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新入社員歓迎会・中編

「じゃ最初はうちからいくべ!」

 茶髪を後ろで束ねた女性が、そう言って立ち上がった。

「うちは潘棚(はんだな)マリ、この会社”ユーユー”の製造担当、
 皆からはナマリって呼ばれてるべ。
 東北の出身で方言が強いって皆に言われるが直す気はねえべ。これは国の誇りだべ」

 ユーさんが不思議そうな顔をする。
 ははあ、国の誇りの意味が分かってないか。

「潘棚家は、先祖代々有名な職人の家系なんだよ」

 そうボクが補足すると、納得したみたいだった。

「にしてもユーさんだったか、さっきの神具を消す仕草とか、なんか格好よかったべ。
 も、もし今彼女とかいなかったら立候補してもいいだべか?」

 工場長はヒョゥと口笛を鳴らし、ユーさんを含め驚く他の男性陣に対して女性陣は、ボクを含め生暖かくその様子を見守った。

「だ、駄目ですそんなのっ!」

 一人反対する、スズちゃんを除いて。

「何だ、スズちゃんもユーさん狙いだか?」
「そうじゃなくてあのっ、ナマリさんってメッキくんと付き合ってるんじゃ……」
「はぁっ?!メッキとうちがぁ?
 何でそうなるべな!!」
「えっ……だって、仕事でいつも一緒ですしっ!仲良いみたいですしっ!!」

「あのー、スズさんもナマリも取り敢えず落ち着くっス」

 ここで渦中の茶髪男、メッキくん本人が過熱気味の二人をなだめる。

「自分は確かにナマリと同じ製造担当だから一緒にいる機会は多いっスが、それ以外で特に仲良くとかは無いっス。まして付き合ってるとか、そんな」
「メッキは何というか、”出来の悪い弟”って感覚だべ。だから恋愛感情とかは沸かねぇべ?」

 ナマリさんも、あっさりと関係を否定する。

「……そ、そうなんだ」 
「あれスズちゃん、今ホッとしなかったかい?」

 スズの安堵した表情を、ボクは見逃さなかった。 

「そ、ソンナコトナイデスヨ?」
「ああそうか。スズちゃんの本命はユーさんじゃなくて……」
「わー、やめてぇーっ!」

「まぁ、それはさておき。次はメッキちゃんの自己紹介行ってみようか」
「いや全然さておけないと思うっス工場長!
 この流れで振るとか、凄く登場しにくい空気なんスけど!」

 工場長の無茶振りに、メッキくんが不平を口にする。

「ごちゃごちゃ言っとらんで早くせんか!後が(つか)えておるぞ」

 白髪の老人、銀さんが先を促す。

「ああもう分かったっスよ。
 ええと自分、目木児蹴(めきにける)っス。児童の”児”に”蹴る”でニケルと読むっす」

 蹴児でなく、児蹴?
 ユーさんはその珍しい名前が気になったらしい。

「ああそれ、実家が目木金属って金物の問屋やってるんスよ。
 でニッケルメッキとかけて命名されたっス」
「ついでに、ここの社員のアダ名が金属由来なのは、だいたいメッキの仕業だね。そういうのに詳しいから」

 メッキくんの言葉に、ボクはそう付け足す。

「ちなみに拙者の、ジュラという名前はアルミ合金のジュラルミン、ブリキ殿の遊精ステンは鉄合金のステンレスからの命名で御座る」

 誇らしげにジュラがそう答えた。
 そして、

「あっユーさん向けってんなら、ボクとスズちゃんの自己紹介は必要かな?
 もう軽くしてる気がするんだけど」
「どうしてもと言うなら、日を改めて下さい。今日は無理な気分ですっ」

 かくしてボクとスズちゃんは、自己紹介を拒否した。
 
「ふん、じゃ次はワシじゃな。ワシ自身というよりは、この会社の歴史がメインになるが」
「げっ”銀さん”!また長くて退屈なあの話っスか?」

 まぁ、メッキくんにしたら、またかよって気分なんだろうけど。

「馬鹿者、これから社員になる新人には必要じゃわい!」

 そんな忠告を、銀さんは一蹴した。

「いらぬ邪魔が入ったが続けるぞ。ワシの名は小沢銀次郎。ここ”有限会社遊精”で検査を担当しておる」

 先程ナマリさんの言った"ユーユー"は略称と言うか愛称か、とユーさんは納得したみたいだった。考えてみたら、会社名すら分からず入社勧めてるってひどい話だよね。

「元々この会社は初代工場長、今ここにいる工場長の父親が創業した。
 彼奴とワシ、そして有村の父の三人で立ち上げた会社だ」

 有村、誰だっけ?とユーさんが首をかしげる。
 ボクでーす!さっきから隣にいるボクが有村ですが何か?
 まあ、ずっとアルミってアダ名で呼ばれてたから無理もないけど。

「そもそも三人はカシコモに勤めておったが、そのやり方が気に入らず独立したのだ」

 ユーさんがまた首をかしげる。
 あー、そっかカシコモもわからないか。この世界では有名な大手企業なんだがなぁ。

「ええと、ユーさん。
 カシコモってのは柏崎小型模倣浮遊精霊株式会社の略で、元軍人の柏崎茂一郎(カシワザキモイチロウ)が立ち上げた会社。遊精製造の元祖にして、最大手の会社だよ。」

 そういえばさっき、その辺の経緯を説明するヤクソクだったな、途中になっちゃったけど。

「なら有村、後でソレを説明しておいてくれい」
「あれ銀さん、もう話は終わり?」
「いや続けてもよいのだが、アイツラがな……」

 銀さんが指さした先では、ナマリさんにメッキくん、そしてスズちゃんの若手三人が、話が退屈だったのか眠りこけていた。

「はいはい、みんな起きた!まだ自己紹介してない人が残ってるわよ」

 工場長が声をあげ、よろよろと起きあがる。

「じゃあ、最後はシロガネさん」
「あれ、工場長は自己紹介しないのデス?」

 白い肌で大柄な外国人女性のシロガネさんがカタコトの日本語でそう尋ねる。

「私は多くを語らない。そういう”設定”なの」
「成程、設定なら仕方ないデース」

 何が仕方ないのか不明だが、そこは触れてはいけないんだろな。
 相変わらず謎だらけだ、工場長。

「私はエレン・プラチナスカヤー。皆からはシロガネって呼ばれてるデス。
スズちゃんと同じ倉庫担当デ……」

――と、何気なく始まったシロガネさんのこの自己紹介だったが。
――まさかこの後、彼女の生い立ちの話を切っ掛けに一同大騒ぎになる事態になるとは、

 この時は誰一人、思っていなかったのだった。

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