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6、……俺の出番ないね。

「それで、あなた達はいったいなぜこのような場所へ?」
「それはこっちの台詞だ、お嬢ちゃん。どうやってこんな所まできた? それに、そのドラゴンは?」

 ルシアちゃんの問いかけに、パーティーのリーダーらしきおっちゃんが質問で返す。まぁ、そうなるよな。
 一応、盗賊とか犯罪者の可能性もあるし、レベルだけでもチェックしておくか。

「全てを見通す神の眼!」

 俺はルシアちゃんを庇うように立つと、おっちゃん達を鑑定した。どれどれ……。
 ルシアちゃんとやり取りをしているリーダー格っぽい剣士のおっちゃんが「アルベルト レベル 66」、もう一人の剣士のおっちゃんが「バルドヴィーノ レベル65」、魔法使いのおっちゃんが「ベルナルド レベル99」?! 盾のおっちゃんが「チェーザーレ レベル65」、弓のおっちゃんが「ドナート レベル61」か。
 こんなにレベルが高かったから撤退しなかったんだな、と納得しつつ、それでもミノタウロス相手に防戦一方だったという事実に愕然。

「お嬢ちゃんじゃありません。私はもう十二歳です! この奥には女神様の寝所しかありません。私は聖女です。修行を終えて勇者様を探しに行くのです!」
「聖女様だって?!」

 子供扱いされたことにルシアちゃんがプリプリしている。って子供じゃん! え? 十二でその発育なの!?


「それにリージェ様に武器を向けるのをやめてください。リージェ様は聖竜なのですよ!」

 アルベルトはルシアちゃんが聖女だと聞かされて、勢いよく跪いた。
 うん、こいつら美少女を襲うような奴らじゃないみたいだ。
 俺は警戒を解いてルシアちゃんの肩に乗って落ち着くよう言ってみた。通じないけど多少効果はあったみたいで、頭を撫でてくれる。

「失礼ながらベルナルドが鑑定をかけさせていただきました。貴方は確かに聖女様ですね……ですが、そちらの竜は聖竜ではありません」

 魔法使いのおっちゃんがアルベルトに何やら目配せをしたと思ったら、アルベルトがそう切り出した。口調も態度も先ほどまでとまるで違う。
 どうやら魔法使いのおっちゃんは鑑定持ちらしい。そうだよ、俺は聖竜じゃなくて暗黒破壊神だよ。
 もしかして、聖竜もそういう称号があるのかもな。どちらにしろ、女神を信仰する気のない俺が聖竜と認められることはないだろ。

「そんなはずはありません! リージェ様は先代聖女様が探し出して神殿にお連れしたのです!」

 俺が聖竜であることを否定されたルシアちゃんが憤慨した様子で怒鳴る。俺のために怒ってくれてるのがちょっと嬉しい。でもね、俺は本当は暗黒破壊神なんだよ。
 聖竜じゃないってバレちゃったし、ルシアちゃんとはここまでかな、と思ったら、思わぬ援軍が現れた。


「聖女様、失礼致しました。まだ(・・)聖竜ではない、というだけで成長し使命を自覚すれば聖竜となり得るでしょう」

 俺を聖竜ではないと断言したベルナルド本人がそう宣ったのだ。今はそんなことを議論している場合ではないとアルベルトが口を挟む。 

「聖女様、我々は聖女様をお迎えに来たのです。どうか、御力をお貸しください」

 アルベルトが言うには、王都に突然暗黒破壊神が現れたらしい。そして、都の中心地に強力なモンスターを召喚すると去って行ったそうだ。話を聞いたルシアちゃんの慌てぶりからするに、王都って言うのはルシアちゃんのいた国の都市なんだろう。
 モンスターは何とか討伐できたものの、結界柱を壊されモンスターの侵攻に遭っているらしい。結界を張り直せる聖女を呼び戻しに、少数精鋭でダンジョンに潜ったとのこと。

「なるほど、それで私の力が必要と」
「んん? でも、もともと結界張ってあったのだろう? ならば何故偽暗黒破壊神が王都に侵入できたのだ?」

 言葉は通じないってわかってるのに、つい疑問が口に出ちゃった。

「急ぎましょう」

 ルシアちゃんの言葉に、アルベルトが陣形を指示する。先頭にアルベルトとドナート、真ん中にルシアちゃんと俺とベルナルド、後ろをバルドヴィーノとチェーザーレというバランスの良い陣形だ。

 ミノタウロスを倒せるほどの高レベル冒険者が一緒とはいえ、急ぐ都合上戦闘は極力避けつつ最短距離を突き進むことになった。
 ベルナルドが魔法で最短距離を探り、弓士のドナートがいち早くモンスターを察知。どうしても避けられない時だけドナートが弓で牽制しつつアルベルトが特攻をしかけ排除する。高レベル冒険者のコンビネーションアタックは目を見張るものがあった。

 ……俺の出番ないね。


『さっきの君の疑問だが』
「うぉっ?! びっくりした!」

 突然頭の中にベルナルドの声が響く。

『おや、それはすまないね。君は聖女様が言う聖竜ではない。だが、君が俺達を信用できると聖女様に訴えかけてくれたお礼に、俺達も君を信用することにした』
「俺の言葉わかるの?」

 俺の言葉に、ベルナルドは頷いて見せる。信用すると言ってくれたのは真実らしく、とても優しい瞳をしていた。

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