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第二百六十八話

 それから数日間、俺たちはチェールタに滞在した。
 クイーンの体調の回復を待って、正式に同盟の調印をするためだ。これも大々的なセレモニーとなったせいで、護衛でもある俺たちはすっげぇ疲れることになった。

 まぁ、そうでなくとも王国としての立会人的立場も求められたせいもあるけどな。

 細かいことはわからないので、全部アリアスとセリナに任せた。俺とメイとルナリーは単純に手を振ってただけだ。
 ちなみにメイとルナリーの人気は絶大だった。
 まぁ、クールで無表情だけど狐耳の少女に、愛想が良い少女だからな。でもちょっと人気過ぎて危なくねぇか? と思ったぐらいだ。

 ちなみに、パンドラが言っていた大森林の図書館についても調べてみたが、ヒントになるようなものさえ見つからなかった。
 でも、ルナリーに関する唯一の情報でもある。真偽のほどを確かめるためにも、今後の情報収集は必須だろう。

 そんなこんなで、同盟締結は無事に終わり、俺たちはチェールタを後にした。
 移動はクータにお願いした。
 しばらく船には乗りたくない。

「帝国に対する措置は、国際会議で行う、か」
「不満そうな表情だな、アニキ」
「まぁ、な」

 言葉を濁して俺は景色を見下ろす。ちょっと思うところはある。

「余は不満だぞ、アニキ。物事一つ決めるのに時間かけすぎだ。特に今回は急がないとダメだろう。懸念を抱く」
「相手が国家、それも大陸でも屈指の大国ともなれば、そう簡単じゃあないのよ」

 憤慨する様子のブリタブルを諌めるように、アリアスも不満そうな表情ながら言う。
 理解はしてるけど、納得はしてない。そんな感じだな。

「そうですねぇ。せめて帝国を囲む国々では足並みを揃えておかないと、相手がどう出てくるか分かったものじゃないですからねぇ。周辺国家を守るためにも、今は仕方ないかと」
「それにちゃんと全会一致するように動いてるし、事態が事態だからすぐに採択されるんじゃないかしら」

 セリナのフォローに、アリアスが言葉を重ねる。
 そう。なるべく早く動けるようにみんな努力しているのだ。今できる最善で、最速で。それまでに帝国が新たな動きを見せないと良いがな……。

「うぬぬ……」
「それよりも次の目的地だろ。向かうのは獣人の国の南──砂漠のクァーレってトコか」

 地図を広げ、俺は指を向ける。覗きこんできたのはメイだ。
 クァーレというのは地名である。この辺りに国家は存在しないことになっている。

「この辺りは確か、砂漠が多いと聞きましたけど」

 そうだな。授業ではそう習った覚えが俺もあるぞ。
 確か、各地にオアシスはあるが、ほぼほぼ砂漠だったはずだ。場所によっては砂嵐が吹き荒れていたりもして、地図上でも不明な場所が多い。
 そのため、オアシスを中心とした小さい集落が点在している状態だ。しかも色々な部族がいて、ほとんどが獣人たちである。一応、それらを取りまとめる地域があるので、拡大解釈すれば、連邦制とも言える。

『焔ほむらの影響が強い場所だからな』

 そこまで考えていると、ポチが答えてくれた。

「焔ほむらってことは……神獣がいるってことか?」
『というか、クァーレは焔ほむらのがまとめているぞ』
「「「ええええっ!?」」」

 俺を含めた全員が驚きの声を上げた。
 いや、いやいやいやいやいや。ちょっと待て、いいから待て。だって神獣が纏めてる地域だと!?
 聞いたことねぇぞんなもん!

『まぁ、公にすることではないからな』

 平然と言うポチに、俺は頭痛を覚えた。

「いや、確かにそうなんだろうけど……」
「理解はするけど、なんというか……って、ということは、私たちはこれから神獣と会うってこと?」

 アリアスは思いっきり顔を引きつらせて事実を口にした。その表情は思いっきり畏敬に満ちている。
 当然だ。
 そもそも神獣は存在そのものが神秘的で、まず出会えるものじゃあない。いや、目の前にその神獣たるポチがいるんだけど、コイツは威厳の欠片もないからなぁ、見た目、どう見てもマメシバだし。いや、今は大きいんだけど。

 他に俺があったことがある神獣といえば、水を象徴するヴァータぐらいだ。

 確かにヴァータは威厳があったけど、かなり人間に親しみやすいようにしてあるのも分かる。つまり俺も本格的といえばいいか分からないが、神獣らしい神獣とは対面したことがない。
 まぁ、地域を纏めてるっていうなら、ヴァータみたいに親しみやすいかもだけど。

「んー、そうなのかぁ、オジキは神獣だったのか…………」

 ブリタブルは腕を組ながら首を捻っていた。

「会ったことあるの?」
「そりゃな。元々は俺たちもそこに所属していたんだから」

 アリアスの問いかけに、ブリタブルはしれっと答える。

「そうなの?」
「そういえばそうですねぇ。確か、ブリタブルさんの辺りも元々は砂漠でしたが、地殻変動で水がわき上がって肥沃な土地に変化、一気に人口を増やして国になりましたものね」
「その通りだ。それに俺たちはもともと、色々な種族の寄せ集めでもあったしな。その中から王族が出来上がって、他国との交流も始まって、国になったのだ」

 なるほどな。
 獣人の地域でも一番他国との境界線が近かったおかげで、広い交流と交易の文化があって、それで経済的にも成長したから独立出来たのか。
 それと、クァーレの中心部からも離れているから、影響力も大きくなかったのだろう。

「とにかく、そのクァーレと交渉するんだな?」
「うむ。クァーレとの対等関係を結ぶのが目的だ。これを成し遂げることで、我らは初めて国となる」
「現状、向こうは対等とは認めてないってことなのね」
「扱い上、属国になっているはずですねぇ」
「左様。故に、我らは王国とチェールタと同盟を結ぶことで、国としての裏付けを手にして、クァーレと交渉に挑むというわけだ」

 つまりこれは一種の独立運動ってことか。
 だったら、成し遂げないといけないな。同じ獣人を中心としているのだから、そこは大事にしておかないといけないんだろうし。

「じゃあ、感じは知ってるってことだな。どういう人なんだ?」

 人というのはおかしい気もするけど。

「そうだな……気に入らないことがあると、とりあえず燃やす人かな?」
「それめっちゃ危なくねぇか?」

 反射的にツッコミをいれると、ブリタブルは平然と頷いた。

「機嫌を損ねたらそこで終わりだな。だが、認めたものに対しては無礼講だぞ。竹を割ったような性格だからな。実力至上主義でもあるが」
「……なるほど。それで実績を立ててから向かうことにしたのですね」
「その通りだ。交渉のテーブルに座ってもらうためには必要なことだ」

 何その一かゼロかの戦い。
 絶対に同席したくないんだけど。緊張感バッリバリじゃねぇか。

『まぁ、実にヤツらしいな』
「ポチは知ってるんだっけ」
『うむ。確かに気に入らないヤツはすぐ燃やす傾向があるが、基本的に分かりやすくてやりやすい。実力あるものは認める。ないものは燃やす。筋の通さないものは燃やす。ただそれだけだ』
「本当に分かりやすいな……」

 いや、だからこそ獣人を纏め上げられてるんだろうな。
 力を力で制御できる。ある意味で真理だし。

「きゅあ」

 クータが申し訳なさそうに訴えてくる。

「お、クータ、疲れたか。そうか、そうだな」
『近くに村の反応がある。そこで休むと良いのではないか?』
「そうだな。丸一日以上飛んでるもんな」

 すでにチェールタから大陸に入っていて、今は森の中だ。ちょうど獣人の国を突き抜ける形で、ルート的にはこのまま砂漠へ入る。
 時間はもう夕方近いし……。
 ちょうど良いか。

「よし、その村へいって、今日は休むか。近くに着陸して、クータを小さくするぞ」
「「「了解」」」

 俺の指示に従って、クータが降下していく。
 方角を確認しながら着地し、隠蔽魔法を解除。そのまま村へ向かう。

『……もし』

 草をかき分けていると、ぼっといきなり炎が――って!。

「「「うわぁっっ!?」」」

 これ人魂じゃねぇか!?
 思わずバックステップし、俺はダガーを抜く。人魂――つまりアンデッドだ!
 全員が魔力を高めると、人魂は慌てて上下し、そして光を放ち始める。

『ああ、驚かせたならすまない。私はこういうものだ』

 姿を見せたのは、かぼちゃ頭の騎士だった。

「ジャックオランタンじゃない。善の騎士のようね。なんでこんなところに?」

 安堵したように胸をなでおろしながら、アリアスが微笑む。
 ジャックオランタンは家を守る守護騎士と、悪意のある切り裂きジャックの異名を持つ悪の騎士がいる。
 悪の騎士だった場合、問答無用で襲い掛かって来る。
 違うということは、善の騎士だ。
 だが、この善の騎士は家を守ることを主義としていて、こんな森の中をうろつくことはない。

『うむ。実は困ったことになっていてな……その強さ、さぞや名のある方々と見受けるが』
「まぁ、確かにSSRエスエスレアばかりですけどねぇ」
「それに神獣や夜の王とか、ドラゴンもいるし」
「SSRエスエスレアなんかよりずっと強い人もいますしね!」

 メイがきらきらした目で俺を見てくる。ちょっと照れくさくて目を逸らした。
 つか、まぁそう考えると本当に常識外だよな、これ。

 思わず苦笑していると、ジャックオランタンはいきなり頭を下げた。

『恥を忍んでお願い申す。どうか、どうか我らを助けてくれないか』
「……助ける? 何か魔物に襲われてるのか?」

 ジャックオランタンはアンデッドの一種だ。強さだけなら上位だが、実は聖水に非常に弱く、俺たちからすれば脅威度はそこまで高くない。だが、魔物からすればその上位の強さを遺憾なく発揮する。
 つまり、そうそうは脅威を覚える魔物なんていないはずだ。

 案の定、ジャックオランタンは頭を振った。

 怪訝になって眉を寄せると、声がやってきた。

「ひゃっはあぁぁぁぁぁああ――――――――っ! トリックオアトリィィィィィィィトッ!!」
「ジャックオランタン狩りだぁぁぁぁぁっっ!! ハロウィンだぁぁぁぁぁあああああ!!」
「今年こそ立派なのを軒先に飾るぜ! ヒャーハァァァァァァァ!」

 ど、どこの世紀末な雄叫びだこれは!?
 声のした方を睨めば、次々と松明の明かりが浮かんでくる。人魂よりよっぽどあっちのが怖い。

『……というわけなのだ』
「いやどういうワケなの!?」

 アリアスの見事な速度のツッコミに、誰もが頷いた。

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