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第64話 お詫びのティータイム






 ◆◇◆







 アマダンテまでは、リリアちゃんに誘導されながら主に裏通りを使っての移動となりました。
 大所帯だから時々角で止まっては後ろを待つのを繰り返していくと、着いたアマダンテの前は行列が凄かった。

「リリア、こんな混んでんのに大丈夫なの?」
「だーいしょうぶだって、『専用個室』があるからさ」

 とりあえず着いてきてと僕らに言い、裏口のようなところに連れてって中に入るように促した。

「あっれー? リリア、もう帰って来たのかい?」
「優勝者とそのお連れさんがさっそくご利用なんだよ。大人数だから奥使わせてー」
「はいよー」

 先に入ったリリアちゃんが打ち合わせもしてないのに、見つかった店員さんにそう言うとすんなりと通らせてもらえた。さすがは接客のプロでお店の看板娘さん凄いと思ったよ。

「掃除はしてるけど、あんたらくらいの人数を通す機会が少ない部屋なんだ。こっちだよ」

 従業員通路も通ってから案内された場所は、10人くらい余裕で寛げるような大きな個室だった。
 順番は、僕とエリーちゃんが扉に近くて右隣にジェフが来てからあとは適当に。シェリーちゃんとアクアちゃんは彼氏の隣に座りました。
 全員が座ってから、リリアちゃんは移動途中に掴んできたメニューを僕らに回してくる。

「あたしが全部担当するから、好きなのどーぞ?」
「あ、うん」

 話すのにも、まずは飲み物!と僕は先にもらったカードをリリアちゃんに見せる。プラスチックのような薄いカードのそれを見せれば、リリアちゃんは常備してた注文票にそれらしい印を書き込んだ。
 注文の方は、暑いから冷たいものがほとんどに。
 僕はアイスのモカラテにしました。ちょっと甘いものが欲しかったので。
 彼女が全員分の注文を確認し終わって一度出て行くと、エリーちゃんが大きくため息を吐いた。

「…………まさか、知り合いには一発でバレたなんて」
「そうだよね……」

 会うかどうかって相手だったし、事情を知らせてなかったから無理もない。無理もないけど、僕も顔を見られただけでバレるなんて思ってなかった。

「言いふらす子じゃないのは知ってるけど、これ以上いじるのも」
「化粧道具とかなら、俺少しは持ってるで?」

 どうしようかと口にしたら、レイス君がコスメとか色々取り出してくれたけど丁重にお断りさせていただきました。
 好きで普段女装してるわけじゃないけど、そっちもリップしかしてないのでやり方もわからない。そんな僕と違ってなんで持ってるんだと思ったが、すぐに冒険者の職業(ジョブ)の関係で変装道具も持ってたんだと思い直した。

「変装もだが、よく顔を合わせてる相手なら仕方がなかったんじゃないか? わざわざここまで連れてきて休ませてくれたんだ。俺達は彼女とは初対面だが、いい人だと思う」
「「そ、そうだけど……」」

 クラウス君の言う通りだったが、ロイズさん達と合流する前に似た状況になるのなら意味がない。
 遊ぶ方は結構堪能してきても、夜までまだまだ時間があるからだ。
 ここで休憩していても、よくて数時間が言いところ。

「あ。なら、あの人達のとこに行くのもどうだ?」

 僕の逆隣にいたジェフが急に提案してきたが、それだけじゃ相手がわからない。
 ほとんどの人が首を傾げてると、彼は僕の頭を軽く小突いてきた。

「商業ギルドのマスターの自宅か、その両親の自宅。ロイズさんとこは出掛けてる可能性高いが、あの人達だと長時間あっつい中歩くのとか無理だろ? 家にいるんじゃね?」
「レイシーさんとヨゼフさん?」
「ナイス! あの人達は腰痛持ちだし、家にいるはずだ。祭りも最終日の今日なら家にいるだろうし!」

 エリーちゃんが指を鳴らしたのをきっかけに、ジェフの隣にいるシェリーちゃんから伝書蝶の道具を借りて、早速伝言を飛ばした。
 窓を開けてすぐ出て行く蝶を見送ったら、返事が来るまで待つ理由もあるのでこのお店でのんびりすることに。
 その頃合いを見計らったかのように、ワゴンに飲み物を乗せてきたリリアちゃんも戻ってきました。

「おっ待たせー!」

 元気いっぱいに戻ってきたリリアちゃんは笑顔全開。
 僕らの注文した飲み物を、トレーに移してからささっと持っていきました。
 僕にはアイスモカラテ。
 エリーちゃんにはアイスレモンティー。
 クラウス君とジェフはアイスコーヒー。
 シェリーちゃんとアクアちゃんはアイスベリーティー。
 レイス君はオレンジジュースで、ケイン君はグレープジュース。
 あと一つ残ってたアイスカフェオレを空いてる席に置いたら、今度はワゴンの真ん中に置いてあったのを僕達に出してきた。

「さっき言ったスバルが提案した『パンケーキ』もどーぞ!」

 出てきたのは、僕が以前頼まれて提案したスフレのパンケーキ。
 誰も注文してないのにどうして?と首をひねったら、リリアちゃんは僕の分を出した時に苦笑いしてきた。

「お詫びも兼ねて、よ」
「お詫び?」
「変装バラしかけた手前ってとこね? あたしの奢りだから気にしないで」
「け、けど……」
「あとあたしも食べるからっ」

 と言いながら、さっき置いたアイスカフェオレの席​──エリーちゃんの隣​──に腰掛け、喉が渇いてたのかすぐに飲み始めた。

「あんた、相変わらず自由だな……」
「エリーが言う? あんたもちょっとは変装してるけど、やっぱくじのこともあったから?」
「どこまで知ってるのさ?」
「スバルがなんでか男用のくじ引いちゃったけど、それが会場を煽るきっかけになって……あんたのテレポートで逃げた?くらい」
「それについては、合ってる……んで、移動した先にこいつらと会って変装道具借りたってとこ」
「運が良かったけど、妥当ねー」
「提案したのは私」

 最後に割り込んだアクアちゃんはすでにパンケーキを食べ出していた。
 よっぽど美味しいのか、パスタを食べてる時より幸せそうだ。
 そんな彼女にリリアちゃんはちょっとだけ目を丸くした。

「……あれだけ食べたのに、底沼?」
「デザートは別腹っ」

 ぱくぱくペロンチョと食べ終えてしまう彼女に、まだお腹が膨れてるレイス君は全部あげました。同じような理由で、ジェフは一口だけ食べてからシェリーちゃんに。
 シェリーちゃんもパンケーキが気に入ったのか、アクアちゃん程じゃなくてもぱくぱく美味しそうに食べすすめてた。
 クラウス君は少しずつ丁寧に、ケイン君は多少お腹に余裕があるのかもぐもぐと口に入れていた。
 僕も一口だけ食べると、さすがはプロの出来栄えだと感心するくらいほっぺが緩んだ。

「……それにしても、事情を知らなかったからってバラしかけてごめん!」

 リリアちゃんは自分のに手をつける前に、僕に謝罪してきた。
 なんでも、中央もだがあのイベントのせいで認知度が低かった他の地区まで僕の噂が飛び交い……美少女とお近づきになりたいと男の人達がとにかく探し回ってるそうで。
 その一部を聞いて心配になるも、自分の仕事があったから探しに行けずにやきもきしてたらしい。
 そんな中、アクアちゃんと一緒で何故か男に変装してた僕を見て声を上げかけたんだとか。

「無事で良かったけど、あそこであたしがバラしてたら隠れられてた意味がぱあになってただろうから」
「だ、大丈夫だよ! ここに私達を匿ってくれたんだし」
「……ありがと。だから、デザートくらいはお詫びさせて?」
「うん。わかった」

 とりあえずは落ち着けたのでほっとしてると、ジェフが僕の肩を軽く突いてきた。

「バラしてねーの?」
「……普段は、基本的に女の子だから」

 引くとか離れるのは予想出来るけど、あんまり僕が男であるのは広めてはいけない。
 ジェフをきっかけに、ここにいるパーティーのメンバーに伝わったのは不可抗力の結果だけど運が良かったから。
 レイス君が一番怯えてたように、すぐに受け入れられるわけがない。ましてや、リリアちゃんは彼らより前に出会ってる人だもの。慎重になって当然だ。

「むぐむぐ。このケーキ?はすっごく美味しいっ」

 もうレイス君の分まで食べ終えたアクアちゃんは、まだ物足りなさそうにフォークをカジカジしていた。なので、一枚だけ食べた僕が残りをジェフから渡してもらうとすぐに笑顔になった。

「スバルさん感謝!」
「どういたしまして」
「本当に、おいひい」

 シェリーちゃんの方はまだまだ残ってるのでゆっくり食べているのに、ジェフが彼女のほっぺについてたクリームを取ると口に運んでた。
 目の前でいちゃつかないでいただきたいので、僕は軽く腕をつねってやった。けども、効果は特になし。

「あはは! スバルの隣に座ってる男前さんはそっちのお嬢ちゃんとだったんだ?」
「まーな?」

 おくびもせずに堂々としてるので、さすがにシェリーちゃんが恥ずかしくなって空いてる手でぽかぽか叩いても効果なし。
 それを見て大半の人が笑うだけに終わった。

「けど、アクアが気にいるのもわかるよっ。これすっごく美味しいけど、どうやって作んの?」

 全部は食べずに、残った一枚を分析するかのように眺めてたケイン君は僕に声をかけてきました。
 料理屋のお家だからか、どうしても気になったみたい。

「そんなに難しくないよ?」

 なので、蝶が来る時間もまだあるから、アマダンテに提案するきっかけから話すことにしました。

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