初デートと、仲の悪い姉弟・前編
定刻で仕事が終わった後、私服で楽しそうに街中を歩くメッキくんとスズちゃん。
その後を尾行するボクとナマリさんとユーさんと、あと工場長の四名(+ボクの遊精のジュラ)
「バカップルのリア充どもがラブラブデートとか、見過ごす訳には行かないわ」
と、工場長の鼻息は荒い。
ええとすみませんバカ何とかもリア何とかも、ラブ何とかまで、一つも意味が解らないのですが、何処の言葉ですか?
いや何となく雰囲気から恋人疑惑の二人を監視したいという意図は伝わったけど、今はまだスズちゃんの片思いな気がするんだよねえ。
さて監視先の二人は工具を買いに専門店へ。
製造部門に配置になったスズちゃんのために、製造の先輩であるメッキくんが良い道具を見繕ってあげているようだ。
その後二人は
「地味ね」
工場長がつぶやく。
「初デートなんだからもっとこう、ロマンチックな場所に行くとかないの、二人は?」
あのー、デートもロマンチックもよく分かりませんが多分恋人同士が行くのには物足りないって言いたいんだよな。
「もし工場長がその、”はつでぇと”とやらに行くとして、何処だったら満足なんです?」
「そりゃもちろん、海とか服の買い物とか映画とか?」
「あっ、映画いいですねー。今度好きな異世界時代劇が映画化するんですよ」
「おお、あの有名な二大剣豪の対決物で御座るな」
好きな話題で盛り上がるボクとジュラだったが。
「アルミちゃん、もし恋人とデートが決まっても絶対それはやめなさい。
刀での切り合いをカップルで見て何が楽しいの?」
工場長に否定されてしまった。
「うちなら、こんな龔丼屋より、もっと高級そうで夜景の良い旅館の最上階で食事とかに誘って欲しいだべ」
「あらナマリちゃん、良く分かってるじゃない。そうそう、ムードが大事なのよ」
「今度連れてって欲しいべ、工場長。うちらよりお金持ってるべ?」
ナマリさん、それ恋人関係なく自分が行きたいだけじゃ……
などと話しているうちに、二人はとある工業高校の前を通りかかる。
ここは確か、ボクが女子高生の頃は札付きの不良が多いので有名だった場所だ。
今もそうなのかな?
「あ、懐かしいっスねー、自分昔ここに通ってたっス」
今は落ち着いたけど、昔は結構ヤンチャしてたんスよ?」
メッキくんがさらっと、爆弾発言をする。
が、しかし。
「知ってますっ」
さらなる爆弾発言をする、スズちゃん。
「え?」
「昔、助けてもらいましたっ。当事、ここの番長だった、あなたに」
「えっ……」
「やっぱり、覚えてないですよねっ。私は、今まで一度も忘れたことないんですけど」
さて二人の会話は続いているが、尾行側はそれどころでない状況になっていた。
「ば、番長て、ナマリさん知ってた?」
「いや初耳だべ」
「あれ、ナマリさんもそんな茶髪だし、てっきり昔一緒にワルの仲間だったのかと」
「うちの髪の色はそういうんじゃなくて、他に理由があるだべ!」
「理由?」
不良に目覚める以外に茶髪になる理由、そんなものが有るなら聞いてみたいが。
「話すと長くなるべ、また機会のあるときだな。それより工場長」
「あら、私?」
「工場長は、メッキがバンチョーだったのを知ってただべか?」
「ええ当然」
胸を張って工場長が答える。
「まだあの子が悪ぶってた頃に、我が社に勧誘したもの。その時は断られたけどね」
「ほう、それはぜひ聞いてみたい話だべ」
ナマリさんがそう声をあげる。ボクも同感だ。
「んー、話してあげたいけど、今はそれどころじゃなさそうよ?」
「へっ?」
工場長の言葉に、再びメッキ達二人に目を向けると、彼らは改造学生服を来た、複数のガラの悪そうな青年たちに囲まれていた。
あの制服、多分この工業高校の生徒だろう。
ボクが学生だった頃から、ここの不良度合いは変わってなかったらしい。
「えっ、アキラ?」
「スズさん、知り合いっスか?」
「えっと、弟の
どうもあの不良の中に、スズちゃんの弟がいるらしい。
言われてみればスズちゃんに顔の似ている小柄な少年がいるな、あの子かな?
「ふーん……ずいぶん悪そうな仲間と一緒なんスね」
「何だとゴラァ!!」
メッキくんの挑発するような発言に、不良の一人が反応する。
しかしソレに対してスズちゃんは少しも怖がらず、むしろ安心した表情だ。
そりゃそうだろう、だって二人の話が本当ならメッキくんは。
「あん?オメェラよぉ、誰に向かって凄んでんだァ?
この”
メッキくんが別人のような口調で、不良共を威圧した。