バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

文化祭とクリアリーブル事件⑪




放課後 正彩公園の隣 倉庫


結人は急遽、みんなを放課後に集めた。 櫻井との劇の練習を申し訳ないとは思っているが上手く断り、他の仲間も居残りなどはせず結人の呼びかけを優先してくれた。
それで今、藍梨を含め結黄賊のみんなはこの広い倉庫の中にいる。 もちろん集合させた理由は、未来と梨咲から聞いた事実を全て話すため。
結人と未来の中に隠しておくだけでなく、彼らにも知っておいてもらわないといけない。 そう、今後のためにも。
だが未だにみんなに向かって何と言ったらいいのか、上手くまとめられていなかった。 色々な情報が頭に入っていて、全てが綺麗に噛み合わずモヤモヤしている状態なのだ。
だから自分の中でちゃんとまとめてからみんなに言いたいため、今彼らにはダンスの練習をしてもらっている。
仲間は各チームに分かれ、それぞれの課題に取り組んでいた。 

結人と未来以外、クリアリーブル事件で今何が起こっているのか何も知らない彼らは、とても活き活きとしていた。
そんな彼らの笑顔をこのまま守り続けたいとは思うが、結人と未来だけで抱え込んでおくのも負担がかかるだけだ。
そのためにも、彼らには今の“事実”を頭に入れておいてもらわないといけない。 
彼らが楽しく活発に動いている中、結人はソファーに深く腰をかけクリアリーブルについて考え始めた。

―――このまま、俺たちは何もしなくていいのかな。

そのたった一つの疑問だけが、頭にぐるぐると思い浮かんでいた。 もし今動くと、クリアリーブルは結人たちが結黄賊だと分かってしまい襲ってくる。
無論動くとしたら、黄色い布と黄色いバッジを身に着けるため当然結黄賊だとバレてしまうのだ。 
もし付けないままで行動すると、学校の問題にされては困るからその選択肢はない。
どうしてクリアリーブルが結黄賊を襲ってくるのかというと、彼らは既に“結黄賊”というチームを認識しているから。
特に何も悪いことはしていないと思うが、もしかしたら知らぬ間にクリアリーブルに迷惑をかけていたのかもしれない。
そのせいで結黄賊に対して悪印象を持ち、何かしらの復讐をこちらにしてくる可能性がある。 その復讐がもし、沙楽学園で行われたとしたら。
そしたら沙楽学園の生徒にたくさんの被害者が出る。 そんなことはさせたくない。 だが、逆はどうだろうか。 
もしこのまま動かないでいると、当然クリアリーブル事件には終わりが来ない。 それはもちろん、彼らは“結黄賊”が目当てだと思うから。
このまま文化祭を終えるまでクリアリーブル事件に関わらないでいると、また沙楽学園から被害者が出るかもしれない。 そこだけでなく、一般の人からも。

―――てことは、動いても動かなくてもどちらにしろ被害者が出るじゃないか!
―――・・・あぁ、もう考えらんねぇ・・・。

「ユイ。 まだ考えてんの?」
一人もがき苦しんでいると突然目の前にコウが現れ、彼は自分の肘を結人のいる台の上に乗せながらそう口にした。
「コウか。 振りはもう全部憶えたのか?」
「一応、藍梨さんに教えてもらったところまではな。 ・・・まだ、考えがまとまらないのか?」
彼の言う通り、未だに考えはまとまっていなかった。 というより、余計なことを考え始めたせいでよりまとまらなくなっていた。 そんな時――――結人はふと思い付く。 

―――あ、そうか、みんなに相談すりゃいいのか。

「ユイー?」
「コウ、みんなを俺の前に集めてくれ」
「? 分かった」
コウにそう頼むと、早速彼はその場で声をかけてくれた。 すると彼らはダンスの練習を一度中断し、結人の前で適当な場所に座っていく。

―――そうだ、みんなに頼ればいいんだ。 
―――だってみんな『一人で抱え込むなよ』って、言ってくれたんだから。

「どうしたー? ユイ」
御子紫のその声と共に、今立川で起きている“事実”をみんなに伝えた。 今の結人には迷いがなく、ハッキリとした口調で仲間の反応を確認しながら話していく。
「立川では今、結黄賊という名が浸透してきているんだ」
その一言に、当然彼らはある反応を見せた。 
「は? それどういうことだよ」
「俺たちの中に裏切っている奴がいるって言うのか?」
「あぁ、その可能性もあるな」
夜月のその発言に、結人は即座に返事をする。
「誰だよ裏切った奴!」
そのやり取りを聞いていた御子紫が、大きな声でみんなに向かってそう言い放つ。 だがもしこの場に裏切り者がいたとしても、名乗らないのが普通だろう。 
いや、堂々と名乗り出るわけがない。 そしてみんなが突然発せられた御子紫の声に驚き黙り込んでいる中、結人は彼らに向かって話しかけた。
「でも他にも考えることがある。 クリーブルは、俺たち結黄賊を敵視している」
「どうして結黄賊の名前が知れ渡ったの?」
「それはまだ分からない」
「クリーブルは俺たちを狙ってんのか?」
夜月のその問いに、もう一つの情報を彼らに伝えた。
「今朝、梨咲のダチがクリーブル事件の被害者となったっていうことはみんな知っているよな。 1組の女子だ。 その梨咲のダチが言っていたらしいんだよ。
 彼女がやられた後、犯人はこう言った。 『こうやることを命令した、結黄賊が悪いんだ』・・・って」
そう言うと先程と同様、彼らはまた同じ反応を結人に見せる。
「ッ!?」
「どうして俺たちのせいになってんだよ!」
「あぁ、意味が分かんねぇ」
「このまま俺たち出た方がいいんじゃないか?」
「ユイ、もう黙ってなんかいられないだろ! 早く俺たちも動こうぜ。 クリーブル事件を、一日でも早く終わらせるために」
未来は立ち上がり、怒りが交じった口調で物を言う。 だが彼とは反対に、結人は冷静なままでいた。
―――・・・そうなんだよ。
「そこで、俺はみんなに相談したいんだ」
「相談?」

―――俺は、みんなのことを信じるよ。 
―――俺にだって決められなかったんだ。 
―――だから、みんなの判断に任せる。 
―――・・・そして、信頼しているみんなに付いていく。

「あぁ。 もし俺たちがここで動くと、クリーブルは俺たちを求めて沙楽学園へ攻めてくるかもしれない。 俺たちが結黄賊だとバレてな。
 そしたら当然、沙楽学園から被害者が出る。 でもその逆に俺たちが動かないでいると、クリーブル事件は終わらずにこれからもずっと続くんだ。
 これも当然、沙楽の生徒だけじゃなく立川の人からも被害者が出る。 そこで俺が、みんなに相談したいのは・・・」
ここで一度みんながきちんと自分の方へ意識を向けているのかを確認し、結人はみんなに言い放った。
「これから俺たちは、動いた方がいいのか。 それとも動かずに様子を見た方がいいのか。 ・・・お前らは、どっちがいい?」
「「「・・・」」」
この問いに、みんなは黙り込む。 彼らからの返事を待とうとしばらくみんなの様子を見ているが、誰も口を開こうとする者はいない。

―――・・・やっぱり、ここは俺が決めないといけないのかな。 
―――そりゃそうか。 
―――俺の命令に、みんなは従うんだから。

「・・・それはさ」

「?」

こんな気まずい沈黙の中、ある一人の少年がこの場に合わない堂々とした口調で、自分の意見を発していく。
「動いても動かなくても、どっちにしろ被害者は出るんだろ? だったら、動いた方がマシじゃん。 少しでも早く、クリーブル事件を終わらせるには」
彼にとっては珍しく、まともな意見を発言した少年――――関口未来。 彼の意見に、みんなは個々の意見を言っていく。
「そうだね。 それがいいかも」
「でも動いたら高校に迷惑がかかるんだろ?」
「全て俺たち結黄賊が責任取ればいいじゃん」
「そんな簡単にいくかな」
「でも俺は未来の意見に賛成。 このまま動かないでいるのも嫌だし」
「んー、俺も賛成ー! 被害者が俺たちからまた出るのも嫌だしな」
「みんなが賛成なら、俺も賛成」
「変に動かなければ大事にならないっしょ」
彼らの意見は一致し、みんなは一斉に結人のことを見た。 
―――・・・最終的な決断は、俺っていうことか。
「分かった。 俺はみんなのことを信じる。 明日から俺たちは動こう。 ・・・でも、動くとしても何をしたら」
そこでふと肝心なことに気付き、結人はしばし黙り込む。 そんな中、優の陽気な声がこの倉庫の中に響き渡った。

「ならさ、パトロールしようよ!」

「パトロール?」
「うん! 手はあまり出さない方がいいんでしょ? だったら立川をパトロールして、人が襲われそうなところを発見したら俺たちが止めに入るんだ! 
 正義のヒーローみたいに! 止めるだけで、相手には手を出さないようにする。 どう? この案!」
優は自信あり気に、いつもの癒しの笑顔をみんなに見せながらそう口にする。
―――なるほど・・・。 
―――それはいい案だな。 
「いいなそれ! パトロールとか楽しそう!」
「賛成ー! ということは、毎晩パトロールだな」
「スリルあって楽しそー」
みんなも優の意見に賛成のようだ。 そんな彼らに向かって、結人は口を開く。
「よし。 優、その案採用だ。 じゃあ早速明日からパトロールしよう。 でもみんなで行ってもらっても困る。 多いからな。 
 だから、各クラスでローテーションしながらパトロールをしよう。 各クラスごとだと、文化祭の準備とかで終える時間が同じだからタイミング合うだろ。
 北野は御子紫と一緒のペアになってくれ」
「分かった」
「そんじゃ、明日は俺たちからパトロールする! 俺と悠斗、夜月でな」
未来のその言葉通り、明日は未来たちクラスから立川の街をパトロールすることになった。 しばらくは、優の案を試していこう。 
もし上手くいかなかったら、また考えればいい。 

これで少しは、立川から出る被害者が少しでも減ってくれたらいいのだが――――


しおり