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執事コンテストと亀裂㊷




そして――――コウと優は、結人から一番離れたところで戦っていた。

「俺の相手は5人かよ・・・」

そう、コウは今5人の赤眼虎を相手にしている。 不気味な笑みを浮かべる彼らに、思わず溜め息をついた。
「お前が一番強いんだろ? とっくに調べ済みだぜ」
「俺たちが一気に襲いかかったら、流石にお前でも手に負えないよな?」
余裕そうにそう言いながら、ケラケラと笑っている。 そんな彼らに、苦笑を浮かべながら言い返した。
「・・・結構俺も、ナメられたもんだな。 もしユイのところへ行きたかったら、俺を倒してから行けよ?」
「そんなことは当たり前だ!」
言葉をそう放った瞬間、5人は先刻言った通り一気にコウに向かって襲いかかる。
一方コウはその場から一歩も動かずに相手の動きだけを静かに見据え、男らが走ってくる人と人との僅かな隙間を探し――――そこから相手の攻撃を一つも受けず、見事にすり抜けた。

「「「!?」」」

突然目の前からいなくなったコウに、男らは素直に驚きの表情を見せる。
その間にコウは休む間もなく、すり抜けてすぐに彼らがいる方へと身体を捻じり、相手がこちらへ振り向く者から次々に足を使って攻撃していった。
「ぐはぁッ!」
顔正面に蹴りは危ないため、頬や腕、脇腹を目がけどんどん蹴り飛ばしていく。 相手がその攻撃により地面に崩れ落ちたのを確認し、コウは彼らを見下ろしながらこう呟いた。
「こんな調子じゃ、ユイのところへは到底行けないな」

コウが5人相手と戦っている間――――コウの後ろには、優がいた。
「お前って、結構可愛い顔してんだな」
相手が優に向かって素直な感想を言うのに対し、優は顔を真っ赤にしながら力強く反論する。

「ッ、はぁ!? お前に言われても全ッ然嬉しくねぇし! つーかキモい!」
「はーッ!? 俺がお前をわざわざ褒めてやってんのに、何なんだよその口の利き方は!」
「コウ以外に言われても嬉しくねぇもん! それ以前に、レアタイの奴なんかに言われたくない!」
「そこまで言われるなんて、心外だなぁ・・・」

そう呟いた直後、相手は優に向かって鉄パイプを真上に上げながらお構いなしに突進してきた。 だがその突進を見事にかわす。
「おい、逃げんなよ」
優を睨み付けながら言ったその発言に、優は恥ずかしいのか相手から視線を少しそらしこう言った。

「・・・その、戦うなら正々堂々と素手でやろうよ」

小さな声でそういうと、相手は一瞬の間を空けるも急に笑い出す。
「はははッ! そうきたか! いいだろう。 ・・・その顔に、免じてな」
そう言って、相手は鉄パイプを遠くへと放り投げた。





「おッ! もーらいっ」
その頃椎野は、先程優と戦っている相手が手放した鉄パイプを手に取ろうとしていた。 が――――その時。

―ドスッ。

「うおぁッ!?」
油断して相手に背を向けたせいか、男は背後から椎野の背中を目がけて鉄パイプを振り下ろしてきた。 そしてそのまま、それは椎野の背中に命中する。
「ッ、いってぇな!」
椎野は鉄パイプを手に取り、その瞬間後ろへ向かって勢いよく振り回す。 
だが思った以上に殴られた背中は痛く、力強く振り回したはずが上手く鉄パイプを操ることができなかったため、相手は簡単に攻撃を避けてしまった。
「そんなフラフラで俺と戦えるのかよ?」
そう言いながら、相手は馬鹿にするように笑ってくる。 そんな男を見て、悔しさのあまり歯を食いしばった。
「くそ・・・ッ! 俺も後ろに、誰かが付いていてくれれば・・・!」

「俺がいるよ」

「!」

突然そのような声が聞こえ、声のした方へ一瞬だけ振り向いた。 先刻みたいに、相手からの攻撃を食らわないために。
「え? 北野!」
「椎野、ちゃんと集中して。 俺の後ろは、任せたぞ」
彼は椎野の方へは振り向かずに、それだけを伝えていく。 そして――――その言葉によって自信がつき、椎野の顔付きが一瞬にして変わった。 
自分の背中は北野が守ってくれているからか、それとも自分の敵は今目の前にいる相手ただ一人だから楽勝だとでも今更思ったのか――――
突如声を張り上げ、男に向かって襲いかかる。
「よーし! みなぎってきたああぁあああぁぁ!」

椎野がみなぎっている頃、北野は相手のことを力強く睨んでいた。
「俺は、みんなの足を引っ張るわけにはいかないんだ」
そして相手の発言を待たずに、言葉を静かに続けていく。
「俺だって、みんなの役に立ちたい。 だからここは負けられないんだ・・・! 絶対に勝つ。 レアタイには、絶対に負けない!」
「さっきからお前は何を言ってんだよ?」
自分に言い聞かせているかのようにぶつぶつとそう呟いていると、ようやく相手が北野に突っ込みを入れる。
「・・・お前は、俺が倒す!」
決意したかのように力強くそう言い放つとと、相手はニヤリと小さく笑った。
「そうこなくちゃな!」
そして相手からではなく北野が、自ら相手に向かって襲いかかった。





夜月と真宮は、公園の入り口付近にいた。 入り口付近といっても入り口からは離れているが、ここにいる誰よりも一番入り口に近いという意味だ。
「今までよくも柚乃さんに怖い目を遭わせてきたな」
「こっちだって、上の命令に従っているだけだ」
「別にお前はあの女の彼氏とかじゃねぇんだろ?」
夜月が今相手をしているのは、柚乃を横浜から尾行していたストーカー男だった。 そして、あともう一人いる。 
二人は同時に夜月へ向かって、鉄パイプを振り上げながら走ってきた。
だが夜月はその鉄パイプをそれぞれ片手で受け止め、そのまま相手の腕を捻じり上げる。

「「ッ!?」」

そのまま二人は声にもならない不気味な悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。 あまりにも手応えのない喧嘩に少し呆れる。
「あー、流石に素手で受け止めるといってぇな・・・」
そう言って夜月は、内出血して真っ赤に腫れている自分の両手を静かに見据えた。 そして二人の方へ視線を戻し、彼らを見下ろしながらこう言葉を放つ。

「おい、早く立てよ! ・・・まだ柚乃さんに苦しい思いをさせた敵、取ってねぇんだから」


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