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新入社員と、その後輩

「で、その地面に刺さっていたこの男を掘り出してきて、遅刻したと」

 オールバックの髪型に口髭を蓄えた男が、そう訪ねてくる。

「あはは……そうなんですよ」

 男の問いに、ボクは苦笑いで返答する。

「馬鹿かこのアルミ缶!
 社員になった早々遅れてくるだけならまだしも、相変わらず余計な事しやがって!」
「余計とは何だよ、このブリキ野郎!」

 ブリキ男の怒鳴り声に、ボクも負けじと言い返す。
 ちなみにボクは社員になってからは今日が初日だが、ここの会社では既に学生時代アルバイトで働いていた経験があった。

「誰がブリキだ。
 いいか、オレには鋼谷鉄平(はがねやてっぺい)という名前がある。二度と間違えるな!」
「だったらボクだって、有村有海って名前があるんだよ!」
「知るか!貴様などアルミ缶で十分だ」
「ならお前だってブリキで構わないだろ!」
「ぐぎぎ……」
「むむむ……」

 ボクとブリキは、次は殴り合いに発展しようかという勢いで睨み合い、そんな様子を。

「ああ、また始まったで御座るな、ステン」
「うむ。ジュラ殿、お違い主君には苦労させられるな」

 喧嘩中のボクらの、それぞれの相棒である遊精達が遠巻きに様子を伺い、肩をすくめていた。
 ちなみにブリキの所有する遊精ステンは長い耳を持ち、西洋風の金属鎧に身を包んだ姫騎士風の出で立ちであった。

 と、そこへ

「……あらあら二人共、相変わらず仲良しねぇ」

 そんな呑気な声をあげ、一人の少女が姿を見せる。
 一見高校生の有海より小柄な、中学生ぐらいに見える彼女は薄紅色の着物に身を包んでいて、螺子を模した髪留めで後頭部を纏め、何より特徴的なのは体の凹凸、特にその胸が強く自己主張をしていた。
 
「この状況を見てそう思うなら、本気で脳の病院に行くことをお勧めしますよ、工場長」

 皮肉交じりにブリキがそう口を開く。
 彼の言葉通り、子供に見える彼女こそ、この会社の工場長に当たる人物であった。
 ちなみに異世界。日本で社長など偉い役職についた人間が高級スーツで身を固めるように、この国では地位の高い者が袴や着物といった和服を羽織る風習がある。

「相変わらず鉄ちゃんは容赦ないわねぇ。……ところで、アルミちゃん?」
「あっはい」
「理由はどうあれ、遅刻は駄目です。次からはもっと早めに出社なさい」

 工場長が、口調こそ丁寧だが有無を言わせぬ気迫でそう告げた。

「申し訳、ありませんでした」

 その言葉にボクは、深々と頭を下げた。

「ふん、工場長の言う事なら素直に聞くんだな。オレ、貴様の直属の上司なんだがな」
「あれそうでしたっけ?ボク、今の今まですっかり忘れてましたよ」
「ぐぎぎ……」
「むむむ……」

「まあ、あの二人は暫く放っておくとして」

 工場長はそう言うと、

「ええと、そこの貴方?には色々聞きたいことがあります」

 ボクが連れてきた男性の方に歩み寄った。

「あの工場長、それなんですけど……」
「ええ聞いてますよ、アルミちゃん。何でも、記憶喪失なんですってね」

 向き直ったボクに、把握済と工場長は言葉を被せる。
 地面に刺さって頭を打った衝撃のためか、それとも他に理由があるのか、ボクが連れてきたその男は自分の名前や生まれ、その他をすっかり忘れてしまったらしい。

「見た目は私達と同じ田本人っぽいし、年齢は40歳前後といったところかしら?
 多分鉄ちゃんよりは年上よね」
「ええ、おっさんですね。これでもし無職だったら社会的にも人格的にも問題ありですが」

 工場長の言葉に、ブリキは歯に衣を着せぬ毒を吐く。

「あら、無職ってことは無いわよ。だってこの人、今日から私の会社の一員ですもの」

「へっ?」
「ちょ、ちょっと本気ですか工場長!こんな素性も分からない男に」
 
 工場長の爆弾発言に、ボクもブリキも目を丸くする。

「うちは女性社員の比率が多すぎるのよね。男性社員は貴重だし、社員寮にもまだ空きがある」
「確かにそうですが」

 工場長の言葉に、ブリキは同意する。

「彼も記憶が戻るまでは、生活にだって困るはずよね」
「確かにそうですが」

 工場長の言葉に、ブリキは同意する。

「それに……」
「それに?」
「……ああ、やっぱ内緒」
「何ですか内緒って、意味が分かりません!」

 工場長に出鼻をくじかれたブリキは、あからさまに嫌な顔をした。
 逆にしてやったりという表情で、工場長が笑う。

「そもそも工場長、相手は自分の事を何も覚えていないようなおっさんですよ?
 仕事で使い物になるんですか?」
「それは先輩になる彼女次第ね。頼んだわよ、アルミちゃん!」

「へ?あっあのぉっ!!」

 いきなり名指しされて、ボクは飛び上がるほど驚いた。

「ほほう、工場長にしては妙案ですね。じゃあ後輩の指導よろしくな、アルミ缶!」

 凄く悪人面の笑顔を浮かべ、嬉しそうにブリキが言った。

「えー」

 対象的に、凄く嫌そうな顔をするボク。
 と、その刹那。

「たっ、大変ですぅ!」

 工場長の着物と同じ薄紅色をした作業服に身を包んだ、うなじの辺りで髪を二つ結びにした見た目小学生ぐらいの女の子が飛び込んできた。

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