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第二百八十三話

 ――セリナ――

「ほう、実に面白い術を使う! あれは幾つの魔法を合成させたものだ?」

 観客席の中でも特等席で戦いの様子を見ていたギラは、とても嬉しそうに言います。無邪気な子供、という印象ですが、むしろ邪気しかありません。
 手足を拘束され、魔力も残り少ない。その状況で闘技場の戦いを見せつけられたのは、おそらく私たちに絶望を与えるためでしょう。助けに来てくれたグラナダ様が(ついでにブリタブル)倒されるのを見せつけることで。

 それを実行するために、ウルグとケイレスという選手を改造していましたし。

 しかしそれは、私たちからすれば児戯でしかありません。
 そんな子供騙し、あのグラナダ様の前で通用するはずがありませんねぇ。

「中々どうして、強いじゃないか」
「当然よ。グラナダを誰だと思ってるワケ?」

 すっかり乱れてしまったポニーテールを揺らし、アリアスは不敵な笑みでギラを睨みます。

「なるほど、お前たちが希望を持つだけのことはある、か。だが、それもこれまでだ」

 ギラは一切動じず、正面からアリアスを睨み返します。その威圧は凄まじく、思わず首が締め上げられそうになるものでした。とたんに息が苦しくなり、私たちは顔を歪めました。
 本当に、随分と荒々しい殿方ですねぇ。

「グラナダに優勝の可能性はない。何故なら、ヘカトがいるからだ。ヘカトにも然るべき改造を施して、より完璧に仕上げてやる。そうなれば、ヤツも終わりだろう。それに」

 ギラが舐め回すように、私たちを見ます。その表情に怯えたのか、メイちゃんが私にしがみついてきました。私は守るように抱きしめます。アリアスもそっとメイちゃんに寄り添ってくれました。

「仮にヤツが勝ったとしても、貴様らを助けられるのは二人。いったい誰が見捨てられるのかな?」

 ――……!
 その抉る言葉は、深く突き刺さりました。
 いや、選ばれないなんて、いや。でも、ここにいる誰かが犠牲になるのも、いや。

「くっくっく。絶望に身を震わせておくが良いぞ」
「……そんな安っぽい言葉で、私たちをどうにか出来ると思いましたか?」

 私は出来るだけ震えないように声を律し、言い返します。
 大丈夫。今は信じるのです。そう、だって今戦っているのは、グラナダ様なんですから。

「何があったとしても、グラナダ様は私たち全員を助けてくださいます。必ず」
「……ほう。そうか、そんなに信頼しているのか。それならば」

 ギラは愉快そうな表情で指をパチンと鳴らしました。
 ぞっとするような魔力が放たれ、どこかへ飛んでいきます。今のは……? 私でも感知出来るなんて、相当なもののはず……!

「面白いものを見せてやろう」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ――グラナダ――

 俺は変装して闘技場の外にある露店街にいた。
 闘技場の中でも食事は提供されるのだが、冷めているので美味しくないし、何が入っているのかもわからない。その点、露店なら色んな店があるから出来立てを食べられるし、毒の心配もない。それでも警戒して変装してるけど。

 俺は串焼きを買ってかじる。

 しっかりと味付けされた肉は脂が少ない分、噛み応えがある。付け合わせのピクルスとカッファアップルのジュースで舌を休めつつ、俺は二本平らげた。
 後はパンとスープでおしまいかな?
 そう思って露店を見繕い始めたタイミングで、異変に気付く。

『これは……呪いの暴走?』
「どういうことだ?」
『狙われているのは主だな、これは』
「……はぁ!?」

 思わず声をあげると、上空に異常な魔力を感知した。見上げると、そこには全身鎧から禍々しい黒い煙を吐き出す獣人、ケイレスがいた。
 げ、これは、マズい!
 俺は即座に判断し、ダッシュをかけて高速飛行魔法を唱えた。
 ちょっとした悲鳴が起こるが、気にかけていられない。アレが町中にやって来る方が危ない。

『体内の魔力が暴走しているようだな』
「なんだってそんなことに……!?」
『おそらく、あのスキルが関わっているのではないか?』

 あー、あの《破盾の加護(呪)》ってやつか。明らかに怪しかったもんな。
 大方俺に負けたからって暴走させられたか? だとしたら哀れなもんだ。

 俺を追いかけてくるケイレスを見て、俺は小さくため息をついた。
 何とかして元に戻せるなら戻してやるべきなんだろうが、あれはきっと無理だな。

『不可能だ。魂にまで食い込んでいる呪いの契約だ。解除したとしても、おそらくもう自我はあるまい』
「どうしようもないってか」
『引導を渡してやるのがせめてもの情けというものだが……少々厄介そうだ』
「分析できるのか?」
『妨害がないからな。というか例のスキルがまだ効果を残している上に、ステータス値が跳ね上がっているぞ。闘技場で使った戦法は無理だな』

 しかも絶対に監視されてるってワケか。
 《神威》辺りを使えばどうにかなるが、こんなことで手の内を晒させられるのも良い気がしない。

「だったら、別の手段を使うまで、だよな。ポチ、ルナリーとオルカナを」
『すでに呼んだから大丈夫だ』
「さんきゅ。クータ!」

 俺は魔力を声に乗せて言う。
 少しすると、上空から漆黒の肌をもつドラゴンが現れた。

 ここは闘技場じゃないからな。遠慮なく仲間と共闘させてもらうぞ。

「グガァァァァァァアアアアアアアッッ!」

 雄叫びをあげて、ケイレスがクータを睨む。
 瞬間、クータがブレスを放つ。灼熱色のレーザーが降り注ぎ、爆発を起こす。

 だが、例のスキルが発動して効果はない。
 本当に反則級だな。

「クータ、ダイレクトアタック!」
「ガァっ!」

 クータが吠え、巨躯を活かして接近戦を仕掛ける。
 唸りを上げて爪を繰り出すが、ケイレスは剣で持ってその攻撃をいなした。っておい! そんなのアリか! ドラゴンの攻撃を捌いた!?
 驚愕している合間にも、クータが次々と攻撃を繰り出す。だが、その全てを流して見せていた。
 とはいえ、ケイレスもそれで手一杯になっている。そのまま激しい接近戦を繰り広げながら、どんどんと町から離れていく。

『ここまでとは……ステータスがバカに上がっているせいだな』

 ――そういうことか。
 俺は納得しつつ、合図を送る。
 瞬間、いきなり現れた黒い幾つもの手がケイレスを縛り上げる!

「お兄ちゃんの邪魔……ゆるさない」

 見下ろせば、駆け付けて来てくれたルナリーがいた。

「グ、ガァァアアアアァッ!」
『吾輩から逃れられると思わないことだ!』

 ケイレスが強引に振りほどこうとするが、黒い腕を更に増やして無理やりに押さえつける。だが、そのせいでクータが手出しできなくなっていた。
 代わりに俺が前に出る。
 ケイレスのステータス値が更に上昇している。あれじゃあ、いずれ振りほどかれる!

「ルナリー! オルカナ!」
「うん」
『承知した』

 俺は呪文を唱えながら接近し、拳を突き付ける!

「《百剣白樹(ヴァイス・トロイメライ)》っ!」

 一瞬にしてオルカナの黒い手が解かれ、直後に魔法が炸裂する。
 白い剣が生まれ、一気に華が咲く。ケイレスの身体が弾け飛び、無数の剣の華が赤に染まる。
 今度こそ、終わりだ。

「……ふぅ」

 なんとかなったか。俺は息を吐きながら汗を拭う。

 ――スキル継承! 《鬼神》を手に入れました!

 ……………………は?
 いきなり表示されたメッセージに、俺は目が点になった。
 いやちょっと待て。どういうことや。
 相手を倒したらスキル継承されることがあるのは知ってる。けど、スキルスロットは三つしかなくて、もう三つとも埋まっている。
 だから、継承なんて出来るはずがない。

『主。ユンたちから貰った石があるだろう』
「ん? ああ」

 確かカーバンクルの……。

『その中に《奇跡の石》があるのではないか?』
「えっと、これか」

 俺は赤く輝く石の中に紛れていた、一際綺麗な石をつまみ上げる。赤い中にも虹色が差し込んでいる石だ。
 肯定の意思が伝わってきたところで、迷わず《鑑定》スキルを撃つ。

 ──《奇跡の石》数百年に一度精製される奇跡の石。スキルスロット+1。

 燦然さんぜんと輝く文字を見て、俺は顔をひきつらせた。

「ぉぉ……」

 久々にチートクラスの文字を見たな。
 しかも手にした《鬼神》はとんでもないスキルだ。剣術やダガーのスキルが可算された上に、今まで習得できなかったスキルまで並んでいる。とんでもないことになってるぞこれ。

 これってもしかして、接近戦の弱点、ある程度克服された?

 それでも覚えられないスキルとかはあるみたいで、剣術の達人と渡り合うのは難しそうだけど。
 けど十分すぎる強化だ。

『良いものをもらったな』
「まぁな……」

 俺は微妙に顔をひきつらせながら応える。これ、誰かにバレたらシャレにならないよなぁ。

「っと。もうそろそろブリタブルの試合が始まる頃かな? 急いで向かおう」

 俺は意識を切り替えて言った。
 みんなを助けるために、ブリタブルは必要不可欠なんだから。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 ──ブリタブル──


 ぼた、ぼた。
 地面に血が落ちる。ヘカトの血ではない。余のものだ。
 歓声よりも忙しない自分の息の方がうるさい。それに全身が激痛を訴えて来てる。

 視界がぐらつく。

 ……これは、いかんな。
 相手――ヘカトは余裕の表情と態度で仁王立ちしている。
 そう。余は手も足も出ないでいた。

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