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第11話 新緑の邪気・前編

〈ヴァリアント〉の能力は大きく分けて3種類ある。
 1つはA+~A-のランク。絶大な攻撃力と引き換えに発生時間までの溜めや、エネルギーの消費量が最もかかる。ドロップ率が非常に低いので入手が困難なのもネックだ。
 
 次にB+~B-のランク。オーソドックスなスキルが多く、また攻守のバランスが良い。ただし技の硬直時間で隙が出来たり、スキルの種類が少ない場合もあるので過信は禁物。

 最後にC+~C-のランク。補助的なスキルが中心で、敵にダメージを負わす決定打が少ない。その代わりにエネルギーの消費量は控えめで、入手がし易いというメリットがある。
 
 「クソッ、カラスばかり出てきやがる! オラァ!!」
 「フレッドさん! 邪魔だけはしないで下さるッ!?」

 自分に合った組み合わせで3枠を選ぶのがこのゲームの醍醐味。もちろん全てAランクで埋めるという無鉄砲な事も可能だ。3匹の寄生虫が体内に収まった場合で、次の能力が欲しいのなら、取捨選択し1匹を保管液に吐き出す。
 これらの工程を繰り返すのが本作のメインシステムになっている。

 フレッドは両腕を交互に振り回しアージェントクロウ達の空襲を逸らす。
「フゥー……強い奴が出てくるまでは体力温存しないとな」
(狙うはB-のアンデッドだ……たぶん今ならギリギリ倒せるはず)

 カラスを次々と処理するフレッドはダフネに眼差しを向ける。
(確かアップルの情報だとダフネちゃんの〈ヴァリアント〉はC-のみ、それだけじゃあ攻撃スキルが心もとない……だとすると彼女もやはりB-ランク以上の能力が欲しいのだろう……〉
 
 つまりフレッドとダフネ、両者の思惑が一致するわけだ。

「あのぅ……、わたくしの胸ばかり見ないで欲しいのですが?」
 ダフネはフレッドから少し距離を置いて、その豊満な爆乳を左手で隠す。
「デヘヘ……、いやぁ~あまりにも立派なモノでつい」
 彼女のたわわに実ったその胸囲は、喜ばしいことに1メートル近い。

 なんとか全てのアージェントクロウを討伐した二人――。
「ナビゲーターのアップルさんが見当たらないようですが?」
「あいつは別の人のアドバイザーに行ってるよ、俺と二人っきりじゃ不安かい?」
「えぇ」
「…………そっかー」
 がっかりしている様に見えるが、フレッドは相変わらずその鼻の下を伸ばす。
 

 フレッドとダフネはそれから10分弱程、互いに背を向け合いアンデッドの襲撃に備える。
(意外とアンデッドって出現しないんだなぁ……もうちょっと奥まで行ってみるか? ……いやでも死んだら元も子もないしなぁ)

「嵐の前の静けさもという事もあります、油断しないで下さいフレッドさん」
 なんだかんだでフレッドを気遣うあたり、彼女の心根は優しい。
 
「ん? なんだろう……何か引っかかる」
 ふいにフレッドは違和感を覚え、ある一点を見つめる。
 フレッドの視線の先にある廃墟はガラス窓も割られ壁にひびが入っていた。

「どうかしましたか? 怖いならお帰りはアチラですわよ」
「いや……この洋館の玄関先の周辺、俺がさっき見た時より草が生い茂ってるなぁ…………と思って」

 ダフネがその周辺を見渡すと門にはツルが巻き付き、葉っぱも大きな庭に雑然と散乱している場景――。そこは今しがたより不気味な雰囲気をかもし出していた。

「危ないッダフネちゃん!!」
「キャッ!?」
 フレッドが彼女をかばい未知の攻撃で左腕に手傷を負う。

「大丈夫ですか!? フレッドさんッ!!」
「いててッ、この切り傷は……あのチンケな葉っぱがやったのか?」
 フレッド肌をかすったのは1枚の木の葉だった。

――――さあーっと吹き渡る風が1体のアンデッドの長い髪をなびかせる。

「どうやら……真打ち登場といったところですわね」
「なッなんだ? 樹と一体化してるのかアイツ……」

 そのアンデッドは妖美な女性の姿に薄紫色の肌、緑色の髪をし、下半身は約12メートルくらいの樹木に埋まっていた。さらに根際からは鋭い葉が幾重にも重なり合って出て、地面に接して放射状に広がっている。

「うっ……きわどい恰好をしたアンデッドだな」
 樹木のアンデッドは服を着ていないためフレッドにとっては目の毒のようだ。
「……フシュー、フシュー!!」

 敵は自らの木の枝を鞭のようにしならせて、 速いテンポでフレッドを狙い打つ。
「〈ヴァリアント〉、スティッキー・ウィップ!!」
 能力を発動したダフネと樹木のアンデッドの鞭が絡まり双方の動きが硬直する。

「うおッ……!? ありがとう、助かったぜ!」
「これで貸し借りは無しですわよッ!」
 ダフネは〈ヴァリアント〉を解除し、フレッドに作戦を持ちかける。

「おそらくあの敵は不死物危険度B-以上のアンデッドだと思われます。ですのでこの場は協力して、ヤツを倒すことを第一前提にしませんか?」
「よーし! どっちがトドメさしても恨みっこ無しってことで!」
〈よっしゃ、この勝負……断然俺の方が有利とみたね!〉

 フレッドの〈ヴァーミリオンバード〉はご存知の通り火属性の能力だ。
 この読みは植物を敵にして、大きなアドバンテージを得られるというフレッドの浅知恵なのだろう。しかも相手は地面に根を張っている模様で、定位置からほとんど動けないとなると勝機は十分にある。

「先手必勝! ディレイド・フレ――」
 フレッドの必殺技がついに炸裂すると思いきや、別の化け物から殴打を喰らう。
「グハッ!! 誰だ邪魔しやがるのは!?」

 横槍を入れてきたのは先日の戦いでフレッドがその目にした、憎きアンデッド・クリーチャーと同種であった。
「マンイィータァァァァッ! テメェかー!!」
 フレッドは激情に駆られた。彼にとって目の前で怪物に人が食われるシーンは、たとえ敵であろうと相当ショッキングな出来事だったのであろう。

 これにより連携は早々に分断され、ダフネは樹木のアンデッドと1対1の形になってしまった。

「フウッ……! わたくし一人でもやってみせる、元々そのつもりでこんな場所まで足を運んだのですから!!」
 自らを鼓舞した彼女は気合を入れて、樹木のアンデッドに立ち向かう。

「シィイイヤァー!!」
 奇声を上げて敵が放ったのは、先ほどフレッドがダメージを受けた葉っぱによるカッター攻撃。しかも今度は葉を回転させてブーメランの様な円運動をみせた。
 
 それに焦りを感じながらも、レイピアの先端でのカットで葉っぱを防御する。
「くぅ……さばき切れない!!」
 樹木のアンデッドの葉っぱカッターはとめどなく続きダフネを追い込んでいく。
「……ダッ、ダフネちゃん!?」
 フレッドもダフネの苦戦に気づき、彼女の助太刀に行こうとするが……――。

「ぶるァアーッ!!!」
 マンイーターの力任せの攻撃が、フレッドをその場にくぎ付けにしていた。

「ならばコレでどうツ!? アシッド・スキャッター!!」
 ダフネは左手から1リットルほどの液体を敵のカッター目掛けてぶっかける。

 すると葉は勢いをなくし全部溶けてしまった。どうやらその水は硫酸らしい。
「ハァ……ハァ……このような所でわたくしは……もう負けることは許されない」
〈パラサイダー〉に殺された悔しさをバネに、彼女は成長しようとしている。

 背筋を伸ばし腰を落として、レイピアの切っ先を正面にかざす。その構えは正にフェンシングそのものだった。
「アン・ガルド……アレ! お見せしますわ、わたくしの美しき剣技をッ!!」

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