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最新型猫と、事件解決

「あのー工場長、これボクの案件なんですけどね」

 まだ”猫”を装着したままのボクが口をはさむ。

「このまま後始末までさせてもらう訳にはいけないのですか?」
「んー、その申し出は嬉しいし、そうさせたいのだけど」

 工場長はそう言って、あごの下に手を置く。
 せっかくここまで追い詰めたのに他の人に任せるのはボクとしては大いに不満だ。

「仮に失敗したら、小竜ごと爆発して心中することになるけど、それでも良いの?」
「えーっと……辞めときます」

 ボクは猫を外してその場からそそくさと立ち去る。
 命をかけてまでやりたいとは、流石に思わなかった。

「成程、このためにあのおっさんを雇ったんですか」

 ブリキが納得したように口を開く。
 口が悪いのは何時もの事だがおい、随分酷いこと言ってないか?

「素性の知れない者なら、仮に命を落としても問題な……」

 そういい終わる前に、工場長の手がブリキの襟首を掴んでいた。

「一応聞くけど、”もちろん”冗談で言ってるわよね、ソレ」

 そして工場長は人間ではない、獲物を捉えた野獣を思わせる冷たい目で鉄平を見上げた。

「もし本気でそう思ってるなら、私、この場で鉄ちゃんをクビにするけど?」
「……もももも勿論冗談ですよ?
 きっ、決まってるじゃないですか。あは、あはは……」
「そうよねー、安心した。我が社の社員がそんな薄情な訳ないもんねぇ」

 ……そーそー、その人を怒らせてはいけないよ。
 頭で理解してはいたが、改めてブリキがそう思い直した事だろう、ざまぁ見やがれ。

「だいいち鉄ちゃん、そしてアルミちゃんもね」

 先程の野獣の気迫が嘘のように、工場長はいつもの笑顔に戻っていた。

「実際には命のやり取りとか、そう言う事にはならないと思うわよ」
「えっ、それって」
「どういう……事ですか?」

 工場長はブリキにも、そしてボクにも意味不明な事を言う。

「さて、ユーちゃん。やれそう?」

 ユーさんが渡された神具、片眼鏡と指輪を装着したのを確認して、工場長はそう尋ねた。
 その言葉にユーさんにも、大きく頷いた。

「ええと、良くわからないのですが」

 困惑したようにブリキが尋ねる。

「あのおっさん、もといユー氏は”猫使い”なのですか」
「違うわよ。おそらく彼は、神具を見るのも初めてでしょうね」
「でも工場長はさっき、最新型の”猫”を渡してましたよね?」
「ああうん、だってあれ正確には”猫”じゃないから」

「はい?」
「”猫”……じゃない?」 

 目を丸くするボクとブリキ。

「試作品の神具でね、名前は”白虎(シロトラ)”と言います」
「白虎って、世界の全てを喰らい尽くすというあの伝説の神獣?」

 白虎という言葉にボクは反応した。

「さっすがアルミちゃん、こう言うのは詳しいわね」

 確か異世界時代劇で、主人公が召喚していた神獣だ。
 で、その名前を冠した神具って事は、名前からしても凄く強力そうなんですが。

「うん強力よー。ユーちゃんは”猫使い”じゃないけど、多分彼にしか使えない神具」

「何者なんですか、あのユーという男」
「私の神具で確認したら、”開発者(Developer)”だったわ」
「デベ……何ですって?」

 工場長の言葉に、ブリキは首をかしげる。

「今は分からなくてもいい。でも彼は、確実に我が社に革命を起こす男よ?」
「革命を起こす男……」

 よく分からないが、格好いい響きだ。

「そして、見ておきなさい。
”白虎”は”猫”みたいに設定を変えたりとか、複雑なことは出来ないけど……」

 ユーさんは無言かつ真剣な表情で、指輪の神具を起動させる。
 埋め込まれた蒼い勾玉が光ったのが、その合図だ。

「えっと小竜の体内から、神具の反応が消えましたけど」
「あらアルミちゃん、猫を使わなくてもソレが解るのね。流石あの人(・・・)の子供」

 あーはい、何か父親ゆずりの体質みたいです。
 と言うことは、まさかあの神具の効果って?

「そう、”白虎”は猫みたいに神具の設定を変えるなんてチャチな物じゃなくて、神具そのものを消滅させるの。この世界から、永久にね」

「神具を、永久に消滅させる……?」

 ブリキが、その場で一瞬固まった。

「でっ、ですが工場長。件の神具、全部を消滅させてしまっては証拠が残りません。
 それだと我が社が被害にあったことが立証できないのでは?」

 ブリキが我に返って、そう口にする。

「あの爆発の跡だけでも十分だと思うけどね。それに、鉄ちゃん忘れてない?」

 工場長はニンマリと笑い、利き腕の左腕をゆっくり掲げた。その手に掴んでいたのは……

「我が社の”猫使い”は、アルミちゃんと鉄ちゃんの他に、もう一人いることを」
「工場長、それってまさか!?」
「い、いつの間にっ!?」

 その手には、暴れていた小竜の一匹が握られていた。

「ああ、爆発する神具はもう”解除”してあるから大丈夫よ?」

 それを見たボクは工場長に、精神力はおろか”猫使い”の技術力でも勝てる気がしないと思ったのだった。

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