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とある綿Aの1日

おいお前、隊列を乱すな。後ろが突っかえる」

「すみません、先程の戦闘で体液を少し浴びてしまい、繊維が思うように運びません。」

「分かった、取り敢えず殿の部隊と合流しろ。次いで部隊長に生存兵の1割をこちらに回せと伝えておけ、明らかに接触率が上がっている。巣は近いぞ。」

「了解。」

 大きく左に離脱し隊列から退いた。中央部隊は瞬時に隊列を組み換え森の奥へと消えた。今舞っている葉が地面に落ちる頃には後続部隊がやって来るだろうか。座布団みたいな葉がダラダラと落ちていく。

「ゼラの樹、だったか」

 戦闘のせいでまじまじと地形を見る余裕は無かった。クマバチ型の虫喰いにタックルされて、その時体液を擦り付けられた。恐らくクマバチ自体も驚いていたことだろう。ここまで糸人が侵攻しているのは初めてのことだから。

 衝突したクマバチにもダメージの跡が見られた。狼狽するクマバチに三本の輪っかを掛け、思いきり絞め上げた。甲殻持ちでは無かったから、そのまま体液を噴き出して果てた。滴る体液と筋肉、ケムリが混交する。この臭いにはいつも、生理的嫌悪感を覚える。知性の片鱗も感じさせない、汚物め。

 まず、不意の接敵に合っておきながら繊維を喰われなかったのは好運だったと言わざるを得ない。持っていかれてたとしたらこの遠征での再起は絶望的だった筈だ。せっかくの最奥部遠征に抜擢されたからにはその辺の虫喰いにいてこまされる様な醜態は晒したくない。

 しかし、だからといって少し気負い過ぎていた節もある。平々凡々の綿の一族でこんな場所に居れること自体珍しいのだから。勇み足で事に掛かれば足元を掬われる。兵士学校のガイダンスで真っ先に言われる事ではないか。数え8回目の討伐遠征の兵士でさえこの体たらくだ、あの教官が口を酸っぱくして訓練兵にくどくどと説いていたのも頷ける。

「『箱渡し』からやり直すかぁ!?」

 あの教官なら言いそうだ。いや、確実に言う。間違いない。突っかえ突っかえの俺の返答をあの頭突きで粉砕するだろう。大木にドロップキックされる映像が脳裏を過ぎった。

 俺はなんて卑小な存在なんだ…と嘆くと同時にこのモンスターが同じ生物であることが信じられなかった。故に訓練兵からは誰が言ったか「古代生物」の異名を持つことになった。

 結えられた頭髪と彫刻刀で掘られたような皺。生きる化石に頭突きをされた俺たち訓練兵も文化財として登録されるだろう。

 クマバチの黄色い毛が繊維に挟まっていた。部分解紐し、繊維を落とした。結紐し元に戻す。意識と繊維をリンクさせる為に少し身体を伸ばす。準備完了だ。辺りを見渡す。

 ゼラの大葉は既に落ちていた。何か生物が通ったあとだったのか、1面に降り積もったゼラの葉の絨毯が真っ二つに禿げていた。何らかの生物が通ったあとだろうか、風にしては直線的過ぎる。少し懐古な気分になっていたから見落としていたのか。

 如何せんここに関する情報など片手で数えるほどしか無い。事前調査として派遣された部隊も小規模だった。

 単独行動での接敵は極力避けたい。群れを呼ばれる、或いは群れと遭遇した時点で生存は絶望的だからだ。群れごとぶっ潰す戦力を持つ糸人など前衛部隊ですら数える程しかいない。加えて稀に観測される虫喰いの巣の規模と行動範囲を鑑みるに、糸人と虫喰いとではそもそもの母数が違う。

 故に我々も彼奴らと同様に群れをなし、戦う。対虫喰いのいろはを心得た糸人が集まれば虫喰いの群れなど恐るるに足らず。

 もう後続部隊が現れてもおかしくない頃合だが…。その時視界の端に微かな光を捉えた。光…?この異形の森の深奥に光など似つかわしくない。太陽の光とはまるで違う、ひとつ川の端から照り返すような曖昧で濃密な光。

 それは葉の絨毯の筋をなぞる様に、歩を進めた。あくまでその筋を吟味するように移動するそれは、一つの知性の形であり、また直感による機能美を思わせた。俺はこの時の記憶が曖昧で、というのも現象としての映像は残っているのだが、その時俺が何を行動原理としていたかは全く思い出せない。

 何かに突き動かされ、いや、寧ろ何かに手を引かれていた、と表現するのが正しいだろうか。気づいたら俺はその生命体の背中を追っていた。その生命体が、俺の歩みを待っているように思えてならなかった。今すぐにでも、その生命体に抱き着いてしまいたかった。

 欄干から望む川面のように、俺はそれを眺めていた。純朴な眼差しでその背中を見つめ、後ろを歩く俺はさながら鴨の雛にでも見えたことだろう。少年の愛らしさはとうに失われていたが、一心不乱に背を負う俺は何かの皮肉かパロディか、余程滑稽だったに違いない。新兵に現場を抑えられることがなくて良かった。俺の噂は新兵間にそれとなく伝わり、俺についての情報が更新される。新兵が変わらずとも俺が恥ずかしい。充実した討伐部隊の時間に支障を来たすことだろう。

 そうなれば俺も「古代生物」の一員になっていたかもしれない。あの怪物の精神力をいささか見習いたいものだ。俺には到底真似出来ない。

 その後、俺はいつの間にか眠っていたらしい。あの生命体、詳述するならそう、あの猫又の上で。尾は二股でそれぞれが意識を持っているかのようによく動く。瞳はブルーで表層には光子が漂っている。

 常に場所を変え続けるそれもまた意思を有しているように思えた。漂う意思の底からようやくこちらを見つめる結晶物が覗いている。

 その結晶物は美しい純黒だった。外観に特筆すべき特徴は少なく、巨大な体躯を除けば誰もが見た事のある猫だった。純白の毛並みは常に輝きを放ち、俺と猫又の空間は目が霞むほどに煌いた。木の幹も辺り一面の草花の輪郭すら失われる程に。

 背中にしがみついて頬を埋める心地良さについ、ほくそ笑む。風に当たる心地良さとはまた違う、窓から差す日光の澄み切った熱ただそれだけ。ただそこに存在し抱き寄せることの出来るようなその暖かさ。

 その背中で短い時間ではあったが、惰眠を貪った。気づくと周りには小動物たちの提灯行列が催されていた。燦然と煌めく光に動物たちの輪郭はない。

 顔も毛並みも爪も尽く失われた。彼らについて私が知り得ることは何も無いが、心做しかこの祭事を楽しんでるように思えた。輪郭だけの動物はとても愛らしかった。

 訓練兵時代に書き連ねた棒人間の物語。人間であったがそれは愛らしかった。輪郭動物も伯仲している。彼らから見た俺も輪郭だけだろうか。恐らくそうだろう。ここにはハッキリした物がない。



 目を開けるとそこは地獄だった。一帯が渇いた黒に塗り潰され、胡蝶のような真っ赤な炎がそれを取り囲む。広場の中央に聳える虫喰いの巣。その表皮に炎が迸っていた。その炎は耳障りな程に火の粉を鳴らした。泥の城から「待ってました」と言わんばかりに。まるで拍手喝采の歓迎を受けているようだった。

 俺は自分の身体が強ばっているのを感じた。周りに埋め尽くされた黒は糸人の繊維である。超高密度に結紐された前衛部隊の鎌槍が夥しい数地面に突き刺さっている。依存型結紐壁、支跳結紐樹も同様であった。

 大量の繊維を用いて形成されるそれらは、炎によって瓦解していた。瓦解した物は一様に解紐して結紐時の強張りを失っている。解紐し一帯に広がる黒々とした繊維は巨大な生物の頭髪を思わせた。既に動くことは無いであろうそれらが死んでいることに俺は自信を持てなかった。

 泥の塊の下腹にこちらを見つめる光があった。それは人型で糸人と同じ外形、サイズだった。周囲の炎と同様にこちらに向かって熱を放っている。全身が炎そのものと言っても良かった。山肌に腰を落とし、身体の前で指をむすんでいる。首と顔の境界すら曖昧で表情は一切見て取れない。しかしこちらを見つめているのは確かで、その顔のない顔で見つめられた俺は謂れのない恐怖を感じた。

 あいつがやったんだ、間違いない。その姿を一瞥したその瞬間、「それ」が俺達とは相容れない存在であることを悟った。その怒りは初めて虫喰いを殺した時と同じだった。俺はこれ以上近寄ることは出来ない。自分に力があればすぐにでも「それ」を八つ裂きにしてやりたかった。

「それ」と邂逅してから猫又は全く動こうとしない。間合いを伺っているといった仕草は無く、ただその場に静観していた。指を結んでこちらを見つめる「それ」、静観する猫又。

 異変が起きたのは猫又だった。微動だにしない猫又の顔を覗いた。そこにはまるで表情が無かった。巨大な宝石を思わせるその目は強烈な存在感を放ちつつも魂の抜け落ちたように虚空の彼方を見つめていた。荘厳な石膏像はただそこにあるだけ、と言った様子だった。俺はただそれを見つめていることしか出来ない。

 いつの間にか目が眩む程の光も失われていた。事が起きたのは、その時だった。猫又が爆散したのだ。猫又の背中がばっくりと割れ、大量の何かが噴き出した。

 それは、繊維だった。逆さになった滝の如く幾万の繊維が俺の頭上を超えていった。何かに追われる鰻のように宛もなく宙を駆け巡った。当の猫又は徐々に外形を崩し、やがて彷徨う鰻と同化した。鰻は先の煌めきを取り戻し夕闇の空を泳いでいた。

 俺は目を見開いてそれに見入っていた。ここまで繊維が太く、且つ畏怖すら感じさせる圧倒的なものにこれまで出会ったことが無かった。自分の持つ繊維と比べてそれは余りに瑞々しく、雄々しかった。宙を漂いながら身体の繊維は絶え間ない流動を繰り返している。

 一本一本の推進力が全体の推進力となり、不定形であったが芯があり、怒張していた。白鰻のその動きは対象を持たず右往左往していた。何処かを目指すというより自分の姿を誰かに見てほしい、その意思表示のように思えた。

 しかし、それも「それ」の前では塵芥に過ぎなかった。山肌に腰掛けていた「それ」は、すくっと立ち上がり、右の手の平を白鰻に向けた。手の平からちょうど彼奴の頭ぐらいの火球が射出された。火球は白鰻に命中し、白鰻は炎に包まれた。白鰻は地に落ちのたうち回る。やがて動きを止め、事切れた。「それ」は気だるげにまた腰を落とした。奴は一歩たりと動かなかった。

 呆気ない幕切れだった。白鰻に目を奪われていた自分は何だったのだろうか。パチパチパチと燃えるそれはただの塊で、もう帰り支度を済ませている。

 取り残された俺に最早希望はなかった。前衛部隊が全滅など今まで聞いたことがない。広場の周りの木の燃え方を見て前衛部隊は退路を絶たれていたことを俺は察した。一人ずつ焼いて殺したのだろうか、一思いに纏めて殺したのだろうか。奴の顔を見たところで何も書かれていないので俺には知る由もない。虚脱感に襲われた。

 俺は何か引っ掛かっていた。猫又乃至は白鰻、こいつらは何だ。糸人とはまるで異なる体躯を持ちながら身体は繊維で構成されていた。この両者が無関係とは思えない。俺の知らない何かがある筈だ。

 _______あいつは何か探してるみたいだった。

 白鰻が現れた瞬間を思い出した。あの白鰻が目指していたものは何だったのか?猫又から現れたそれは卵を割って外の世界に駆け出した。それこそ鰻の稚魚のように。

 _______親がいる。

 あの猫又の体躯を見てそんなことは微塵も考えなかった。が、そう考えると今まで見てきたものが全てその端緒であるように思えてならない。

 思うより先に身体が動いた。今自分が出せる繊維を全て宙に放散させた。白鰻の姿はこの目に焼き付いている。俺は俺自身の身体で白鰻を象った。あれだけ巨大なものを形作るには俺の繊維は少な過ぎる。中身は空洞、少しでも大きく見えるように整形した。不思議と活力は残っていたから大きさで言えば白鰻と遜色ない程になっていた筈だ。

 俺は夢中でその可能性に縋った。お手製の白鰻は本物ほどは輝いていないが、広場の周りを囲む炎が代わりに紅く染め上げた。

 俺の意図を理解した奴は素早かった。座ったまま俺に向かって火球を飛ばした。先程と同じサイズ、同じスピードであった。それを反射的に予見していた俺は思い切り自分の身体を捻って白鰻を動かした。予見していたにも関わらず、紙一重の回避となった。だが、一つ目は回避した。当然、二つ目はすぐそこまで来ていた。

「ああああああああ!!」と叫び声が聞こえる。声色に悲壮を湛えてそれをぶちまけている。全く現実味を感じず、無限遠からこれを見ているようだった。

 叫んでいたのは俺だ。

 が、その叫びを掻き消すように火球が白鰻で爆散した。強烈なデジャヴュが襲った。俺の白鰻は空中で火の玉となり、萎んでいく。その炎は白鰻と一体になっていた俺に恐ろしい速さで這い寄ってきた。

 近くで見たそれは液体のようにドロドロとした悪魔、一方的に喰われていく自分の身体を見て総毛立った。が、間一髪で自切に成功した。とっさの自切に両腕を失った。

 木々の奥から、白い何かが押し寄せてきた。大きな繊維の塊だ。

 ________どういう事だ?

 広場を囲む全方位の木々の間からそれは現れた。夥しい数だ。群狼にでも囲まれたかのように、それはこちらへ距離を詰めてくる。見渡す限りの白い繊維。

 まるで吹雪だ。

 その繊維は広場を目とした渦を作っていた。やがて、全ての繊維が広場一帯を呑み込んだ。吹雪の渦に呑まれないように身体を固定するのが精一杯だった。俺は地面に倒れ、結紐した繊維の槍を身体中から精製し、根のように地面に張った。

 俺と人型の炎は吹雪の中を耐え忍んだ。大量の繊維が俺の身体を切り裂き続ける。永遠のような時間が流れた。吹雪に抉りとられた俺の背中は感覚を失っていた。或いは既に失われていたのかもしれない。心身共に限界に達していた。

 もう沢山だ。

 俺が何をしたって言うんだ。そう叫んでやりたかったが、その気力すらもう無かった。願うように空を仰ぎ見た俺は狼狽した。巨大な発光体があったからだ。空に浮かぶそれは正に太陽だった。吹雪の奥からこちらを睥睨している。

 _________あれも糸なのだろうか。

 規模が違い過ぎてもはや測ることすら難しい。あの時見た猫又とは似ても似つかぬ圧倒的な光だった。その光には熱すら感じる。灼熱の太陽に焼かれながら吹雪に襲われたのは後にも先にもこの時だけだ。

 人が干渉して良い対象ではない。そう思わせた。だが、人型の炎は違った。俺や白鰻を燃やした火球、悪魔をそれに撃ち放った。あの時の火球とはまるで違う。

 それこそ太陽と比べても遜色ない大きさだった。その膨大なエネルギーに俺は身じろぎした。太陽に向かっていく火球は一帯の吹雪をも溶かしていった。號と太陽に哮り立つ。

 太陽に命中せんとしたその時、巨大な繊維の「花」が現れた。花は徐々に巨大化し、空は花弁で埋め尽くされた。花弁の奥から太陽が仄かに透けている。

 その花弁は龍の鱗のようだった。花は空の端から徐々に折れ、火球を包み込んでいった。火球は触れる花の表面を少しばかり焼いただけで、やがて為す術もなく火勢は死んだ。

 人型の炎は姿を消していた。俺が空に釘付けになっている間に何処かへ去ってしまったらしい。

 俺が打ち上げた白鰻を落とした時も、奴は俺の目的を理解して対応した。虫喰いのような俺たちを見つけ次第喰い散らかそうとする短絡した生き物では無いらしい。

 奴の存在は、危険だ。虫喰いの比では無い。前衛部隊が全滅したなど異例中の異例だ。吹雪もいつの間にか止んで、空に太陽だけが浮かんでいた。

 相変わらず光の塊があるだけで俺の目には何も見えない。こいつの全貌もいずれ明らかになる時が来ると良いが、それは先の話になりそうだ。俺にはまだ仕事がある。一刻も早くこの場を離れ、事の顛末を上に伝えなくてはならない。

 思案に暮れている俺を見ていた太陽はさぞ退屈だっただろう。太陽に目をやった俺は何かがこちらに向かって来るのを捉えた。

 それは長大な剣だった。柄は見当たらないが、眩い光の中から刀身だけがこちらへと伸びていた。それは時を弄ぶようにノロノロとやって来る。鈍重な光沢と冷感は正に金属のそれだ。

 刀身は既に天を貫くほど伸びている。俺は慌てて横に避けた。が、刃は俺を追ってこない。真っ直ぐに地面を目指していた。何の思案も見られない。

 剣の指す先にあったのは、白鰻だ。元は猫又の白鰻。火球で火達磨となった後、地に伏してその炎に焼かれ続けていた。が、炎は消えていた。黒焦げになった鰻がじっと佇んでいた。

 切っ先はその鰻に向かっていく。やがて鰻の頭をさっくりと突き刺した。俺は太陽の行動に訝しんだ。

 ________何やってんだ、こいつ

 答えは直ぐに出た。剣が、スゥーっと縦に引かれる。鰻の頭がパックリと開かれ、何かが転がり出てきた。俺は不思議な安堵が洩れた。久々に同じような存在に出会えた。

 中から出てきたのは糸人だった。汚れの無い、純白の繊維。俺と同じ、綿だ。身長は俺と対して変わらない。あれだけの炎に焼かれながら傷一つ無いのは余程運が良かったのか。まるで新雪のように眠っている。

 太陽は既に消え去っていた。辺りは微かな夕日を頼りにその形を保っている。無事に産まれた自分の子どもに一言何か無いのか。不躾な親も居たものだ。

 俺はこれからこいつを背負って森を抜けなければいけないというのに。せめてその時まで一緒に居てくれても良かったんじゃないか。こんなに綺麗な子どもが産まれても、全く意に介さないのが親というものなのだろうか。

 俺たちの共同体に比べれば強健な成り立ちと言えるだろうが、希薄とも受け取れるし、憎たらしくもあった。

 糸人の子ども(と言っても体躯は俺と大差ないが)を背負って繊維で固定する。紐で固定すると共に背中の繊維と身体を縫合した。頭を俺に預けて眠っている。何の夢を見ているのか。こいつの穏やかな顔が少し羨ましい。

 長い長い一日だった。この場所から去れば今日という日は終わるのだろうか。そんな気がしないでもないが、まだ分からない。こいつを背負っていると何か大きな事に巻き込まれそうな、そんな予感がある。

 背中から伝わる体温が、根拠の無い安心感を俺に抱かせる。一緒に眠ってしまいそうになる自分を叱った。広場の真ん中には巨大な刀身が残されたままだ。一瞥して、俺とこいつは夜の森に入った。

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