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童話

 ぼくはねこ。
 ただのねこではない!
 ばけねこだ。
 ばけなうえに「ノラ」なのだ!

 ぼくが、「にゃん」と泣けば、にんげんたちは「ゴハン」をくれる。

 これ以上にしあわせなことはない。

 だけど、いま。
 ぼくは、おおきなもんだいにぶちあたってしまったのだ……




 ネコのミケは、にゃーにゃー鳴いていました。

 人間の太郎くんは、わんわん泣いて居ました。

 ミケは、太郎くんに言いました。

「どうして泣いているんだい?」

 だけど、産まれたばかりの太郎くんにはミケの言葉がわかりません。

 ミケは、困ってしまって、にゃんにゃん鳴きました。

 ミケは、二百年以上生きているものの、人間の子供はおろか、自分の子供を作ったことさえありません。

 ミケは、お腹が空いたのかと思い、人間の女性に化けました。

 すると、太郎くんは嬉しそうに笑い、きゃっきゃきゃっきゃと喜びました。

 女性に変身しても、ミルクはでません。
 なので、化けネコ仲間でメスネコのユキにお願いしました。

「ねぇ、ミルクをくれないかい?」

「あら、どうして?」

 ユキは、クスクス笑いながらそう聞き返しました。
 ミケは、事情を話しました。

 すると、ユキは「仕方ないわねぇ」と、呟くとミケの後をつけて行きました。

 太郎は、また泣いてしまいました。

「お腹が空いているんだと思うんだ……」

 と、ミケが言うとユキはニッコリ笑いグラマーな女性に化けました。

「これなら、文句はないでしょう……?」

 と、ユキは自分のミルクを与えました。
 最初はくすぐったかったのですが、慣れて来ると、少しまた少しとミルクは出ていきました。
 太郎が、ミルクを大量に飲み満足して、眠ってしまったとき。

 ユキは、何故だかとても優しい気持ちになりました。

 ユキが、女性になっている間。
 ミケは、男性の姿になっていました。

 ふたりは、その太郎くんの寝顔を見て、『育てたい』と思うようになりました。

 そして、ふたりは自分たちの隠れ家で太郎くんを育てる事にしました。
 家に着くと、太郎くんは途端に泣き出してしまいました。
 突然泣くので、ミケもユキもびっくりです。

 太郎くんの体を触ったり、もう一度ミルクをあげても泣き止みません。

 するとミケは、太郎くんのオムツが濡れている事に気がつきました。

 ユキがミケに言いました。

「ここは、私が見ておくから、ミケはオシメの変わりになるものを持って来て……」

 ミケは、コクリとうなずくと家を出て、オシメを探しました。

 どこを探しても……
 どこを見てもありませんでした。

「あ~
  こうしている間に、あの子は泣いてしまっているのに」

 そう、焦る気持ちでいっぱいでした。
 ミケは、葉っぱをお金に変えて、オシメを買おうか迷いました。
 しかし、それは、化けネコ会でも禁止されています。

 ミケは、悩みました。
 そして、思い付いたのです。

「葉っぱをお金にすることが無理なのなら。
 葉っぱをオシメに変えればいいんだ!」

 ミケは、大きめの葉っぱを何枚か取ると、急いで家に戻りました。
 家の中では、オシメを外すのに、ユキが悪戦苦闘していました。
 そして、ミケがはっぱを布のオシメに変えたとき、ユキはやっとオシメを外す事に成功しました。

 ミケは、ユキにオシメを渡すとこう言いながら、オシメを器用に着け始めました。

「布のオシメなら楽勝よ!」

 と、ミケにブイサインを送りました。

 ミケは、「ご飯を持って来る」とユキに言うと、すぐに家を出ていきました。
 ブイサインを送るユキの姿を見て少し可愛いと思いました。

 そして、暫くして自分とユキと太郎のミルクを集めて戻ってきました。

「おかえりなさい」

 ユキが、笑顔で迎えてくれて、太郎くんが笑顔でミケの首筋をなでる。

 太郎の前では、にひきとも太郎くんが怖がらないように人の形をしていました。
 にひきは、しあわせでした。
 ユキは、どんなに太郎が力強くミルクを吸っても痛いはずなのに何故か、赤ちゃんの成長が嬉しくて嬉しくて、たまりませんでした。
 ミケも、どんなにボロボロになっても、太郎とユキが家で待っていると思うと、ネコにはつらい人間の仕事でさえ、進んでやるようになりました。

「ただいま」

「おかえり」

「いただきます」

「ごちそうさま」

「おやすみなさい」

 そして、真夜中の夜泣き。
 全てが新鮮で、全てが斬新で、全てが楽しかったのです。

 大変なことなはずなのに……
 とても、とても……
 しあわせでした。

 しかし、ある日。
 ミケたちの隠れ家に、人間の警察がやってきました。

 ミケたちは、慌ててネコへと姿を変えました。
 でも、太郎くんが泣き出しました。
 太郎くんは、ネコのままのユキの背中を撫でながらこう言いました。

「まーまーまんま」

 だけど、ユキはミルクをあげる事ができませんでした。

 ばれたら殺される。

 自分が殺されたら、この子のミルクをあげる人がいなくなる。

 ユキは、流れるミルクを堪えながら、警察が外に出るのを待ちました。

 しかし、警察は外に出るどころか。
 とうとう、太郎くんを見つけてしまいました。

 太郎くんが警官に、抱かれるときそれを拒むかのように、ミケの尻尾を撫でました。

「ぱーぱーだっこー」

 何度も何度も太郎くんは繰り返しました。

 太郎くんが家を出るまで、ずっとずっとミケたちの耳に残りました。

 ミケは、小さく呟きました。

 ぼくはねこ
 ただのねこじゃない
 ばけねこだ。
 ただのばけねこじゃない
 のらねこさ。
 でも、ねこでしかない。
 ぼくはねこ。
 ひとにはなれない。

 ミケは、太郎くんが最後に尻尾に触ったときに感じた温もりがしばらく消えませんでした。

 ユキは、ミケに言いました。

「私たちも子供欲しいね」

ミケは、コクリとうなずきました。


 それから、3年後。


 ある古い屋敷に、ネコが4匹住んでいて、中に人が居るはずなのに覗くとねこしかいない不思議な家がある。


 そんな噂が、小さな小さな町で、こっそりあるそうです。


  おしまい

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