バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

我が名は、光の忍者!

 周が起床する。
『♫S!A!T!UR!DA!Y!NIGHT!S!A!T!UR!DA!Y!NIGHT!』
 まばゆい朝日の中で、周が歌唱式の目覚まし時計を止める。
「目覚めのベイシティー・ローラーズは最高だぜ、金曜日だが。支度して学校行くかー」
 周が寝床の脇を見下ろす。
「って、こいつが居たか」
 周の隣で、きよが腹を出したまま寝息を立てていた。

「大人しく留守番してろよ!」
「早く戻るのじゃー」
 周は二階の窓から手を降る、きよの声に送られながら、通学路へ赤鸞を走らせる。
(シュウちゃーん)
「お、稀人か」
「さっき、家に誰かいたの?」
「いや」
「そう」
 新生淡路の中心市街の最も高い摩天楼に立って、遥か彼方の周達を鳥瞰する人影がある。
 白い上着、黒い穿()き物の人物は、尖った黒髪を風にゆらしながら、サングラスを朝日に光らせている。
「雇い主からの情報以上の傑物。さて。この光の忍者の術中に、どう嵌め込むか。光の忍者に出し惜しみは禁物さ。飛竜!お前の逆鱗にムチをくれていくぞ!」
 光の忍者が姿をくらませた。

「それでは、『青春期と青少年』についての小論文・或いは随筆、まずは周くんから発表!」
「はいはいと。案ずるより産むが易し。思春期(いわ)んや青春期には万能感が溢れている。やりたい事は沢山ある。やれそうな事も沢山ある。反面規制されている事も沢山あるが、隠れてやればいいだろうというのは、匹夫(ひっぷ)のやる事だ。(ゼロ)を一にする事が万能の証明であるなら、規制されている事が実は、公徳の許す範疇に属していると証明して社会を変革する事も、万能の証明だろう。新時代の萌芽が従前の聖人君子に対する挑戦となるならば、万能感に基づき青少年は学を以って理を説き、旧社会の包摂を図れ。唸っているだけよりは結果が出易い。やろうと思っていて、今日になって、今出来そうだと思ったら、割と本当に出来るもんだ。喧嘩好きの生徒の意見。以上終わり」
「周くん、素晴らしいね!」
 響彼方(ひびき・かなた)が拍手とともに賛辞を贈る。

「シュウ、さっき褒めてたの誰?」
「窓から、いきなり顔出して来た奴か?三階だぞ、何やってんだあいつ」
(しかも飛び降りて、足の指先十本を活用して分散させつつ衝撃を全身に伝えながら、植込みの土盛りの法面(のりめん)を利用して、側転で軽々と着地しやがった。運動場に対しても木を遮蔽物にしていて、見えていたのは立っていた俺だけか!)
「隣の組の響彼方君だって。体育でボールを取りに来てたらしいね」
「帰り掛けにまた来るってよ。妙な奴に見込まれたもんだぜ」
「どないするん?」

「響くん、先週の日曜のお昼に、駅前に居たでしょ?」
「その日は舞鶴市にツーリング行っていたから、他人の空似だと思うよ」
「えー、でも私が見たのも、響くんみたいに、小顔で、サングラス掛けてて、上着は白の革ジャンで、下には黒いの穿いてたし」
「あはは。格好を真似される事が多いんだよね」
「響くん、オシャレでモテそうだもんね」
「真似されてどんな感じ?」
「いいと思うよ。青春にはテーマが多過ぎるくらいだから、自分でどんどん新しい着こなしを考えていけば良いよ」
(光忍法。これぞ昆遁(こんとん)の術。昆とは後継ぎの事で、転じて子孫、更に進んで数多きを表す様になった語。ファッション・リーダーとして一旦は人より目立つが、それだけに(じき)(かえ)って大衆化して己が整えた環境に潜伏出来る様になる。昼間の行動も同じ事。一度目立ってから声掛けしたから、学年の初頭、お互いの倫理的な距離感を測っている時期、興味はあっても余人は遠慮して、真似て他の者に声を掛ける様になり、自然と人払いされた状態になる。舞鶴と言う言葉も、先程の軽業(かるわざ)と見做し合わされて、口外されても発散する)
 響は、人懐(ひとなつ)こそうな笑顔で快談し、周に声を掛けた事を、級友の流れ去る意識の瑣末事に落とし込んだ。

「髪先尖っていやがるが、超能力者(エスパー)かよ」
(ふふふ)

しおり