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執事コンテストと亀裂⑤⑤




結人はあの後梨咲と別れ、藍梨、伊達と一緒に教室へ向かった。 どうして梨咲と別れたのかというと、彼女の教室は結人たちとは正反対で別の階段の方が近かったからだ。 
特に理由はないが、この流れで伊達をこの後『藍梨と一緒に帰ろう』と誘ってみた。
「俺はいいから二人で帰れよ」
「そんなこと言うなよ。 またあの時の公園へ、一緒に行こうぜ?」
「どうして俺を誘うんだ」
「昨日言ったろ。 俺は、伊達とダチになりたいって」
「・・・」
何とか粘った結果、伊達は一緒に帰ってくれることになった。 

そのOKした理由はいくつかある。 
結人と友達になってくれるからというわけではなく、伊達と仲がいい男子二人は、家の方向が反対で彼はいつも一人で帰っていたということ。
伊達は話を聞いている限りお金持ちっぽく、家は学校から少し離れたところにあるということ。 そして、彼の家は結黄賊の基地である正彩公園の近くにあるということ。
これらのことから、結人と一緒に帰るのはついでだと思ったのかOKしてくれた。 今はそれでいい。 いつかは、彼と友達になることができるのなら。

5組の教室まで来て、一度伊達とは別れた。 この教室には数人の生徒が残っていて、夕焼けの光が窓から差し込み温かく照らしている中、みんなで楽しくお喋りをしている。
「あ、色折くんまたね! 藍梨ちゃんもまた明日ー!」
「おう。 またな」
クラスの子と帰りの挨拶を軽く交わし、自分のバッグを持ち藍梨を連れて教室から出た。 今日からずっと、藍梨と一緒に帰ることになっている。 
これを結人の日常にしていかなくてはならない。 

伊達を呼びに4組まで行くと、そこには彼が未来と悠斗に絡まれている光景が目に入った。
「あれ、未来たちまだ残っていたのか」
伊達を彼らから助けるために、結人はさり気なく助け舟を出す。
「お、ユイじゃん! 今日は公園に集まる人が少ないっていうから、行かなくてもいいかなーって思ってさ。 ユイが今から行くなら、俺たちも行くぜ?」
「丁度いいな。 今から藍梨と伊達と一緒に公園へ行こうとしていたんだよ。 折角だから、二人も一緒に行こうぜ」
二人を誘い、その結果5人で公園へ向かうことになった。 この関係、この距離が今の自分にとっては凄く心地のいいもの。 みんなと楽しく帰る、この帰り道が。


「藍梨さんと今付き合っているって本当かよ!?」

公園までの帰り道、結人の両隣には未来と伊達がいる。 そして2、3メートル先には悠斗と藍梨がいた。
未来に『藍梨と今日から付き合うことになった』と言うと、こういう反応をしてきたのだ。
「あぁ、本当だよ」
「いや・・・。 急にそんなことを言われても、信じられねぇよ。 そんなわけないよな? だって、昨日けじめをつけたばかりだろ!?」
事実を言っているが未来はなかなか信じてくれず、先刻からずっと永遠に独り言を呟き続けている。 そんな彼をよそに、右隣にいる伊達に話を振った。
「なぁ伊達。 これからも、俺らと一緒に帰ってくれるか?」
「え?」
「え、何? 一緒に帰る? ・・・あ、そうだよ伊達! 伊達もこれから一緒に帰ろうぜ!」
未来はすぐに頭を切り替えたのか、結人たちの話に割って入ってきた。
「んー、でも」
「大丈夫。 毎日強制ってわけじゃないし、今日は無理なら無理って言ってくれればいい」
困っている伊達を未来が優しくフォローを入れる。 そして結人も決定付けるよう、未来に続けて言葉を発した。
「俺たちと一緒に帰るのは、家に帰るついででいいから」
そう言うと伊達は小さく笑いながら『仕方ねぇな』と言って了承してくれた。 何だかんだ言って、伊達はいい人だ。 
未来も、人を好き嫌いハッキリするタイプではないところが救いだった。 すると未来は突然、こんな話題を伊達に振る。

「伊達。 伊達はまだ、藍梨さんのことが好き?」

「「え?」」

その途端、結人と伊達の反応が被る。 
―――今の状況でそんなことを聞くかよ、普通。 
その答えを聞いてみたいとは思うが、聞きたくないというのも事実だ。 だがここは何も突っ込まず、伊達の答えを大人しく待つことにした。 
しかし、次に口を開いたのは伊達ではなく――――未来だった。

「俺は、今でも藍梨さんのことが好きだぜ」

その言葉に、結人と伊達は同時に未来のことを見る。 一方未来は結人たちを見ているのではなく、目の前にいる藍梨のことを優しい目で見ていた。 そして、少し微笑んでいる。
未来は続けて、言葉を綴った。
「まぁ、一目惚れだけどな。 でもユイから藍梨さんを奪おうだなんて、考えていない。 これからもずっとな。 ・・・だけど!」
「?」
「俺はいつか、藍梨さんにこの気持ちを伝えようと思っているよ」
「・・・マジで?」
その言葉に、伊達は反応する。 未来は本当に、真っすぐな少年だった。 だから結人は、そんな彼を止める気にはなれなかったのだ。
いや――――止めたくはなかった。 別に未来に藍梨を取られてもいいだなんて、思ってはいない。 だけど、藍梨が未来を選んだのならそれはそれでいいと思っている。
だが今は、大切な仲間が頑張って好きな人に気持ちを伝えるという行為を、否定したくはなかったのだ。
「おう。 でも伝えるだけな? この先の展開なんて俺は期待していないから。 まー、気持ちを伝えるのは、ずっと先のことだろうけど」
ここだけが未来と伊達の違うところだった。 この時伊達は、未来のことをどう思っていたのだろう。 彼も、気持ちを伝えようと少しでも思ったのだろうか。

―――でも、未来は強いよな。

いつも自分勝手に行動するが、怖いもの知らずで自ら前へ向かって進もうとする。 こういう人間は、結黄賊には必要だった。 
何だかんだ言いながらも、結人は未来に助けられている。 

―――俺も未来を見習って、自ら向かって行かないとな。 
―――特に、明日柚乃と会う時に。 
―――ん、明日・・・? 
―――そうだ、明日柚乃に会うんだ! 
―――藍梨と付き合うことができて感情が興奮していたせいで、柚乃のことをすっかり忘れていた。

「藍梨!」
前にいる彼女を呼び止める。 藍梨が立ち止まり振り返ったところで、走って彼女のもとへ近付いた。
「明日、藍梨に会わせたい人がいるんだ。 だから一緒に来てもらってもいいか?」
そう言うと、彼女は少し迷いを見せながらも頷いてくれた。 柚乃にはあまり会わせたくないと思っていたが、今では考えが変わった。
柚乃にきちんと彼女を紹介して『俺は藍梨のことが一番好きだから』と言ってキッパリ振る。
もしかしたら結人がしようとしていることは、傍から見たら最低なことかもしれない。 それでも、結人の気持ちは変わらなかった。
柚乃に、自分には藍梨がいるということを見せ付けるために。 そして――――自分はもう、藍梨から逃げないと思わせるために。 全ては結人にとってのけじめだった。

みんなと話していると、あっという間に公園へ着く。
「お、未来たち来たのか」
「伊達もいらっしゃい!」
そこには夜月、真宮、コウ、優が集まっていた。 他のメンバーは用事でもあって来れないのだろうか。
「みんな聞いてくれよ! ユイと藍梨さん、付き合ったんだってさ!」
来て早々、未来はみんなに結人たちのことを打ち明ける。 みんなは驚くのと同時に凄く喜んでくれた。 少し照れ臭かったが、隣に伊達がいると思うと少し気まずい。
この後はみんなでたくさんくだらないことを話し、この幸せな時間を感じたまま解散することになった。

結人は藍梨を家まで送った。 送った後、今日集まれなかった仲間に一人ずつ電話をすることにした。 御子紫、椎野、北野。 彼らに藍梨と付き合ったことを報告する。 
3人とも凄く喜んでくれて、とても嬉しかった。 報告すると共に、感謝と『これからも俺たち二人のことをよろしくな』という言葉も伝えておいた。
また藍梨と少し関係が崩れることはあるかもしれないが、もう彼女のことは手放さないと決めたため仲間には見守っていてほしいと思った。 

その願いを――――込めて。


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