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小竜混入と、猫使い

「どったの、スズちゃん?」

 そう言ってボクは、自分より二回りは小柄な少女の頭をポンポンと叩いた。 

「もー、子供扱いしないでくださいアルミさんっ!」

 小学生ぐらいにしか見えない眼の前のこの少女が頬を膨らませるが、実は彼女、ボクより年上の先輩であった。

「ああ、紹介するわね。
 彼女は”スズちゃん”こと新仲硯(にいなかすずり)、我が社の倉庫担当よ」
「はじめまして、スズリですっ。あの工場長っ、この方は?」

 見知らぬ中年男性を前に、スズちゃんがそう尋ねる。

「今度我が社に入る予定の人で、名前はええと……とりあえずユーちゃんとでも名乗っとく?」
「ユーちゃんさんですか、よろしくお願いしますっ」

 スズちゃんはそう言うと、大きく頭を下げた。ユーさんもつられて頭を下げた。

「それでスズちゃん、何かあったの?」

 工場長が、不思議そうにそう尋ねる。

「あっ、そうなんです大変なんですっ、工場内に小竜が!」
「小竜?!おいスズ、それ先に言えよ!」
「すっ、すみません鉄平さんっ」

 怒鳴るブリキに、スズちゃんは頭を下げた。

「おいアルミ、ちょっと”猫”取ってこい。オレは先に現場を見てくる」
「はいはいっ」
「”はい”は1回で良い!」

 適当な返事をするボクに、ブリキは噛みついた。

                  ← ← ← ←

 ここの世界では、異世界日本では当たり前に存在する生き物が架空の生物だったり、逆に空想上の生き物がありふれて存在していたりする。
 例えばこの世界では”猫”が伝説の生き物で、逆に小さな竜が異世界日本の野良猫や野ネズミ並みに繁殖しているのだった。そして、

「状況はどうだ?メッキ、ナマリ」

 ブリキは工場の現場にいる、頭を茶髪にした男女二人組に声をかける。
 女性はスズちゃんと同じ薄桃色の作業着、男性は同じ形で薄緑の作業着を着用していた。

「どうもこうも、我々の手には負えないッスよ。なぁナマリ?」

 茶髪の男の方が、茶髪の女にそう声をかける。

「メッキの言う通り、ウチらは作るのが専門だべ」

 ナマリさんが、そう言って肩をすくめる。

「こうなっちまうともー、後は”猫使い”さん達にお願いするしかねぇべな」

 遊精の製造は、それ自身を作る大量の遊精によって半自動化されていたが、ナマリさんが指差すその先には、それを邪魔するかのように複数の野良小竜が、好き勝手に製造部署を動き回っていた。 
 そして製造用遊精は、それを排除するようには出来ていない。
 ”排除するような命令”を”追加”で与えない限り。

「せめてシロガネさんか銀さんでも居たら、まだ対処できたかも知れないっスけどね」

 メッキくんがそうつぶやいて天を仰ぐ。
 今名前のあがった二人は経験豊富な社員であったが、あいにく二人共今日は仕事休みであった。

「で、こうなった原因は?まぁ聞かなくてもだいたい想像はつくが」

 ブリキが苦い顔で、隣で小さくなっているスズちゃんを睨む。

「あのっ、私が帰る時に倉庫の扉をちゃんと閉めてなかったみたいで」
「遊精の部品には、小竜が好んで食べる素材もあるからな。
 それで工場内に混入したと……やれやれ」

 スズちゃんの答えに、ブリキは自分の額を平手で抑えた。

「怒ら、ないんですか?」

 いつもと違う反応に、スズちゃんは驚いた様子であった。

「説教されたいなら後で死ぬほどしてやるよ、今は問題の対処が先だ。
 ……アルミ!まだかかりそうか!?」

「今、指示待ち画面立ち上がった!対処指示はマルナナで良いかい?」

 特殊な眼鏡と、そこから配線の伸びた特殊な手袋をしたボクが、そう返答する。
 この眼鏡と手袋のセットが”猫”と呼ばれる神具で、これを扱える者は通称”猫使い”と呼ばれる。
 異世界日本で言う所のノートパソコンみたいなもので、眼鏡で見える画面を手袋で操作することにより、遊精を始めとする様々な神具の”設定を変更”することが出来るのだ。

「マルナナか……貴様にしては上出来だがフタマルも追加だ。
 準備出来次第、ちゃっちゃと動かしてくれ」
「りょーかい。対処指示マルナナ及びフタマル、起動!」

 ボクの言葉を合図に、それまで製造することしか知らない工場内の遊精たちが、邪魔者である小竜達を複数で取り囲むべく動き出す。
 と同時に工場の”施設そのもの”も、その動きを援護する。
 扉や照明、遊精を作る工具、出来上がった遊精を運ぶ荷台、これらも神具で出来ていた。
 小竜たちも抵抗するが物量と訓練された動きの前には如何ともし難く、全ての野良小竜たちが拘束されるまで数分とかからなかった。

「あとは外に排除するなり売り飛ばすなり、お任せしますよ工場長」
「ご苦労さま。貴方達は喧嘩してても、やるときはやるいいコンビね」

 ブリキの言葉に工場長がつぶやくように、しかし何処か誇らしげにそう言った。

「まあ、あいつの人間性は問題大アリですが、才能自体は認めてますので」

 少しだけ照れたように、ブリキは顔を傾けた。
 と、次の瞬間!

 小竜の一匹が突然爆発し、取り囲んだ遊精たちが弾き飛ばされた。
 跡地には火柱と、立ち込める煙。 

「あわわわわ……」

 その状況に驚いて、ペタンとその場に尻もちをつくスズちゃん。

「かっけぇぇ……まるで平舞台の刑事劇みたいだべ!」
「だよねっ!なかなか見れないよね、こんな状況」

 ボクとナマリさんは、眼の前の非日常に大喜びした。

「いやいや喜んでる場合じゃないでしょ二人共。
 これ正直洒落にならないんスけど」

 メッキくんだけが一人、冷静な発言をしていた。優等生か。
 
「クソッ、こいつら野良じゃなくて”神具”持ちか!!」

 ブリキは怒りで壁を殴った。 

「よりによって自爆テロって……これ、明らかに誰かに仕込まれてるわね」

 工場長も冷静を装ってはいたが、その体は細かく震えていた。

「もう既に警察か軍隊が介入する案件ですが、通報しますか?」
「その必要はないわ。はい、ユーちゃん」

 そう言うと工場長は、着物の懐から何かを取り出してユーさんに手渡した。

「最新型の”猫”よ。後はお願い」

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