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第55話 和解は謝罪から






 ◆◇◆







「「ぷくくく……っ!」」


 ジェフの不憫っぷりに、エリーちゃんと吹き出すしかなかった。

「笑っらえるでしょー? まあ、そう言うわけで。俺達パーティー全員は店長さんの性別知ってるってこと。もっちろん、他には言いふらさないよ?」

 その信用はちゃんとしているから、僕らは頷くだけだ。
 ジェフもだけど、皆さん基本的に良い人達だもの。
 ただ一人、レイス君には多大なショックを与えた結果になってしまったが。

「ほーら、レイス! 店長さんに言うことあるでしょ?」
「い、いいい、言うってぇ⁉︎」
「いい加減、うじうじしてるのやめろ」

 クラウス君やケイン君もそれに気づいたのか、片付けを終えたレイス君を引っ張り出してくる。
 当然、レイス君は嫌がって必死に抵抗していた。

(けど、言いたい事って何かな?)

 勘違いはともかく、この前のは全面的に僕の思いつきが原因で傷つけちゃったのに。

「…………えーとぉ……」

 結局僕の前に突き出されたレイス君は、一瞬僕と目が合ったけどすぐに逸らして、何故かもじもじし出した。
 ちょっとびっくりしました。少し前までは、僕と再会してから怯えたままだったのに、この変わり様。
 今が男の子の恰好だから、むしろ見れるのかな?
 少し待っていれば、覚悟を決めたのかしゃっきっと姿勢を正して僕と目を合わせてきた。

「事情知らんかったとは言え、武器向けてすんませんでした!」

 謝罪の言葉と深いお辞儀をされてしまった。
 けど、僕自身思い当たることがすぐになくて、首を傾げることしか出来なかったです。

「え、武器?」
「こ、この間、俺がキレてる最中に割り込んできたやろ? あん時クナイ持ったままやったから……」
「ああ!」

 構えてただけとは言っても、あれもそのうちに入るんだ?
 言われるまで気づかなかったと正直に言えば、安心したのかレイス君は大袈裟なくらいに深いため息を吐いた。

「よ、よかったぁ……」
「むしろ、失恋?させちゃったのは僕だし」
「イワンデクダサイ。カナタニトバシタイカラ!」
「あ、はい」

 やっぱり、傷は深いようなので僕もそれ以上言う事をやめました。
 ただし、仲直り?の印として握手だけはしたよ?

「……男なのに、結構柔らかっ」
「へ?」
「はーやーく、離せ!」
「いで⁉︎」

 すぐに離さなかったレイス君は、不審者?発言でケイン君にチョップを食わされてしまいました。

「まーったく、これを機にゲイになるなんて俺やだよ?」
「私も」
「俺も一個人として嫌だな」
「なるか、ワレェ⁉︎」

 とりあえず、わだかまりのようなのはこれでおしまいになったので、ちょっと顔色が悪くなってきたエリーちゃんも一緒に移動することに。
 まだ出掛けて数時間だけど、こんなにも長くロイズさん達以外の男の人達と長く過ごすのは、そうそうないからだ。

『エリーちゃん、大丈夫?』
『……と、とりあえず。が、ががが、我慢はなんとか出来るっ』

 出来るだけ前後に分かれて囲ってくれた皆に聞こえないように言えば、やっぱり無理してるのがわかった。
 本当なら自宅に戻りたいところだけど、クラウス君が言ってたように押し掛けさん達がうろついてないとは言い切れない。
 ロイズさんかルゥさんに知らせようにも、二人ともお忙しいだろうから頼れないし?

「あ、そうだ」
「どうしたスバル?」
「それ」
「は?」
「通りに出て、その名前で呼ばれたら……変装してる"僕"だってバレちゃうでしょう?」
「あ、そーだねぇ?」

 ケイン君のように、店長さんでも勘付かれる可能性だってある。
 何か違う名前をつけようにも、僕の名字は和文化のとことも違うから、うかつに教えられない。
 すると、少し調子の落ち着いたエリーちゃんが手を叩いた。

「じゃあ、ゼストは?」
「「『ゼスト』??」」
「たしか、古いカストレア語で『刺激・魅力』って意味だったはずだよ。実家の書庫で昔見かけたんだ」

 異世界用語なんだと関心してたら、クラウス君が一瞬顔をしかめたけどすぐに切り替えて頷いてた。

「それなら男として不自然じゃないな? とりあえず、そう呼ぶか」
「「『異議なし!』」」

 偽名も決まったが、もう一つ思い出したことを口にします。

「ずっとは皆に悪いし、冒険者ギルドまで送ってもらうのでいいよ。あ、ジェフ達と先に合流した方がいいならそっち優先でもいいけど」
「それは構わないが……何故冒険者ギルドの方に?」
「商業のギルマスさんは広場とかにいるはずだから?」
「む? それなら、あの騒ぎでむしろあなた達を探してるんじゃ?」
「「『あー……』」」

 その可能性は十分にあり得る。
 せっかくロイズさんのご厚意でお休みをくださったのに、イベントに参加したことで余計な心配をかけてしまった。
 だけど、このまま中央広場に戻ったところで会える保証もない。

「エリーちゃん、蝶の一式って」
「あいにく、今手元にない……」
「僕もだけど……」

 クラウス君達も全員持ってないらしい。
 エリーちゃんのテレポート魔法は、魔力のチャージが数時間はかかるから連続して使えないそうです。
 手元に、クリームパンは当然ないから補充は無理。
 テレポート自体、ランクB保持者でも魔剣士(ルーンナイト)って職業(ジョブ)の人が使えるのがやっとらしく、同じ職業(ジョブ)のアクアちゃんはまだまだ使えないそうです。
 結局、徒歩での移動と例のパーティー全員が所持してるお守りを頼りに、ジェフ達と合流してから冒険者ギルドに向かうことにした。

「味方は一人でも増やした方がいい。シェリーはDでも防御結界の質が高いんだ」

 との理由も教えてもらったので、移動再開。
 大通りに近いところまで来たら、まずは前を守ってくれてるクラウス君とレイス君が先に出て確認。
 現在、中央に近い東区の端にいるからか、押し掛けさん達はいないみたい。
 早く出ろ、と合図をしてもらってから、後ろを確認していたエリーちゃん、ケイン君とアクアちゃんも一緒に飛び出す。

「挙動不審は良くないのはわかってると思うが……あと、ここからはしっかり"ゼスト"と呼ぼう」
「お願いします」

 なんだか、ゲームのキャラクター名になった気分だけど、気を緩めちゃいけない。
 あとの注意事項は、『あくまで祭りの観光客を装う』です。
 そっちは、エリーちゃん以外全員初めてだからなんの問題もない。

「あ、そや。エリーちゃん」
「な……に?」

 レイス君が魔法袋(クード・ナップ)から大きいこげ茶の帽子を取り出し、エリーちゃんにぽんと投げました。

「君も軽く変装した方がええやろ? 目撃者多かったはずやし」
「あ⁉︎」
「レイスにしてはやっるぅ!」

 たしかに、忘れてました。
 冒険者としても知名度が高いし、あんな大技な魔法で退散しちゃったから、このままだと目立つ目立つ。
 エリーちゃんもようやく気づけたので、小さな声で『サンキュー』とレイス君に言ってからキャッスケットに似た帽子を被った。
 ただ、いつものポニーテールのままじゃ被りにくいので髪紐を解いてから被り直した。
 たったそれだけで、すっごく女の子らしい可愛い感じに!

「エリーちゃんよく似合ってる!」
「そ、そう?」
「名前は愛称でいーんじゃない?」
「ん、エリーって呼ばれるのは結構多い、はず」

 じゃあ、仕切り直し、と僕達は堂々と街の中に繰り出すことにしました。







 ◆◇◆






 東区どころか、お出かけはたまに中央以外は北区で済ませることがほとんどだったから、なんだか新鮮。
 建物の造りはあんまり変わらないけど、壁の色が違う。
 北区は僕のお店を含めて白っぽいけど、東区は少し水色が多かった。

「区によって色が違うの?」
「方角の意味を込めてらしいよ? 創立からずっと区ごとに色が変えられてる。東区は見ての通りで、南区は赤、西区は緑、北区は白。中央は黒」
「「『へー』」」

 クラウス君達も当然知らないから、エリーちゃんの説明に頷く。

(けど、誰もスバル()だって気づかない)

 あんまりすれ違う人が少ないからかもしれないが、それにしても髪色と服装だけでバレないって不思議だ。
 普段からコスプレのような恰好をしてるから、そっちの方が目立って街中では広まってるかも。
 ただ、ちろちろ女の子には見られてる。

「……なんか、見られてる?」
「「『ゼスト(さん/はん)が美少年だから』」」
「口揃えて言わないで⁉︎」

 鏡で結局見てないから、変装がどうなったのか本当に知りたかった!

「べっつにいいじゃーん? それだけ違和感ないってことだしー?」
「ケイン君……」

 絶対面白がってるこの人!

「ほら、足が止まってるぞ?」
「まあ、これくらい砕けてた方がいいんとちゃう?」
「そうだが、時間もない」

 何故か、前方の男の子達には納得されました……。

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