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25 H設定・PK設定

 それは胸というにはあまりにも大きすぎた
 大きく、丸く、エロく、そして揺れ過ぎていた……


 ……うおっと、危ない危ない。あまりの衝撃に、つい訳のわからないことを考えてしまった。それにしてもさすがにこれは……

「あの~、どうされましたかぁ?」
「え? あぁ…………えっと、すみません。多分、今後も意識しちゃうと思うので、今のうちに正直に謝っておきます。ファムリナさんがあまりにも立派なものをお持ちなので……その、なるべく意識しないように頑張りますが、視線がいやらしく感じてしまったとしたら申し訳ありません」

 ファムリナさんの胸は明らかに大きすぎた。尖った耳なのでエルフなんじゃないかとか、気になる部分は他にもあるのに、どうしても気になってしまう。あの小柄な体にアンバランスなほどの胸。このゲーム内に補正下着なんかの設定があるのどうかはわからないが、歩くだけでローブ越しに揺れ動くのが分かってしまう。女性の胸を無遠慮に見るのは失礼だとわかっているけれど……これはもう全面降伏したほうが早い。

「あらぁ、コチさんは正直さんなんですねぇ~。いままでの夢幻人さんたちは、露骨にいやらしい視線を向けてくるばかりか、触ろうとする方もいらっしゃいましたしぃ。女性の方でも中には侮蔑や嫉妬の視線を向けてくる方もいましたのに」
「……それは、重ね重ねすみません。同郷の者がご迷惑をおかけしました」

 このゲームは成人指定なので、互いに同意があれば|そういう《・・・・》行為もできるが、逆にそういうゲームだからこそ犯罪行為をふせぐためにシステム的にハラスメント設定(通称:H設定)で接触を拒絶する設定ができる。これは大地人でも同じなので、ファムリナさんが夢幻人に実際に揉まれてしまったという事件は起きていないはずだ。

 ついでに言うとプレイヤーがプレイヤーを殺す|プレイヤーキル《PK》についてもPK設定をオフにしておけばシステム的に防げる。ただし、PKに関しては制限しない設定にしておくと経験値やドロップに僅かながらボーナスが付くので、ある程度強くなったプレイヤーは制限を解除するのが主流らしい。

「いいぇぇ、男の人がそういう生き物だというのはわかっていますし、もう慣れましたからぁ。でもぉ、そうやって正直に言っていただけると、私にとっては邪魔なだけのものを好意的に捉えて貰えていてぇ、そのうえでちゃんと私自身のことも考えて頂けているのがわかりますのでポイント高いですよぉ、コチさん」

 ファムリナさんはおっとりした笑顔でそう言ってくれているが、最低な人たちと比べてほんの少しポイントが高いくらいで喜んじゃダメだ。100点満点で0点と5点の差なんてなんの自慢にもならないんだから。

「とにかく道具作成の指導に集中して頑張りますので、よろしくお願いします」
「はい、わかりましたぁ。でもぉ、あまり気にし過ぎてもやりずらいですし、少しくらいは見ても構いませんのでぇ、楽しくやりましょう」
「……えっと、はい。わかりました」

 見てもいいと言われても、はいそうですかという訳にはいかない。でも、うっかり見てしまっても怒らないと言ってもらえるのは確かに気が楽だ。ここはお言葉に甘えておこうかな。

「では裏の工房の方へどうぞぉ」

 ファムリナさんに案内されたのはコンビニのバックヤード、ではなく売り場の奥に作られていたファムリナさんの工房だった。
 
 中には作業台がふたつ。壁に吊るされたたくさんの工具。そして素材にするためなのか、精錬された銀や鉄が入った箱が置いてあった。

「さて、なにから始めましょうかぁ。今は材料が銀と鉄しかありませんからぁ、銀を【細工】してアクセサリを作って【彫金】でお洒落に仕上げましょうか?」
「はい、わかりました。それもお願いしたいのですが、ほかの材料があれば違うものも教えて貰えるんでしょうか?」

 銀細工で髑髏の指輪とか作ってみたい(自分で装備するつもりはない)から、【細工】と【彫金】は是非覚えたい。でも他にも教えて貰えるものがあるなら、せっかくなので教えて貰いたい。私が集めてこられるような素材ならいいんだけど。
 あ……そして、ピンときた! ここで作ったアクセサリをエステルさんへの手土産にすれば、エステルさんの怒りを和らげることができるんじゃないだろうか。エステルさんはストレートな感情表現に弱いし、一生懸命作りました的なアピールをして渡せばいちころに違いない。うん、さらにやる気が出てきた。

「そうですねぇ、いい木材があれば大工仕事とかもできるようになる【木工】もお教えできると思いますよぉ」 
 
 木? 木か……木と言えば。

「あの、木材ってこれでも大丈夫ですか?」

 私は開墾のときに切り倒し、別れ際にコンダイさんから貰った木をインベントリから取り出す。幹の太さに合わせて2~3メートルずつに切り分けられた木材だ。コンダイさんは最初、丸太のまま渡そうとしてきのだが、さすが序盤から丸太を使用する場面が思いつかなかったので、なにかを作ったりするにも薪にするにも加工がしやすいだろうサイズにしてもらってある。

「あらあらぁ、これはこの街に生えていたものですねぇ」
「はい、コンダイさんの作業を手伝った時に伐採して、コンダイさんが持っていけと渡してくれました」
「そうなんですねぇ、この木は樫の変種で|魔樫《まがし》といいまして、この街では当たり前に生える木で珍しくもないんですが、外では珍しい木でなんですよぉ。幹の部分が魔力との親和性がとても高いので、うまく杖などに加工できるとなかなかいい物になりますよぉ。コンダイさんがこれを夢幻人さんにお渡しするなんて……あぁ! そうでした、渡す相手はコチさんでしたねぇ。夢幻人さんにとして考えると不思議ですが、コチさんにと考えれば全然ありえるお話しですねぇ」

 なんだか最近、私の知らないところでこの街の住人たちに私の情報が流れまくっている気がする。幸い悪い話ではなさそうなので別に構わないんだけど、逆に評価が高すぎる気がする。私としては好き勝手にやっているだけなのになぜなんだか、さっぱりわからない。

「じゃあ、この木を使って【木工】も教えて貰えますか?」
「えぇ、勿論いいですよぉ。それではこの魔樫を使って、家具を。銀を使ってアクセサリを。さらに魔樫と金属を組み合わせて杖を作ってみましょうか」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「はい。では、まずはこれを差し上げますねぇ」

<簡易木工セットを入手しました>
<簡易彫金セットを入手しました>

 貰った道具を確認してみると、木工セットは実に多彩な道具が揃っていた。ノコギリやカンナ、金槌や木槌はもちろんのこと彫刻刀なんかもある。彫金も|やっとこ《・・・・》とか、芯金とかタガネなど必要そうな道具は一通り揃っていた。

「道具とスキルがあれば、簡単に作ることもできますけど本当にいい物を作りたいときは全て手作業で作ることをお勧めしますぅ」

 うん、ドンガさんにも言われたけどスキルを使ってのショートカット作成は品質が落ちるってことなんだろう。ある程度量産するときなんかは簡単にショートカット作成をしてもいいかも知れないけど、基本はスキルにアシストしてもらいつつプレイヤースキルを磨いた方がいい物が作れるらしい。

「はい、頑張ります」
「いいお返事ですねぇ、それでは始めましょう」

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