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11話 正義感

 あたしとメッサーさんは、パーティ初依頼をこなすべく、城壁補修工事現場付近を捜索中だ。ただ魔物の姿を探して森の中をうろつくだけでなく、魔物がいた形跡、つまり足跡だとか排泄物だとか食べ残しだとか、そういったものも注意深く探さなければならない。しかもそちらに夢中になって周囲の警戒を怠れば魔物と鉢合わせ、なんていう事にもなり得る。もしソロで活動するとなると、一人でやる事が余りにも多すぎて想像するだけで怖くなるわね。

「いいかい、シルト。冒険者の依頼と一口に言っても多岐に渡る。君が昨日までやっていた様な肉体労働系もあれば、素材採取系や魔物や賊の討伐依頼に護衛任務。更には諜報活動や傭兵なんていうものもあるかな」

 ふむふむ。メッサーさんの説明を一言一句漏らさないよう、脳内にインプットしていく。いつまで保存できるかは不明だけどね!

「今回のは調査依頼だ。依頼の内容から、無理に戦闘する事はないのは分かるかい? そう、魔物が集落(コロニー)を作っているかどうか、それを調べるのが今回の依頼だからね。魔物に気付かれずに集落(コロニー)を見つけられればそれに越した事は無い。集落(コロニー)が無ければ尚の事いい」

 へぇ~。調査依頼って、必ずしも見つけたら攻撃や殲滅って流れにはならないのね。あ、そういうのは討伐依頼になるのか! 
 そして、メッサーさんの表情が少しだけ厳しくなった。

「だがもし、集落(コロニー)を発見してしまった場合は判断を求められる事になる。そこで必要になるのが敵味方の戦力把握だ。全滅させられるならした方がいいのはもちろんだが、倒しきれない場合は迷わず撤退して戦力を整えて出直す勇気も必要なんだ」

 なるほど、と思っちゃったよ。ここに着くまでの道中で、初めての依頼に気合が入り過ぎていたあたしにメッサーさんが掛けてくれた言葉。そうだった。あたしったら魔物そのものを探しに来たつもりになってたよ。
 それで今は役割分担をしているのだけど、魔物がいた形跡なんてあたしには分からないから、そっちはメッサーさんに任せっきり。あたしは結果的に周囲の警戒をやってるんだけど、それも自信ないなぁ……

「しっ! 静かに! 身を低くして」

 周辺警戒をしていたあたしじゃなくて、メッサーさんが何かを見つけたらしく、小声で注意を促して来た。
 あ! あれはオーク!

「気付かれないように追跡するよ」
「はい!」

 二メートル程も有りそうな巨大な体を揺らしながら、何かを引き摺って歩いている。右手には大きな棍棒。それにしても、亜人に位置付けされている魔物だけど、見た目は豚顔だしデブだし性欲の塊だしホントに最悪だわ。何よりちゃんと隠して欲しいのよね! 申し訳程度の腰布じゃチラチラ見えちゃうのよ……

「シルト。どうやら『アタリ』のようだよ。ヤツが引き摺っているのはフォレストボアだ。恐らくアジトに持ち帰って食料にするんだろう」
「え~、なんか共食いっぽいですねぇ……」
「ふ、顔を見ればそうだね。もう少し追ってみよう」

更に尾行を続けて行くと……あ、いた!他にも獲物を担いだり引き摺ったりしたオークが集まって来ているみたい。

 ――!!

 その時あたしには見えたんだ。オークの中の一匹が担いでいたモノを。あたしは唇を噛みしめ、拳を力いっぱい握って飛び出して行きたい衝動を抑え込んだ。

「……メッサーさん。女の人が……担がれていました」
「!!……見間違いではないのだね?」
「はい、間違いないです」

 ギリギリと噛みしめる口から絞り出すように言葉を発するあたしに、メッサーさんは優しく頭を撫ででくれた。ほわぁ……

「よく我慢したね。もう少し接近しよう」

 もう少し奥まで進むと、粗末な小屋などが建てられており、明らかに集落(コロニー)が形成されつつある。ざっと数えた感じ、二十匹以上はいるみたい。
 これは最悪のパターンってヤツかしら。

「シルト。ここで君の意見を聞いてみようと思う。オークは既に集落(コロニー)を形成しつつありその数も最低でも二十匹以上。そして人間の女性も囚われている。対してこちらの戦力は君と私の二人だけだ。さて、君ならどうする?」
「……普通なら撤退して増援を呼んで討伐するの一択だと思うんだけど、でもその間にあの女の人は……ごめんなさい、メッサーさん。あたしにはあの人を見捨てる事は出来ないよ」
「いいのかい? 間違いなく君はオークの慰み者になるしあの女性も逃げられるとは限らないよ?」
「……あたしが飛び出してもここで逃げても、あの女の人の運命はこれ以上悪くはならないって事でもありますよね? ならあたしはあの人を助けたいですっ!」

 メッサーさんはあたしの瞳から視線を離さずじっとみつめて……苦笑混じりに言った。

「君の答えは冒険者としては0点だね。だけど私は嫌いじゃないよ。それにね、シルト。場合によっては君の選択が満点評価になる事もある」
「……?」
「私について来るんだ。今からその理由を教えてあげよう」

 メッサーさんはそう言うと、気負う事なく自然体で、だけど纏う空気には怒気が孕んでいるような。そして気配を隠す事もなくオークの集落へと進んでいった。あたしもメッサーさんに続く。これからオークの群れが襲ってくるというのになぜか恐怖はなかった。

 集落に、何の遠慮もなく踏み込んだあたし達を見つけてオーク達は騒めき始めた。そして下卑た笑みを浮かべたようにあたしには見えた。そうか。美女と美少女が自ら縄張りに入り込んで来たんだもんね。ピーーーとかピーーとかするつもりなのね。プツン。

「こンの豚ヤローがああああッ!!」

 あ、あたしったら随分はしたない雄たけびで……

 ――ドゴン!!

 ジャンプ一番、直近にいたオークの脳漿を飛び散らせていた。

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