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短編ホラー

 私は引越しのとき、古くなった外国製の人形「ハリー」を捨てた。
 その夜、私の携帯電話に電話がかかってくる。

「あたしハリーさん。今ゴミ捨て場にいるの……」

 私は、怖くなって直ぐに電話を切った。
 でも、すぐに電話がかかってきた。

「あたし、ハリーさん。
 今、貴女の住んでいる駅にいるの」

 私は、再び電話を切った。
 私の体に鳥肌が立つ。

「あたしハリーさん。
 今タバコ屋さんの角にいるの……」

 そして、とうとう聞きたくない言葉が聞こえる。

「あたしハリーさん。
 今あなたの家の前にいるの」

 私は思い切って玄関のドアを開けたが、誰もいない。
 やはり誰かのいたずらかと思った直後、またもや電話が……

「ひっく。あたしハリーさん。
 ひっく。ねぇ、あなたはどこにいるの?」

 ハリーが、涙声で私にそう言った。
 ちょっとかわいいと思ったけれど……
 これ以上関わりたくないので私は、すぐにスマホの電源を斬った。
 ハリーは、昔の私の家に向かったのだろうか?
 私にはわからない。
 私は、その場でハリーの電話を着信拒否。

 そして、テレビを付けた。
 ニュースがやっていた。

 ニュースで一家惨殺事件の報道があった。
 その場所は、私が前にいた家だった。
 ボカシはかかっている。
 だけどわかる。

 これ前の家だ。

 そして再び携帯が鳴る。

「私、ハリーさん。
 昨日、貴方の家族を殺しちゃった」


 私は怖くなり電話を切った。
 私は気づいてしまったのだ。
 この電話の主はハリーではない。
 ハリーならわかるはずだ……
 それが私の家族ではないことが……
 すぐにハリーから電話がかかってくる。

「私。ハリーさん今貴方はどこにいるの?」

 私は思い切っていってみた。

「私。今ね彼氏と同棲しているの!」

 そう私は言ってしまった。
 今度は、ハリーの方から電話を切られた。

 翌日。
 テレビのニュースで報道される。
 そこには、彼氏の写真が映っている。
 どうやら彼氏は死んだらしい。
 胸を一突き。
 恐らく苦しんでいない。
 電話が鳴る。

「私。ハリーさん今貴方はどこにいるの?」

 私は、確信してしまった。
 私は、手に入れてしまった。
 最強の武器を……

「今、恭子の家にいるの」

 そして、電話を切った。
 これで嫌いな人の名前を言えば……
 その人はハリーが殺してくれる。
 ハリーは、私のお友だち。
 だから殺してくれるんだ。

 私の彼氏を奪った恭子も殺してくれる。
 次は、セクハラをしてくる上司。
 最後に私をレイプして子どもを産めなくした憎き男たち。
 そいつらみんな殺してやるんだ。

 私は、その日をワクワクしながら眠ることにした。

 次の日。
 テレビのニュースを見ると恭子の死が報道されていた。
 私は笑った。
 笑い声が止まらない。
 携帯が鳴る。

「私。ハリーさん」

「あのね今!」

 私は笑いを抑えながら上司の名前を言おうとした。

「私今貴方の後ろにいるの」

 その声は、電話からじゃない。
 後ろからだった。

 こういうとき後ろを向いたらいけない。
 でも、本能と好奇心が私の身体を動かす。
 後ろを向いてしまった。
 するとそこには見知らぬ男が立っていた。

「お前。俺を使って遊んでくれたよな?」

 見知らぬ男は、ナイフを持っている。
 そして私の身体を押し倒す。
 嫌だ。もうレイプされたくない。

 私は叫ぼうと思った。
 レイプされるくらいなら死んだほうがマシ。
 そう思い声を上げた。

 すると再び私の携帯が鳴る。

「あたし、ハリーさん」

 電話に出ていないのに声が聞える。

「え?」

 私の頭がまっしろになる。
 なぜなら、ぼろぼろのドレスを着た可愛らしい女の子がその男を投げ飛ばしていたからだ。

「今、貴方の目の前にいるよ」

 可愛らしい声。

「ハリー?」

 私の目には涙が溢れる。

「うん、あたし。ハリーだよ!」

「ごめんね。ハリー。私、私、私……」

「私の方こそゴメンね。
 もっと早くに助けれなくて」

 ハリーがそういって私の身体を優しく抱きしめてくれた。






 その後、すぐに警察が来て男を逮捕してくれた。
 男はどうやら私をストーキングしていたらしく。
 私の情報はなんでも仕入れていたらしい。
 私の前の家からも彼氏の家からも指紋が出た。
 恭子の身体からはDNAも検出されたという話を警察の人から聞いた。

 ハリーは、あれ以来女の子にはならない。
 あの女の子がハリーだったかどうかはわからない。
 でも、思った。
 ハリーは私の友だちなんだ。

 子どもが産めない身体だけど。
 ハリーを子どものように大切にしよう。
 そう思った。


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