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第36話 差し入れでひと息が




 ★・ロイズ視点・★





 昨日ほとんど休みにしてたせいで、また書類が溜まりやがった!

「終わるかこんちくしょう⁉︎」

 だが、終わらせなければならない。
 夕方から開催される前夜祭の開会宣言は、商業ギルマスの俺の役目だからだ。
 会場などの細かい作業とかは、今も副ギルマス達に任せてはいるが、早く終わらせないとその役目にも間に合うか危うい!

(ジェフの件は早い事済ませれて良かったが、俺が決めた事だ。副ギルマス達にも捌けてもらってこれって、どんなけ仕事増やしたんだか)

 創立祭の次の節目はまだ数年あるが、年々仕事が増えていく。
 いや、俺がギルマスになってから明らかに量が増え過ぎてる気がした。
 評議会のじじいどもが、俺が仕事出来るからって何でもかんでもホイホイ振ってくるせいもある。親父のヨゼフが元王室教師だったからって、何でもかんでも任せ過ぎだ!

「……けど、あれは焦ったな」

 隠密(アサシン)のエリオから報告があった、捕まえたはずの冒険者達がスバル達に襲いかかった件。
 幸い、スバルはジェフが所持してた【破魔の聖槍】の条件発動により結界の中にいたから無事。他の逃げ出した馬鹿共もエリーとジェフが伸したお陰で大事にはならなかった。
 まさか、運搬には割り込めなかったエリオ達含め、姿を偽った衛兵達が出るとは思わなかったが。

「無事なのは良かったが……ジェフのあの槍が『聖槍』とはなぁ?」

 柄が綺麗な紫を除けば、一見どこにでもありそうな槍。【破魔の聖槍】の実録書は様々だが、形状が確かではないため本物達に共通点がないとされている。
 ある物は豪奢、ある物はジェフが持つようなシンプルだったりと。レア中のレアな武器の一つゆえに、職業(ジョブ)転職(チェンジ)を考える冒険者の記録はしばしば残されてた。

(昨日は聞けなかったが、格闘家(グラップラー)から転職(チェンジ)するまでの理由には十分だ)

 なにせ、レアの理由の一つには『槍に認められた存在の証』とある。
 つまりは、なんらかの意思を宿してる生きた槍だからだ。

「パーティー勧誘がやたら多かったのも、気づいてた奴らがいたからかもしれねぇ……」

 聞けば答えてくれるだろうが、祭りが終わって少し経てば奴が今いるパーティーメンバーの昇格試験がある。
 ルゥに聞いたが、連携とかを重視した合同試験なためにジェフ達も参加しなきゃならねぇ。もう封筒の中身は見ただろうが、そのメインの嬢ちゃんが風邪が治ったばかりなので訓練は休養。
 快気祝いも兼ねて、祭りだけはゆっくり過ごしたいそうだ。
 それと、怪我が完治してない盗賊(シーフ)が一悶着を起こしかけて、やむなくスバルが性別を明かした。

(バラし方が、俺に最初やった時と同じ方法がなぁ)

 その盗賊(シーフ)、エリオからの報告じゃスバルを女と思い込んだまま、初対面じゃかなりアピールしまくっていたとか。
 それを、本人が男だと断言してきただけにショックは大きいだろう。
 憐れだとは思うが、混乱してる時に割り込んできた弓使い(アーチャー)にも実はバレてたのにも驚いた。が、本人は吹聴するつもりはないらしく、宿舎に盗賊(シーフ)を連れて戻っても、あとを追ったネクターの報告じゃ残りのメンバーにも言いふらしてないらしい。
 盗賊(シーフ)の方は、怪我の回復に専念するようだが落胆が激しすぎて寝込んだそうだ。
 俺が出来ることと言えば、試験後に話を聞いてやれるくらいだろう。

「っし、ひとまず目処はついたがコーヒー淹れるか?」

 少しずつだが、目に負担がかかってきてた。
 追い詰め過ぎて会場に行ったら、観に来るうちの双子達に示しがつかん。
 あの二人もでかくはなったが、まだまだカッコいい父親として見られたい気持ちがある。





 コココン、コン!





 コーヒーを淹れ終えた途端、リズミカルなノックが聞こえてきた。
 こんな独特のノックはあいつしかいない。
 今入ってきても問題はないので、入室の許可を出した。

「しっつれいしまっス!」

 濃いピンクのニット帽を被った青い猫っ毛の少女。
 腕にはスバルのパン屋の袋を大事そうに抱えながら、舎弟のような口調ながらも上機嫌で入ってきた。

「どうしたキャロナ。今日は休みにしてたんだろ?」

 スバルのパン屋に行くのは別に咎めないが、何か用でもあったか?

「差し入れっス! スバルさん達が露店で出してくれた新作っスよ!」
「明日からじゃなかったか?」
「自分のために作ってくれたんっス!」

 甘い物好きのキャロナになら納得がいく。
 揚げ物だが、今のスバルなら補正の操作が出来やすいので許可は出した。
 包みの一つを受け取れば、キャロナが特に好きなチョコがたっぷりついた棒状の揚げ物。
 鑑定眼を通してみれば、補正はスバルに指示した疲労回復がきちんと施され、食品名には『揚げドーナツ』とあった。

「これがドーナツ?」
「揚げたても美味かったっスけど、冷めてもいけるっスよ!」
「ほぉ?」

 ちょうどコーヒーも入ったし、少し甘い物を食べたかたので嬉しい差し入れだ。
 キャロナの分もマグに入れてやり、応接スペースで食べることにした。

「ロイズさんのコーヒー美味いっス!」
「そりゃなぁ? で、お前もチョコのやつ食いたいんだろ?」
「バレましたか?」

 よだれ垂れまくりでバレない方が不思議だ。
 この差し入れは、ミント以外にもギルド職員分にも買って来てくれたらしいからそこそこ残ってはいた。俺だけで食べきれんから、一つくらいはいい。
 袋からためらわずにチョコのを出すと、いきなり彼女の後ろから伸びてきた白い手にそれを持っていかれた。

「あ⁉︎」
「いーい匂いだったものぉ」
「ルゥ⁉︎」

 突風も出さずに入って来るなんて珍し過ぎた。
 だが、当人はキャロナから奪ったドーナツを美味そうに食ってるだけ。

「んん〜っ! チョコの下はしっとりだけど、かかってないとこはカリカリで香ばしいわぁ!」
「それ自分のっス!」
「まだあるからいいじゃなぁい」
「一応ロイズさんのっス!」

 言い合いになると止まらないので、まだ袋にも残ってたチョコの方をキャロナの口に突っ込ませた。

「とりあえず食え。で、ルゥはどーした? いつもにしちゃ大人しくないか?」

 俺の質問には、ドーナツを全部食べ終えてから答えてくれた。

「さっきねぇ? 『金の蝶』がこっちに飛んでたから追いかけてきたのよぉ」
「金……だと?」

 まさか、と窓の外を見れば、執務机の後ろにあるやつに金色の光がふよふよ浮いていやがった!

「マジかよ⁉︎」

 ドーナツを机に置いてから窓を開ければ、ルゥが言っていた『金の蝶』はゆっくりと中に入ってきて俺の前で止まった。

【緊急通知、緊急通知。宛先明かさず、されどこの色に見覚えがあるだろうロイズ=マッグワイヤーよ。受け取るか否か】
『勿論、お受けします』

 手を伸ばせば、蝶はこちらの人差し指に止まり光を弱めた。
 俺が決められた言葉を紡げば、蝶の形が崩れて一枚の便箋に変わっていく。
 慌てて中身を確認したが、短いそれに思わず破り捨てたくなった!

「あ、あんの野郎⁉︎」

 このクソ忙しい時に、なんて事してくれやがるんだ!
 俺が声を上げれば、ルゥとキャロナも後ろから覗き込んできた。

「あらぁ、やーっぱりあの方(・・・)なのねぇ?」
「……この文面じゃ、ロイズさん怒って当然っス」

 二人も呆れる内容はこうだ!





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 ロイズへ


 仕事が意外と早く終わっちゃったから、遊びに行くぞ!
 君のとこや先生の御宅も捨てがたいが、まずは噂の少女が営むパン屋に!


 自分だけ美味しいものを食べるなんてずるいからね☆



 ラティストより




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 わざとらしく☆とか付けてる辺り、本気が伺える。
 いつ着くとは書かれてはいないが、もうアシュレインに到着しててもおかしくはない!

「どーするぅ? 今あなたは手が離せないでしょう?」

 質問してくる辺り、ルゥが来た本当の目的がわかってきた。

「……悪い、代わりに頼めるか?」
「ええ、いいわよん。……あ、こっちのきな粉ってのも美味しいわぁ」

 どさくさに紛れて、なんで別のドーナツまで食べてるかはこの際無視。
 俺も、一度気力を回復させるのに置いたままのドーナツを口にしたが、補正通り失われた体力が少しずつ戻ってきた。

「こりゃ、飛ぶように売れるだろうなぁ?」
「差し入れ分作ってもらってたら、お客さん勘違いしちゃって並んじゃったんスよ。そしたらもう〜で、あとはご想像通りっス」
「今行ったら、売ってるかしらぁ?」
「ルゥ、そうじゃねぇだろ?」
「んもぅ、わかってるわよん」

 だけど、残ったチョコをもう一つ食べてからルゥはスバルの店に向かってくれた。
 契約精霊を使って走ってくのを窓の外から見て、俺とキャロナはため息を吐くしかなかった。

「間に合うか、時既にっスかねー?」
「どっちにしろ会うだろうが」

 カミールやヴィーとは違った意味での幼馴染みであり、この国の『重要人物』との対面は報せのせいで絶対になったからだ。

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