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第61話 遊ぶ事を優先

 一向にケイン君に当たらない拳を振るうも、ジェフは本気じゃない。武術とかがちんぷんかんぷんな僕でも、この前一度だけ見た動きでなんとなしにわかった。
 無駄のない所作と、今からかわれて冷静じゃない時の違い。
 パン作りでも、ゆったりのんびりと急いでる時とで出来が色々違うのと同じか。なんだか、そんな事を考えちゃった。

(​───────……多分、"友達"と思いっきり遊ぶなんて学生以来だからかなぁ?)

 エリーちゃんと出掛けることはあっても、さっき言われた通り……この世界に来てから思いっきり遊んだ記憶(・・・・・)がない。
 それは無理ないかも。元々がこの世界の住人じゃないし、専門学校を卒業してから幼馴染みや元同級生に先輩達とも遊んでなかった。
 飲食店や食品販売店なんて、定休日があってもないようなもの。特に、少数精鋭で切り盛りしてる店は今の僕や実家もそう。
 お父さんやおじいちゃん達は、半休はしても仕込みや生地の研究をしたりなんて日常茶飯事だったもの。同じような職業に就いた先輩や同級生達もそうだから、休みが合うのなんてめっきり減った。
 だから、こんなのんびり友達と触れ合う機会なんて、すっごく久しぶり。

「ふふ……"遊べ"、か」

 成人してそこそこ経つのに、学生に戻ったように遊びまくれなんて言われるとは思わなかった。
 きっと、こっちの学生さんは違うだろうけど、僕の感覚としてはそんな感じだ。思わず、笑いが込み上げてしまうくらいに。

「あ、スバル⁉︎ お前まで何笑ってんだよ!」
「う?」

 ちっちゃく笑ってたつもりが、ジェフには聞こえてたのか気づかれたのか。意識をそっちに戻すとエリーちゃん以外全員が笑っていました。

「あ、違う違う! ジェフに笑ったんじゃないよ⁉︎」
「……ちげーの?」

 慌てて手を振って否定すれば、ジェフもだけど他の皆まできょとんとし表情に。
 エリーちゃんは少し距離をとっていたけど、さっきの僕の声が聞こえてたのか手を叩き出した。

「ギルマスが言ってた"遊べ"について笑ってたから?」
「あ、うん」
「そんな事言ってたな? 店持ってるからって、マジで遊んでねーの?」
「か、買い物とか、カフェ行くとかは……」
「それ、女のやる事だろ! いや、普段は女だからいいのか? にしたって、アシュレイン来る前とかどーしてたんだ?」
「うっ」

 そこを突かれるとは思わなかったので、言葉に詰まってしまう。
 答えにくくてエリーちゃんをちらっと見ると、大きく息を吐いてから口を開いてくれました。

言えない(・・・・)んだ。あたしも詳しくは聞けてないし、まだそれぞれのギルマス達からも箝口令が敷かれてるくらいにね。女と偽ってるのにも、見た目以外に理由があるんだ。悪いけど、スバルの前の出身地については些細な事でも言えない」

 ただ言えないの一点張りだったけど、『時の渡航者』の事実はいくら性別を明かした相手でも言いにくい事。
 広めないのはもちろんだけど、敬遠されるかもしれない。良くも悪くも、次元を超えてやって来た余所者(・・・)についても受け入れてくれるかどうか。
 レイス君が僕の性別を理解しただけでもあれだけ怯えられて、そこからジェフ達が打ち明けた範囲の事情を教えたから彼とは和解出来た。
 それが、同じ結果になるなんて予想通りになるとは思えない。

「​───────……そんなにか?」

 最初に質問してきたのは、ジェフだった。

「全部を知りてーわけじゃねぇが、俺がさっき聞いた程度でもか?」
「……そう、だね。何が含まれるかわからない」

 正面から向き合うのは、何回か話したジェフでも恐怖症が出るだろうに、その事実をジェフ以外知らないからエリーちゃんはひた隠しにしている。

「出会ったばかりとかそう言うチンケな理由じゃないよ。悪いけど、ほんとに無理」
「…………わかった」

 ジェフの承諾に、クラウス君達も聞いてこなかった。
 少し心苦しいけれど、こればっかりはどうしようもない。
 ただ問題が一つ。
 この雰囲気のまま、思いっきり『遊ぶ』なんて出来るんでしょうか?
 とりあえず一度謝ろうかと思うと、ふいに上から黒い影のようなものに覆われた。

「ま、ダチが今俺達くらいならぁ? 遊び倒そうぜっ!」
「う゛⁉︎」

 影の正体はジェフで、思いっきり腕を振り上げたかと思えば僕の背中を強く叩いてきた!
 構えもなんにも出来なかったので、そのまま地面とごっちんっこ。土じゃなくてレンガ道だったから結構痛い。一応加減はしてたようだけど、打撲はなかったけどじんじんと痛み出してきました。

「ちょっ、スバル⁉︎ え、今ので倒れるか⁉︎」

 悪気は全くなくっても、現実は現実。
 慌てて腕を引っ張りながら起こしてくれたが、顔を見たらバツの悪そうなジェフの顔とご対面。

「わっり! 擦り傷結構あんな……」
「ちょっとジェフ⁉︎ スバルは冒険者じゃないんだから、受け身取れないのに!」
「悪かったって⁉︎ だから、剣出そうとすんな!」

 エリーちゃんが怒るってことは、相当顔に傷が出来ちゃったみたい。ヒリヒリピリピリするし痛いし、痣も多少出来たのかじんじんの具合が強くなってきた。

「ったく。あたし達は今パンもだけど、治療の携帯道具とか持ってないのに」
「わ、わたしがヒールかけます!」

 ぴょん、とシェリーさんが挙手してからこっちにやってきた。
 今日は杖とかないのに大丈夫かなと思ったけど、ジェフにちゃんと立たせてもらった僕の前に立つと、手を顔の前に出してきた。

「切り傷がなくて良かったです。えと…………『我が魔力を分け与えよ、この者を蝕む傷を癒せ──治癒(ヒール)

 手が水色に光り出したかと思えば、ふんわりとあったかい風が吹いてきた。
 なんだか気持ちいいなぁって感じてると、痛みがどんどん引いていくのがわかる。小さな痛みのようなのも、疲れが抜け落ちてくように消えていく。

「はい! 治療完了です!」

 シェリーさんがそう言う頃には痛いのがまったくなくなり、試しに顔を触ってみても傷のようなのも一切なかった。

「ありがとうございます、シェリーさん!」
「い、いえ! この程度なら魔力消費も大したことないので……っ」
「けど、ありがと。あたしじゃ自己治癒以外ヒール系は使えないから」
「え、そうなんだ?」

 誰でも使えそうかと思ったら、そうじゃないみたい。
 聞いてみると、魔力の適性分野によって出来る出来ないの区別があるんだって。エリーちゃんの場合は苦手分野に入るみたい。

「とにかく、擦り傷でも傷跡(・・)が残ったら……いつもの恰好してれば目立つ上に男どもがうるさい」
「……たしかに。本当にありがとうございますシェリーさん」
「い、いえ!」

 ぷるぷる首を振ると、彼女は何故かもじもじし始めた。

「あ、あの、敬語いいですよ? 私、アクアと同じ歳ですし……」
「え、えと……普通がいい、の?」
「は、はい! 呼び方もさん付けとか大丈夫ですっ」
「じゃあ…………シェリー、ちゃん?」
「はいっ」

 呼び捨てまでは出来ないからアクアちゃんのようにしてあげれば、満面の笑顔に。
 ちょっと可愛いなって思ってたら、まだ後ろに立ってたジェフが僕の頭を軽く小突いてきた。

「やらんぞ」
「え、それはそうでしょ?」

 当たり前の事を言えば、何故か苦笑いされちゃいました。
 とりあえず、遊ぶと言ってもまだお昼過ぎ。
 クラウス君達もそんなに回ってないので、ジェフとシェリーちゃんの案内を先導にしてもらいながら露店街に戻りました!






 ◆◇◆








「がっつり食べたい」

 買い食いは色々しても、ガツンとした量になるようなのはあまり売ってないからか、アクアちゃんがそんなことを言い出した。

「どこかお店に行くー?」
「むー……そうじゃないけど、なんだか物足りない」
「お金は僕が払うから、遠慮しなくていいよ?」
「ゼスト、そこまでいい。俺達より金があっても自分のために使ってくれ」

 奢るよと言ったら、クラウス君に却下された。
 そこそこ収入には困ってないのは本当なのに、律儀過ぎだと思うけれどクラウス君はまだ言葉を続けた。

「仮に借りる事はあるかもしれないが、自分で得た金銭は基本的に自分で使うのが良いんだ。これは、俺の地元の冒険者指導員に教わった事だがな?」
「へー?」

 訓練校の講師さんのような人なのかな?

「む、思い出した。あの人」
「アクアも耳がタコになるくらい言われたしな? まあ、そう言う事だ。思いっきり遊ぶように言われたんなら、好きに使う方がいい」
「んー、じゃあ……」

 僕はお財布を出して、銀貨数枚を隣にいたエリーちゃんの手に握らせた。
 当然、話を聞いてたエリーちゃんも意味がわからずに驚いてた。

「は? え? なんで、あたしに渡すの?」
「ちょっとしたボーナスだと思ってよ? エリーちゃんだって、僕の事言えないくらい休みの日に遊んでないじゃない」
「え、け、けど!」
「じゃあ、お小遣い?」
「あたしは子供か⁉︎」

 けど、お金は無理に受け取ってもらい、露店巡りをしながらアクアちゃんの胃袋を満たすように買い食いも再開。
 ジェフがやってた射的のようなのは撃沈で終わったり、くじ釣りでは小さな模造剣が当たったり、ミニクレープ屋さんでは甘いものやしょっぱいものを色々買ったり。
 グループで遊ぶのが、とにかく楽しかった!

「……それにしても、アクアちゃん凄いね」

 ミニクレープも二つじゃ足りなくて、三つか四つをケイン君に一口上げてからモグムシャと胃袋に入れていく。
 ここに来るまでも、串物揚げ物と言った軽食だって食べまくったのに大食いタレントさん達並みに平らげていました。

「アクア、ああ見えてバッファロー一頭分の丸焼きだって余裕だぜ?」

 ツナチーズクレープを頬張ってたジェフが、凄い情報を教えてくれた。
 バッファローって、牛型の巨大な生き物。モンスターにも部類するそうだけど、牛肉によく似た味でステーキがとっても美味しい。
 それを、成体一頭分を小柄な女の子がって想像しても単純に凄いとしか思えません。

「……ゼスト、ちょっと来て」

 エリーちゃんが急に来い来いと手招きするので近くに寄れば、彼女は二件隣の空きテントを指した。

「あれがどうしたの?」
「来る途中、他でも見たけど……急に店を畳んでる奴らが増えてるんだ」
「え?」
「多分だけど、君の話が少しずつ広がっていったのかも。それと、ロイズさんにも伝わってるはずだね」
「お、大事にしちゃった?」
「詳しくは明日だろうけど、気にし過ぎちゃダメだよ? 全部が全部畳んでるわけじゃないし、対策が取れるところはちゃんと続けてるし」

 大丈夫かなと思っても、エリーちゃんが言う通りにまだまだ露店はたくさんあるから気にし過ぎもよくない。
 エリーちゃんも、ちょっと気になったから僕に声をかけただけだったから。とにかく今は、観光客に徹することを優先して、僕はまだ手にしてたケバブ風クレープの残りを口に入れました。
 ただ、飲み込もうとしたら後ろからケイン君の大声にびっくりして詰まりかけた。

「ねぇ! アクアが大食い選手権やるって! ゼストさん達どーする?」

 参加の有無はともかく、面白そうなイベントが気になってエリーちゃんと急いで向かうことにしました。

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