまいました。でも小鳥遊君の真意ってなんですか?二度も命令無視した私を許せなくて意地悪言っているんじゃないの?」

 「期待を裏切られて憤りを覚えてるのは事実でしょうけどね。でもそれで苛めたりするほど私の旦那様は矮小じゃないわよ。ただあなたの罰も兼ねてでしょうけど、他の皆の前で態と突き放して孤立させているのは、皆に和を乱す協調性のないこういう行為をしたらこうなるぞっていう牽制の意味が強いのよ。苛めというより、少しの間だけ与える罰ね」
 
 「なんでそれで俺が利用されてるって事になるんだ?」
 「態と邪険にしているんだけど、止める人がちゃんといないと、本当に只の苛めで終わっちゃうでしょ?だから龍馬君は柴崎先輩を突き放す時には必ず止めに入りそうな美弥ちゃん先生か高畑先生、もしくは三田村先輩か美咲先輩が近くに居る時だけにしています。要は止め役に利用されたんです」

 「で、まんまと小鳥遊の思惑通りに俺は動いてくれたと……」

 「兄様はツンなのです!デレを見せたくないので、デレ役を人にやらせて自分はツンツンなのです」

 ちょっと菜奈にムカついたので、でこピンを入れておく。
 ビシッ!

 「ンギャー!痛い!痛い!死ぬ死ぬ!未来、未来ヒールして!」

 おや、ちょっとやり過ぎたかな。近くに居た未来ちゃんの所にすっ飛んでいった。
 【身体強化】MAXのデコピンは強烈だ。まぁ、菜奈もMAX状態なので死ぬことは無いだろう。

 「で、彼女どうする気だ?」
 「草原はマジ危険なんだそうです。一人の不注意で何人死人が出るか分かりません。行動無視や、協調性の無い人が一番危険なんですよ。最低限自衛できない人や、死を恐れる人はここに残った方が良いです。無理に平原に出て怪我をしたり仲間が死んだ時に、俺たち戦力組のせいにするような人もご勘弁です。で、柴崎さんはさっき言った項目に幾つも引っ掛かっています。俺的には残留して、教員棟に行ってもらいたいですね」

 「それが無難な選択だよな、可哀想だが俺もそう思う。そう思ってはいるんだけどな……う~ん」

 「嫌よ!教頭たちの動画を昨晩友人が見せてくれたけど、あんな人たちが居る所になんて行けないわ!お願い、もう勝手な行動しないから見捨てて行かないで!」


 「小鳥遊……俺たち格技場の者で、出発までにレベルを上げて【身体強化】も取らせてくる。それじゃダメか?」

 それだと何かあった時に、格技場のあなたたちの責任丸被りじゃないですか?困った人だな。

 「ちょっと皆さん良いですか?今回柴崎さんが問題行動をとりましたが、昨日今日でよく解ってなかったっていうのもあると思います。格技場の男子が出発までにレベルの補償をしてくれるそうです。もし移動中に何かやらかしたときは俺の転移魔法で学園に強制送還しますので、どうでしょう?同行に反対な人は居ますか?さぁ、あなたからも誠意と決意を聞かせてください」

 「皆さんごめんなさい。自分勝手な考えで迷惑をかけましたが、以後は従います。どうか見捨てないで私も町に連れて行ってください。お願いします」

 「だそうです。嫌だって人はこの場で手を挙げて反対理由を聞かせてください」
 「はぁ、龍馬君。茶番はもういいですよ……先生見ていてちょっと恥ずかしいです」

 「何を言うかな、このちみっこは!」
 「皆が手を上げないのを知ってて龍馬君が言ってるの……先生分かっちゃってるのよね。うふふ」

 俺は余計な事を言う美弥ちゃん先生の可愛いほっぺをつねって、口を横にミニョーンと引っ張った。

 「痛いでしゅ!何するんでしゅか!私、先生なのに、先生なのに……」

 「小鳥遊?また良く解らないのだが?」

 「三田村先輩はダメですね。柴崎さん本人を目の前にして、置いていくって方に手を挙げられるような人がそうそういる訳ないじゃないですか。後で集計じゃなく、今この場で手を挙げろと兄様は言ったのですよ?誰も手を挙げられない状況での選択権です。これでもし柴崎先輩がまた何かやらかしても、意見を言った三田村先輩だけが責められなくて済むようにしたのです。兄様がよく行う責任の分散化ですね」

 「奈菜、余計な事は言わなくていい」

 「そういう事か……悪いな龍馬、俺に気を使ってくれたんだな。柴崎先輩はこっちで責任を持って今日中にレベルを上げてくるよ」

 「「「あ~!小鳥遊呼びが、龍馬になってる!」」」

 「何やら一部の女子から腐った気配がするんだけど……柴崎先輩の事はともかく、うちから貸し出す娘たちに怪我させないようにしてくださいよ」

 「ああ、それは勿論だ」

 「三田村君、助勢してくれてありがとう!あなたに迷惑は掛けないようにするね!最初のレベルアップまでは宜しくお願いします」

 柴崎さんも、流石に反省してくれれば良いけどな。



 最後に非戦闘員に仕事を割り振る。

 「非戦闘員の人は、今日明日中にテントの組み立てを行ってください。俺たちには【亜空間倉庫】があるので、毎回現地で組み立てる必要はないです。時間もかかるのでここで先に組んで、現地では杭で固定するだけの状態にしてそのまま保管して移動します」

 即野営が出来るように、各役割を話し合ってもらっている。
 テントを固定する者、かまどを設置する者などだ、やることは結構ある。
 
 特に班作りは結構大変だ。
 何人かの仲の良いグループを作って班ごとにテントで寝ることになる。
 この班構成が悪いと喧嘩が必ず起きる。魔獣以外でのトラブルまで背負い込みたくはない。


 集会解散後、俺は格技場の男子を呼び止め、個人的アドバイスを行った。


 「女子が今回沢山一緒に行動してくれますが、くれぐれもエロ行動やエロ発言がないようにお願いします。先輩たちにも春が訪れる大チャンスですので、慎重に行動してください」

 「「「え!?いいのか?」」」

 「恋愛をするのは自由ですよ。でもここで急いて『うざっ』っとか思われたらもう後は無いかもです。なのでエロ感情は抑えて真摯に魔獣退治に専念してください。その雄姿を見た女子が何人か気を許してくれるかもですよ?」

 「小鳥遊、お前はどうやってあれほど料理部の皆に慕われてるんだ?あそこは可愛い娘ばかりなので凄くガードが固くて、男子は悉く惨敗だって聞いてたのに……なにか秘訣があるんだろ?」

 この質問は空手部主将の水谷先輩だ。

 「俺は偶々妹が料理部に居たからですよ。まぁ、俺に好意を持ってくれた娘は、皆、命の危機の時に救出してあげた娘ばかりなので、吊り橋効果が高いのかもです。なので、今回の狩り遠征で身を挺して彼女たちを先導してみてはどうですか?」

 「なるほど、よくアニメである悪者を倒してヒロインとくっつくってヤツだな。小鳥遊はそれが重なったと……運の良い奴だ」

 「運だけで女子は気を許してくれませんよ。あ、それとうちの優ちゃんには特に細心の注意をしてください。俺も彼女には一目置いています。彼女の情報網は、学園を網羅しています。彼女がダメダシしたら、おそらくその情報は即日のうちに女子全員が知る事になるでしょう」

 「それは恐ろしいな……女子の情報網か。気を付けるよ」




 茶道室に戻り軽い打ち合わせを行う。


 「キング討伐おめでとう。少しひやっとする場面もあったけど皆無事で良かった」

 パチパチと拍手が起こり皆笑顔になる。

 「優ちゃんと、みどりちゃんが出張中だけど、このキングが使ってた槍、薫ちゃんにあげようと思う」
 「え!?いいのですか?」

 俺は槍を振り回して簡単な演舞を見せた後、薫ちゃんに手渡した。
 【リストア】で新品状態にしているその槍は、誰が見ても良い物だと分かるオーラを纏っている。
 
 「希少金属オリハルコンの槍だ。現状ここにある武器の中で一番すぐれているし、値段も凄い。ダンジョンなどでたまに出る国宝級で、売ると億超えだ。今回薫ちゃん頑張ってたからね、売ってしまうよりちゃんと使える薫ちゃんが持ってると良い。中1の薫ちゃんの体型には少し握りも大きいかもだけど、2年もすれば丁度良くなるかな。付与に貫通力増加・武器耐久力強化の付与があるから、刃こぼれしにくいし突きに向いている槍だね」

 「ありがとうございます龍馬先輩!大事にします!嬉しいです」

 「皆、羨ましそうな顔してるけど、槍だからね?他の人じゃ装備できないでしょ?雅そんな顔しない!」
 「ん!解ってるけど、やっぱり羨ましい……オリハルコンの武器私も欲しい」

 「雅にはちょっと考えがあるから、この後別で話すな。クイーンの杖はヒール特化の付与付なので未来ちゃんに、プリーストたちが持ってたミスリル製のちょっと良い杖は攻撃系の付与付の物は美加ちゃんと沙織ちゃんに、回復系の物は優ちゃんとみどりちゃんに与えるね。剣系は大体同じような感じの物が多いので、各自で使い勝手の良い物を選んでいいので、修理して纏めて置いておくから各自で選んでね。非戦闘員もここにある物はミスリル以上の品だからお金にもなるので必ず一本選ぶように」



 うちのメンバーにも念のためにテントを組みたてさせておく。
 俺は雅に約束どおり秘密を教えて、スキルをコピーしてやるために華道室で二人きりになった。

しおり