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第二百八十九話

 砂の膜を切り裂く。
 太陽光線の眩しい空に飛び出して、俺は未だ爆煙のたちこめる下を睨みつけた。

 魔力の衝突が始まった。

 即座に爆煙が渦を巻いて弾き出され、まともにかち合うオルカナと敵の姿が確認できた。

 オルカナは目まぐるしく動きながら打撃戦を挑んでいる。敵は四本の腕を駆使するが、オルカナの方が技術で勝る。あっさりといなしながら打撃を入れていた。それだけでなく、黒い腕や魔法を使って確実に敵へ一撃を叩き込んでいく。
 夜の王たる力を完全開放して挑んでいるな。けど、それだけじゃあ届かない。
 もはや敵はそれだけのステータスを持っていると思って良い。

 オルカナは順調に戦場を移動させていく。だが、徐々に敵も順応し、その速度が鈍っていった。

「ホント、進化する敵ってのは厄介だな……」

 この手の敵はさっさと駆逐しないと。
 魔力を昂らせていると、クータがやってきた。

「ガルオォ」
「クータ、悪いな」

 懐いてくる巨体のクータの鼻あたりを撫でてやってから、俺はスキンシップを取る。

「《バフ・オール》」

 それからクータに強化魔法をかけた。
 見る間にクータの魔力が跳ね上がっていく。

「クータ、あの下の敵に、思いっきりブレスを撃ってくれ。出来るだけ一点集中、アイツだけに全ての破壊力を注ぐような感じで。出来るか?」

 もちろんと答えるように頷く。
 俺は微笑んでからぽんぽんと鼻のあたりを二、三回軽く叩いてから離れる。

 チャンスはたった一回きり。

 もし失敗したら、そこで終わり。恐らく、敵は魔神になる。
 静かに押し寄せてくる緊張にため息をつき、俺は魔力を更に高めた。

「ミッション――……スタートッ!」

 叫ぶと同時に俺はポチを介してテレパシーを送る。
 察知したオルカナが全力でバックステップした。それだけでなく、翼を広げて最高速で逃げる。

『ガァァアアアアアッ!』

 クータが口いっぱいに溜め込んだエネルギーを解放したのは直後だ。
 爆裂の閃光。
 敵が使ったのとは比べ物にならない威力の籠められたレーザーが、敵を脳天から襲い掛かる!

 ――ぎゅどんっ!!

 衝撃。そして、音。
 凄まじい熱が瞬時にして解放され、周囲が溶鉱炉のように溶けて真っ赤に染まり、熱の衝撃波を撒き散らす。一切の容赦がない攻撃だが、地獄のような中で敵はただ立っていた。

 あの攻撃で生き残るのは計算の内。

 俺は息を吸いながら魔力を解放する。

「――《バフ・オール》! 《アジリティ・ブースト》っ!」

 自分を最大限にまで強化してから、俺はクータの鱗を貰って作った剣を構える。剣は二本だ。
 合わせて相手の進化が始まった。
 相手が一番脆弱になり、且つ、核コアを狙いやすくなる瞬間!

「全身を攻撃すれば、全身を進化せざるを得ない。だったら! そこを突く!」
『今だ!』
「――《真・神撃》っ!」

 景色が、飛ぶ。
 瞬間移動でもしたかのような加速。
 次に目が景色を捉えたのは、もう地面だった。

『――ガッ!?』

 剣閃。
 一撃は過たず核コアを切り裂いていた。
 ドロドロになった体躯から漏れる(コア)は真っ二つにされ、ズレ始めていた。だが、その光は未だに力強い。だが、妨害の特性は発動出来なくさせられたようだ。

「ああああっ! 《真・神撃》っ!」

 俺は振り返りながら剣を振るい、また一撃を放つ。
 剣閃が真横に走り、核コアを横に分断する。
 二重のダメージに核コアは悲鳴を上げ、分離を始める。けど、まだだ!

 敵の進化は止まってない!

 これだけの威力を叩き込んでまだ核コアが機能するか! 予想していたことだけど、目の当たりにするとやっぱイヤになるな。
 ボロボロに砕け散っていく剣を投げ捨て、俺は一気に拳を握りしめて懐へ飛び込む。

「《真・神破》ァァアァッ!」

 光を放つ拳を叩きつけ、核コアに破壊力を伝える。
 バキン、と無数の亀裂が走る。まだ、まだか!
 目眩がやってきて、ガクン、と膝が折れる。まず、力を使いすぎた! 無理やり押し殺した《神威》に息つく暇もなく《神撃》の連続使用、そして《神破》。体力が充実してたら別だけど、俺の身体にはダメージがかなり蓄積されてる。しかも体に強い負荷のかかる《アジリティ・ブースト》を使った状態で、だ。
 そりゃこうなるか。

『主っ!』

 ポチの悲鳴のような声。
 だが、俺は止まらない。
 ここで倒れたら、全部が無駄になる。それだけは許してはいけない!

「お前が消えないと、メイが楽になれない、メイを助けてやれないっ!」

 俺は根性で魔力を振り絞る。全身が痛むが、血が漏れ出るが構うものか。

「もう消えろォォォォ――――っ!」

 腕を伸ばし、崩れ始めても尚機能を働かそうとする(コア)を俺は掴む。

「《百剣白樹(ヴァイス・トロイメライ)》ッッ!」

 剣が咲き、無数の剣花が乱れる。
 澄んだ音を立てて、核コアが砕けた。

 キラキラと破片が散る。

 呼応するように、ドロドロになった敵の身体が崩れていく。
 終わった。

 これで……終わった。

 安堵がやってきて、全身の力が抜ける。全身を貫通して暴れていた痛みが、消えている。
 あれ、これってもしかして――ヤバい?
 思う合間に、意識が――――……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ――メイ――

 ばた。
 アリアスさんとセリナさんの応急処置が終わったタイミングで、ご主人さまの倒れる音がしました。
 何回か聞いたことのある音。そのたびに、心臓が掴まれたような感覚に襲われる音。私の、嫌いな音。

「ご主人さまっ!」

 慌てて駆け寄ると、ご主人さまはヒドい状態にありました。
 全身を酷く摩耗させたせいでしょう、見た目からしてかなりのダメージです。口からも血が出ていて、内臓にも何らしかの影響が出ている可能性が高い。
 それだけじゃあないですね。これは、魔力枯渇も起こし始めてます。一撃一撃に全力を、全ての魔力を使い切る勢いを籠めていたのでしょう。

「《ハイヒール》っ!」

 私は全ての魔力を籠めてご主人さまに治癒魔法をかけます。
 あの時のような、ベリアルと戦った時のような思いはもうっ……!

「……うっ」

 傷を丁寧に塞ぎながら魔力を注いでいると、ご主人さまの顔に生気が宿ります。
 思わず安堵がやってきますが、油断はできません。
 私は魔法袋からあらゆる応急処置キットを取り出し、ご主人さまに当てていきます。あれから学園で、こういった医療技術もしっかりと学びました。だって、ご主人さまは回復魔法を使えないから。

 だから、私が、メイが、その代わりを果たすのです。

 処置が終われば、また回復魔法。
 私程度の魔力なんて、ご主人さまからすれば微々たるものだと分かっていますが、それでも注ぎます。生命維持に必要な魔力さえ確保できればっ……!

「ご主人さま、ご主人さまっ……!」
「メイちゃん、私も治療に参加しますねぇ。《エクスト・ヒール》」

 やってきたのはセリナさんです。私よりも遥かに上位の回復魔法を発動させ、ご主人さまを癒してくれます。

「まったく、コイツっていつもいつも、自分が一番傷つくのよね」

 毒づきながらも魔法袋から治療薬を取り出したのはアリアスさんです。
 お二人とも、目を覚まされたのですね。でも応急処置しか出来ていないので、まだ全身痛いはずなのに。
 でも有難いです。
 私は回復魔法を止め、魔力を注ぎ込むことに専念します。
 他人の魔力は非常に吸収効率が悪くて、ほとんどが外に流れ出てしまうのは知っています。でも、それでも少しでもっ……!

「おねえちゃん、ルナリー、魔力、使う」
「ルナリー……ありがとう」

 ルナリーちゃんが座りこみ、隣で魔力を注いでくれます。
 これで、なんとかなるかも!

「う、ぐはっ……!」

 苦しそうにご主人さまがむせ返ります。たぶんどこかに血が詰まっていたのでしょう。
 一頻り咳き込んで、ようやくご主人さまは薄っすらと目を開けました。
 意識を取り戻しました!

「ご主人さまっ!」

 感極まって、私はご主人さまの胸に抱き着きます。

「うげっ! って、メイ……!」

 ご主人さまは私に手を回しながら、ゆっくりと上半身を起こします。
 まだダメージは残っている感じですが、もう大丈夫そうですね。良かった、本当に良かった……!

「ふぅ、無事で良かったですねぇ」
「ホント、ハラハラさせてくれたわ」
「おにいちゃん、ちょっと、あぶなかった」

 皆さん、一様に安心している様子です。クマのぬいぐるみになったオルカナさんもやってきました。

『うむ。無事に撃破できたようだな』
「オルカナ、ごくろうさま」

 てとてとと歩いてきたオルカナの頭を撫でてから、ルナリーちゃんは優しく抱き上げてあげます。オルカナさん、すっごい嬉しそうですね。

「とりあえずこっちは何とかなったけど、向こうは大丈夫なのかしらね」
「ああ、焔ほむらさんが向かった方ですねぇ」
『仮にもでも何でもなく、彼は紛れもない神獣だ、負ける理由などない』

 オルカナさんの言葉に、私も頷きます。

「とにかく今はご主人さまを治療しないと……あ、いえ、皆さんもですね」

 慌てて言い直すと、皆さん、微笑んでくださいました。

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