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第56話 合流まで

 それにしても、先頭に背が高い二人がいると言い方は悪いが隠れ蓑になってもらってる感じだ。
 人混みが増えていくにつれ、それはますます役に立ってくれて女の子からは見えにくくなり注目を浴びることが減ってきた。

(後ろから見ても、女の子と並んでるようにしか……か?カップルじゃないから!)

 変装して歩いてるだけだと意識を切り替えてたら、横からつんつんと肩を突かれた。

「エリーちゃん?」
「いつもみたいに手繋ごう。はぐれる可能性がないと言えないし」
「あ、うん」

 前後を挟んでもらってても、万が一のことがないと言えない。
 いつものように手を出せば、後ろから口笛が聞こえてきた。

「ケイン君?」
「なーになにー? 二人とも出来てんの?」
「ち、違う!」
「い、いいいいつもは、ああ言う恰好だから、ま、守ってもらうために……」
「なーんだ、つまんなーい」
「ん」

 アクアちゃんも頷かないでください!
 僕とエリーちゃんは本当に何もない同居人でしかないから!
 と、叫べないし、口にするとなんだか自信がなくなるから黙っておいた。
 あと前からもクラウス君達も苦笑いしてきたので。

「いつも繋いでるのか?」
「でないと、変な人達が異常にからんでくるんだよ。この前その人達捕まったけど」
「おまけに、牢から抜け出して再逮捕ってカルマ増やしたアホだったね」
「あ、俺が出てく前の騒動それか⁉︎」
「……あの日のか」

 クラウス君やレイス君も思い出したようです。
 アクアちゃん達は彼らから少し聞いてたみたいで、納得してくれました。

「モテる奴は辛い、ってのー?」
「ケインもそこそこだろうに」
「それリーダーが言っちゃう? うちだとジェフとクラウスが筆頭じゃん」
「……せやなぁ」
「ケインは私の」

 たしかに、成人前後のパーティーさん達は皆それぞれ顔がいい。
 イケメンならクラウス君やジェフ。
 可愛いとかはケイン君で、レイス君はからかってみたいタイプ。
 シェリーさんにアクアちゃんは女の子女の子って可愛いタイプだ。
 女性が少ないけど、既に売約済み?と独り身になったのはレイス君とクラウス君。モテそうなのに、冒険者って職業柄彼女とか作りにくいのかな?

(そう言えば、初めて来てくれた時にエリーちゃんとは初対面じゃなかったみたいだけど……)

 エリーちゃんもクラウス君とは会った気がするかもって言ってたが、結局うやむやなままだ。
 まだクラウス君達はこの街に滞在する予定ではいるらしいけど、出来ればはっきりさせてあげたい。
 拠点を持たずに旅をする冒険者の場合、次いつ同じ場所に来るなんてわからないから。
 だから、そのことを聞こうと口を開けたが、クラウス君がいきなり止まったので彼の背中に顔をぶつけてしまった。

「わっぷ!」
「ああ、すまん。ジェフ達のところが近くなってきたからな?」
「そうなの?」

 ほら、と彼が手にしてたビー玉みたいな石に矢印が刻まれていた。
 その矢印はコンパスのように動いてて、あと黄色く光ってる。相手の魔力パターンを読み込ませたら、体の一部などの色で誰を見つけたとか教えてくれるみたい。
 距離が近いと、矢印の三角が大きくなるんだとか。

「露店も近いし、遊んでるんだろう。先に合流するか?」
「「『異議なし!』」」

 お腹はまだ大丈夫だし、僕もエリーちゃんも問題はない。
 ただ、中央広場周辺の露店に近づきにつれ不穏な会話が耳に届いてきた。

「スーちゃんほんとどこ行った⁉︎」
「エリーがテレポート出来るにしたって、詠唱時間があれだけじゃ街の外には出れないのに……」
「店にもいなかったぞ⁉︎」
「まさか、どっかに匿われたか?」
「親衛隊とか?」
「「『それはない!』」」
「だよなぁ? ある意味変態の巣窟って聞くし」

 などなどなどなどなどなど!
 まだまだ探されていました!

『ど、どどど、どーしよぉ……』
『今は堂々としてなって、変装がバレるって言われたでしょ?』
『う、うん』

 それはエリーちゃんもなのに、さすがは根性が違います。
 見習いたいけど、ただの職人見習いでしかない僕は基本的にチキンハートです。時々は大胆になるかもだけど、あれは場の勢いです。
 とりあえず、エリーちゃんの手をしっかり握りながらクラウス君達の後ろをついて行きました。

「だいたいこの辺……ああ、あれか」
「おった! くっそ、カッコつけよって!」
「僻んでも、振られた身だろう?」
「傷抉らんでほんま……」

 なんとか見つかったみたいです。
 何をしてるのかまではクラウス君の体で見えないけど、レイス君が悔しがる辺りいちゃいちゃっぽいことをしてるようだ。

(僕もからかってあげようかなぁ……?)

 なんて、レイス君の後ろから前を覗いてみると、ジェフとシェリーさんは射的屋さんにいました。
 日本の露店に似てて、小型の猟銃のみたいなのをコルク玉で的に当てるようなの。的は景品じゃなくて、ダーツボード模様の板に当てて、店員さんが景品を手渡す仕組みみたい。
 一回につき何発までかはわからないけど、そこそこ頑張ってるのかシェリーさんの腕の中には可愛いぬいぐるみ達が抱えられていた。
 あれは、たしかにレイス君の言う通りジェフがカッコつけた結果だろう。

「あ、クラウス! レイス!」

 そのシェリーさんが先に気づき、彼女の声にジェフもこっちに振り返ってきた。

「おー、もう合流時間だったか?」

 銃を店員さんに返してからこっちに来ようとしたのを、クラウス君が止めて近づくことに。
 疑問に思う二人は当然だが、クラウス君は店員さんに聞こえないように説明し始めた。

『今後ろにスバルとエリーがいるんだが、広場のイベントのせいで追われてるんだ。ああ、悪いことではない。スバルの注目度が余計に集まっただけで、男達が勝手に追い回してるってとこだ』
『あー、わーった。なんかスバルの名前出す奴が多いと思ったが、例の恋みくじってやつだろ? で、レイスの道具貸して化けてんのか?』
『ああ、名前もゼストと呼ぶことにしている。少しの間一緒になるが、冒険者の方のギルマスのところへ届ける予定だ』
『りょーかい』
『わ、わかった』

 どうやら二人にも恋みくじの事は耳にしてたらしく、さっきの男の人達のように探し回ってる人はまだまだ多いようだ。
 でも、話を合わせてくれるのには納得してくれたので、ひとまずホッと出来た。
 ただ、レイス君の後ろから見えた僕の恰好に、ジェフはケイン君のように口笛を吹いた。

「しっかし、化けたなぁ? これなら、『美少年』だな!」
「ジェフまで酷い!」

 思わずエリーちゃんの手を放したり、レイス君に退いてもらってからジェフのお腹にパンチを食らわした。
 避ける気のなかった彼だけど、全然通じてないし逆に僕が力を入れられてた腹筋のせいで手が痛くなった!

「ははは! 無茶しやがって!」
「むっきー! ムカつく!」

 歯が立たないのは当然でも、悔しいものは悔しい。
 でも、それ以上はクラウス君に首根っこを掴まれたのと、昼前のようにお腹が空いて音が大きく響き渡ったので恥ずかしくなりました。

「うぅ……ごめんなさい」
「なーんだ、露店あんま回ってねーのか?」
「ステージ前に行く直前、ホットドッグと串一本だしね」
「あ、エリーさん! 可愛いです!」
「ありがと」

 いつもと雰囲気が違うエリーちゃんを、シェリーさんは手放しで喜んでいた。
 腕に抱えてたぬいぐるみ達は彼女の魔法袋(クード・ナップ)に入れることになり、ジェフが手伝ってあげてた。
 改めて見ると、たしかにお似合いだ。

「兄ちゃん達仲良いなぁ? そっちの兄ちゃんが腹空かしてんなら、ここをもう少し進んだところにサンドイッチ出してる店があんだ。味も悪くないし、目立つから行ってみな?」

 と、片付けを終えたらしい射的屋の店員さんか店長さんが、笑いながらそんな耳寄りな情報を教えてくれました!

「そう言えば、俺達もあんまり食べてないな。ちょうどいい、全員で行くか?」
「「『もち!』」」
「目印は、すぐわかるぜ。何せ、普通のサンドイッチじゃないからなぁ?」

 それだけ念を押すってことは、人気店なのかなと思ったら……到着した時にその意味がはっきりわかりました。
 本当に、本当に大きなサンドイッチがずらっと並んでたんです!

(積み上げてるってのが正しいかもだけど……)

 普通、多くても二種類ひと組とかなのに、そのサンドイッチ達はどれもが五種類以上の組み合わせの『山』の状態。
 しかし、露店に不向き過ぎる。
 射的屋のおじさんの厚意を無下にしたくないけど、非常に食べにくいサンドイッチにしか見えない。
 味はともかく、見ただけで満腹になってしまいそうな光景だもの。
 それだからか、お客さんは一人も寄り付いていない。

『どーする?』
『てか、店員おるんか? 埋もれとんのか?』
『食べにくそう……』
『同感』
「俺は食いたいなー?」
「自分も」
「「『え?』」」

 ケイン君とアクアちゃんカップルが挙手したので、二人は僕らの間を縫って突撃していきました。

「店員さーん、サンドイッチくーださいな!」
「メニューがあるなら、見せてほしい」

 周囲に響き渡るくらいに言うので、他の人達まで驚いて振り返った。
 すると、店の少し奥から何かが(・・・)立ち上がりました。

「ようやっと来おったか、俺のサンドイッチを食える強者が!」

 ジェフやクラウス君より背が高くて、レクサスさんくらいがっちりした体格のお兄さんが腕を組んでケイン君達を見下ろしてきました!

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