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うそつきピエロ②




優はコウの家まで付いていった。 この行動には、何も違和感なんて感じられない。 その理由は、彼の家には3日に1度くらいのペースで泊まっていたから。
そして、当たり前のように優はコウの家の中へと入っていく。
「飯、作ろうか?」
「あ・・・。 うん」
何だかんだ言いながら、もう外を見ると既に真っ暗で、時刻は19時になろうとしていた。 優も尾行で動き回っていたせいで、お腹は空いている。
「・・・悪い、チャーハンでいい? 今日は優が来るとは思っていなかったから、適当に夜は済ませちゃおうと思っていて食材をあまり買っていないんだ」
「うん、大丈夫だよ。 俺、コウの作る料理は全部好きだから」
「分かった。 ありがとな」
そう言って、彼は晩御飯を作り始めた。 優はしばらく一人で考え込んでいたが、一人になるのも何か嫌で、チャーハンを作っているコウの隣に邪魔にならない程度に立つ。
「ん? どした?」
突然やって来た優に、優しい口調でそう尋ねてきた。
「その・・・。 コウ? もし悩みがあったら、俺にいつでも言ってきていいからね?」
単刀直入に聞くのが怖かったため、遠回しに言ってみる。 そして、コウのこともまともに見られなかった。
「え? 何だよ突然。 ・・・まぁ、分かったよ。 ありがとな、優」
「今は、悩んでいることとかないの?」
「今? 今は・・・。 まぁ、ないかな」

―――コウ、それは嘘でしょ? 
―――ねぇ、嘘って言ってよ。

「本当にないの?」
「あぁ、本当だ。 ほら優、もう出来上がるよ。 お皿持ってきて?」
「・・・うん」
無理矢理話を切られ、言われた通り二つのお皿をコウのもとへ持っていく。 そして彼が盛り付けている間、優は飲み物とスプーンの用意をした。 
この作業はいつもと同じなため、スムーズにこなしていく。

「いただきます!」
一度気持ちを切り替え、コウの手作りチャーハンを食べることにした。
「・・・ん! めっちゃ美味い!」
「ははっ。 そりゃよかった」
彼の作る料理はどれもとても美味しかった。 “不味い”と思ったことは一度もなく、残さずにいつも完食している。

二人は晩御飯を食べ終え、テレビを見ながらたくさんの話をした。 コウと笑い合える瞬間が、優にとってとても幸せな時間だったのだ。 

数時間後テレビを見終え、時計を見る。 針は22時を指そうとしていた。
「コウ、風呂入っておいでよ」
「ん、分かった」
彼が風呂場へ行くのを確認し、食べ終えた二人分のお皿をキッチンへと運ぶ。 その流れでいつも通り、その食器を洗い始めた。
コウがご飯を作り、食べ終えた食器は優が洗う。 そして優の着た物も『洗濯をしていい』と言ってくれたため、洗濯物を干すことは交互でやることに決めていた。
これらが、二人の日常になっている。 もちろん不満なんてなく、寧ろ満足していた。 この――――自分とコウの、生活に。
『光熱費や家賃も払いたい』と言ったが、コウは『大丈夫』と言い張るため、結果光熱費と家賃の2割は優が出すことになった。 これに対しても、不満はない。
食器を洗い終え、そのままコウの机へ向かう。 そしてみんなから貰ったリュックから、コウから貰った筆記用具と今日出された課題を取り出した。
彼が風呂から上がってくるまで、課題をする。 これもいつも通りにやることだった。 その逆に優が風呂に入っている間、コウが課題をする。

そして――――課題を始めてから、10分が経過した。
「優ー」
突然コウが、風呂場から優の名を呼ぶ。
「何ー?」
「悪い、絆創膏持って来てくれるー?」

―――絆創膏・・・? 

その発言を不審に思いつつも、言われた通り彼のもとへ絆創膏を持っていった。 
「持ってきたよ?」
「あぁ、悪い」
そう言って、コウは風呂場のドアから手だけを出してくる。 長袖がそこから少し見えるため、きっと服は着ているのだろう。
だがどうして彼は、風呂場から出てこないのだろうか。
「・・・はい」
コウの手に、持ってきた絆創膏を乗せる。
「ん、ありがと」
優は彼が風呂場から出てくるのをこの場で待った。 

そして、待つこと数分。 
―ガチャ。
コウが風呂場から出てきた。 そして――――優はすぐに、彼の異変に気付く。
「あ・・・」

コウの顔には――――いくつかの絆創膏が貼られていたのだ。

―――どうして? 
―――どうして、そんなに怪我をしているの? 
―――だって、今朝はそんな怪我・・・。

「・・・メイクだよ」

「え?」

彼が何を言ったのか分からず、思わず聞き返す。 いや、何を言ったのかは正直に言うと聞こえていた。 
優が疑問に思っていたことをコウは簡単に読み取り、そう口にしたことに対して驚いただけなのだ。
「メイク。 ・・・その、顔の傷とかを、メイクで誤魔化していたんだ」

―――でも、それって・・・。 
―――やっぱり、昨日の出来事は嘘じゃなかったんだ。

そしてコウは、いつもの口癖を当たり前のように口にする。
「優。 俺は大丈夫だから、気にすんな。 優も風呂、入ってこいよ」

言われた通り、優は風呂に入って身体を洗い湯船に浸かった。 
「はぁ・・・」
優は昨日から今日までの出来事を思い出していた。 その結果、辿り着いた答えが出る。 

とりあえず今はコウの様子を見ていよう。 もしかしたら、あんな暴力を振るわれたのは昨日だけかもしれない。 だったら、今彼に対して無理に聞こうとしても意味がない。 
もしまた殴られたりするようなことがあったら、再び何があったのかを聞き出せばいい。
たった昨日起きた出来事だけで、やられているなんて決め付けては駄目だ。 彼自身は『何もない』と思っているのに、自分がこんなにしつこく聞くようでは駄目。
今は一度、昨日のことは忘れよう。 彼にこれ以上、気持ちに負担をかけたくない。 もしまたやられたら、苦しくなって自分を頼ってくるかもしれない。

―――・・・きっとそうだ。 
―――だから今は、コウのことを信じよう。 

そう思い込み、優は風呂を出て今日はこのまま寝ることにした。


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