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最悪の出会い

 イレーナです、何か風呂に覗き魔が来たみたい、こんな奴今度来る勇者さんに成敗されちゃえばいいんだから!!






 次の瞬間──。

「え──?」

 幸一は左足首の外側に強い衝撃を感じる、慌ててすぐに視線を移す、それは少女が足払いをしたのだと確信する。


 そして天地が逆転し全身に衝撃が走る。それは当然その少女によって身体が宙を舞い一回転された時の衝撃であった。
 白髪の少女は更衣室から縄を取り出し幸一を縛る。
 そしてすぐに警備の兵士に捕らえられた。










「最悪のスタートだ──」

 薄暗い地下の留置所で八田幸一が囁く。
 鉄格子と石壁で囲われた簡素な独房。
 そして手枷と足枷につながれている──。

 手足の動きを妨げる冷たい金属の感触に気付く、周囲を確認しようにも手枷と足枷で縛られていた、さらに目隠しをされているため周囲の確認もできない。
 両足はそれぞれ鎖でこの部屋の隅につながれ、両腕も万歳をする形で頭上に引っ張られている。

 季節のせいか気候のせいか分からないが寒さが強くてたまにくしゃみをする。正確な時間こそ分からないが首をひねって天窓を何とか見るとさっきの暗闇から日がのぼってきているところから朝だと幸一は予想した。

「まいった……まさかこんなスタートを切るとは」

 ため息を交えた後これからどうすればいいかを考え始める。まさかの犯罪者、それも覗き魔からのスタート、間違いなく後ろ指を支える、見てしまった女の子もこんな大きな宮殿に住んでいるんだからそれなりの身分であるのだろうと想像はつく。どんな罪が待っているか、どうやってここから名誉を挽回すればいいかそんなことを幸一は考えていた。

 コッコッとこっちに向かって歩いてくる音がしてきた誰かがやってくる、ガチャッと牢屋の鍵を開ける。

「八田、幸一」

 兵士の一人が無表情でそう囁く。
 兵士は三人ほどいて後ろ二人は兵士そして前にいたのは白髪の少女がサラと言っていた茶髪の少女だった。

「こんな目にあわせてもらって申し訳ありません、幸一さんの無実が晴れたので釈放いたします」

 そう言うとサラは幸一を縛っていた鎖の鍵を外し始める。

「助けてくれてありがとう、でも──」

 なぜ自分を助けてくれたのか気になり聞いてみる。するとサラはさっきまでのことを話し始める。

「あの後、幸一さんの所持品に私たちの天使ユダからの手紙を確認しました」

 そしてそれにはユダから送られた手紙も含まれていてその手紙を解析したようだ。

 幸一が持っていたタロットを調べると自動的に夜のあの時間にあの浴室に送られるようにプログラムされているとのことだった。
 つまり幸一はユダにこういう結果になるようにはめられたということになる。

「あ、あいつ……」

 今思えば浴室までの誘導は俺を信頼させるための罠だったような気がする、一度でも信用した俺がバカだった、幸一はそう考え再びあいつの言葉を確証もなしに信じるのはやめる事に決めた。


 サラが話を進めるともう一人に人物がやってくる。

 それはさっき幸一が浴室でのぞいた白髪の少女──



「わたし、イレーナ・ミッテランよろしくね」

 イレーナはじっと幸一の目を見つめる、冷たい目線で彼を指差しながら叫び出す。





「あ ん た な ん か 今 日 や っ て く る 炎 の 唯 一 王 さ ん に ボ コ ボ コ に さ れ ち ゃ え ば い い の よ 」





 イレーナはこの国の国王の娘に当たるお嬢様のような存在で、国王より近日中に世界を破滅から救う勇者「炎の唯一王」が召喚される事を聞いていた。そして自分はその勇者と共に旅をし世界を救う仕事を担い世界に平和をもたらすようにと命ぜられていたのであった。

 また、国王達は国際会議で西のウェストファリアへ国際会議で不在、帰ってくるのは三日くらい後のであった。



 イレーナは腕を組み幸一を指差してドヤ顔で話を続ける。

「確か聞いたわ、唯一王は男の人なんだってね。きっとこんな変態なんかよりずっといい人でかっこよくって素敵な人なんだわ!!」


 彼女の口調からするとその炎の唯一王が目の前の人間だというころを知らないのだろう──。

 事実を知っているサラはキョロキョロとし始める。
 幸一は顔が引きつり、苦笑いをする。しかしいつまでも黙っているわけにもいかず重い口を開いてゆっくりとサラが伝え始める。

「あの、イレーナちゃん、いいかな?」

 そしてサラがイレーナに言いずらそうに伝える、彼こそがその炎の唯一王なのだと──

 顔が蒼白になり、幸一を指差しながら叫ぶ。



「え、え、え、え~~~~~こここここんなのが炎の唯一王??」

 当然の反応である、自分の裸を見られた人物なのだから。
 そして動揺して涙目になり後ずさりしはじめる。

「ゆ、ゆ、ゆ、夢だよね?嘘だよね?」

 イレーナはサラに接近し叫ぶ、しかしサラは嘘をつくわけにもいかず──。

「う、嘘ではないです、その……、本当です」




「い、い、いやああああああああああああああああああああああああああ」

 その言葉にイレーナは現実を受け入れられず両手で頭を抱え叫ぶ。
 発狂するように叫ぶイレーナを幸一やサラ、周りの人はどうすることもできなかった。

「そ、そ、そ、そうよ!! これは夢、夢。眼が覚めたらこんな変態なんかじゃなくってもっとイケメンでかっこよくって素敵な勇者さんが来てくれる。だからもう一回寝てくる!!」

 現実を受け入れられずイレーナはそう言ってこの場を去ろうとする、サラはイレーナの服の裾をつかんで何とか現実に引き戻そうと言葉をかける。

「現実を見ようよイレーナちゃん、嘘じゃなくって本当なんだよ、」

 その言葉にイレーナは無理矢理現実に引き戻される形になる、そして両手で頭を抱える形で半ばパニックを起こして叫ぶ。


「い、い、い、い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」


(本当にごめん……)

 そんなことを考えながら幸一はイレーナをじっと見ていたたまれない気分になる。

 その後、サラの案内で幸一にも部屋が与えられそこへ案内されそこで今後の調整やスケジュールの確認などを行い睡眠をとった。


 最悪の出会い、それをどうしようかと考えながら……。

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