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うそつきピエロ㉙




コウは急いで気を失ってしまった優を抱え、ベッドまで運んだ。 そして、そっと横にして布団を優しくかけてあげる。
だがそこで安心する時間もなく、急いで携帯を手に取り北野に電話をした。
『もしもし?』
「もしもし、北野か? あのさ、優が突然倒れちまったんだ。 なぁ、俺はどうしたらいい? 病院へ連れていった方がいいのかな」
このまま優をどうしたらいいのか分からなかった。 優が目の前で倒れたのは初めてで、自分としたことがいつもとは違い動揺してしまったのだ。
こういう時こそ――――落ち着かなければならないのに。
『え、優が? ・・・そっか、倒れちゃったかぁ』
「いや、おい北野! どうしてそんなに落ち着いていられるんだよ。 こっちは大変なんだぞ?」
そう言いながら、優の額に手を当てた。 熱があるかを確かめようと思ったのだが、どうやらなさそうだ。
『大丈夫だよ、コウ』
「大丈夫って何がだよ」
『優は疲労による寝不足だよ、きっと』
「え・・・」

―――寝不足?

『コウは・・・今優と、一緒にいるんだよね? ということは、少しでも打ち解けることができたのかな』
「それは・・・まだ。 俺からの気持ちを言おうとしたら、優が突然倒れたんだ。 優が一方的に俺に向かって言ってきただけで」
『・・・そっか』
そう言って、北野は電話越しで軽く笑う。 どうして彼はそんなに余裕でいられるのだろうか。
「北野、俺は今真剣なんだ」
『うん、分かってる。 だから大丈夫って言ったでしょ。 ・・・優は、今まで精神的に凄く追い詰められていて、凄く苦しかったんだと思う。 コウと一緒でさ。
 俺は優とあまり関わらなくて遠くから見ているだけだったけど、どうやら寝不足みたいじゃん。 ・・・ご飯も、ちゃんと食べていないみたいだったし。 
 コウも気付いていたでしょ?』
「え・・・?」
『優の生活習慣も、きっと乱れていたんだ。 だけどその苦しい精神が、コウに今全てを打ち明けたことによって安心したんだよ。 そう、苦しい気持ちがなくなったんだ。
 だから、今までの疲れがどっと出ただけ。 そのまま寝かせておいてあげて? 寝不足が解消されたら、もう優は大丈夫だからさ』

―――そう、なんだ・・・。 
―――よかった・・・。
―――・・・心配させんなよな、優。

北野の言葉を聞いて一安心し、優が寝ているベッドに腰をかける。
「分かった。 ありがとな、北野。 ・・・あと、強く当たって悪い」
『いいよ。 ・・・でもよかった、コウがちゃんと優のことを心配してくれていて』
「は? 何を言ってんだよ。 優を心配すんのは当然だろ」
『ははっ。 だよね。 ・・・じゃあ、優を安静にさせておいてね。 そして起きたら、何か食べさせてあげて』
「分かった。 ありがとう」

コウは北野との電話を切って、気持ちよさそうに眠っている優のことを見た。
―――優に・・・先を越されちまったな。
本当はコウから、優のところへ行って謝りに行く予定だった。 だが学校では言う勇気が出なくて、一度家へ帰って覚悟ができたら、彼の家へ行こうと思っていたのだ。
でもまさか――――優から来てくれるなんて、思ってもみなかった。 

―――本当は、俺から優に心を打ち明けるはずだったのにな。

ふと時計を見る。 時刻は17時になろうとしていた。
―――・・・買い物にでも行くか。
最近の立川は、物騒で危ない。 ニュースでもよく騒がれている。 その事件が起きるのは全て夜のため、暗くなる前には買い物を済ませておいた方がいいだろう。
米を炊き、財布と携帯を持って再び優のところまで戻った。
「優、買い物へ行ってくるな」
返事がこないことを分かっていながらも、わざと優に向かってそう声をかける。 そして家を出てスーパーへと向かった。 

向かっている最中でも、コウは優のことを考える。 彼からの言葉は全て心に届いていた。 それに言われて嬉しかった。 “今の俺が好き”という言葉が。
結人と同じで、優は今の弱い自分を認めてくれたのだ。 
“どうして優は俺の苦しい気持ちを知っておきながら、俺に関わってくるんだ”と思っていたが、それは全て彼の優しさだった。
―――いや・・・そんなことは、とっくに知っていたけどな。 
自分からも優に言わないと。 そして謝らないと。 あんな酷いことを――――自分は、言ってしまったのだから。 

買い物を終え暗くなる前には、家に戻ることができた。 ベッドに目をやると、優はまだ寝ている。 
コウは優が目覚めるまで音をあまり出さないよう、勉強をしたりネットをしたりして時間を潰した。 21時を過ぎるが、彼は未だに起きる様子がない。 
晩御飯を食べる時間を逃したが、あまり食欲がなかったため今でも食べずにいる。 

そして――――いつの間にか、もうすぐ日付が変わる時間になっていた。
―――・・・このまま待っていても仕方ないか。 
―――風呂でも入ってこよう。
コウは再び優が気持ちよさそうに寝ているのを確認し、着替えを持って風呂場へと向かった。


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