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1-5-1 回復剤完成?兎・猪・熊・少女?

 朝目覚めとともにハティが尻尾を振って飛びついてきた。
 俺が起きるまで大人しく待っていたようで、めっちゃ可愛い。
 テントの外に出してやると直ぐに排便・排尿を行う。教えてないのにテントの中でしないとこも何気に凄い。

 『……おはようございますマスター。トイレの躾は勝手ながらナビーが行いました。まだ1日目ですので、粗相はまだあるでしょうが、今のところ上手くいっているようです』
 『はぁ?どうやったらお前が出来るんだよ?』

 『……ハティは既にかなりの知能がありますので、睡眠学習で眠ってる間にナビーがイメージとして何度も刷り込み、最低限の従魔としてのマナーを教え込んでいます。人語も教えていますので、近日中に片言の言葉を理解できるようになるでしょう』

 ナビーの仕業でした……こいつ何でもアリだな。

 『じゃあ、任せるけど、睡眠の邪魔はあまりしちゃダメだぞ。赤ちゃんは良く眠るものなんだからな。それとハティを上位種に進化させるのはまだやらないんだな?』

 『……はい、ちゃんと標準的な体格まで育ってからと思っています。レベル上げも暫く禁止です。歯も生えてないのに狩りなどさせてはいけません。シルバーウルフは魔法も使いますが、普通は初級程度のものです。本来の武器は強靭な顎で噛み付き、鋭利な牙で切り裂いて狩りをするものです。中級魔法で首チョンパとか狼のする事じゃありません』

 ナビーの言うとおりだ。

 ハティが魔法を勝手に覚えたので、何も考えずに俺が【カスタマイズ】でいじってAPを与え、中級のレベル10まで上げてしまったからだ。それと俺のSPを与え、知力に少し振ってある。

 これ以上ステータスポイント与えたら上位種に進化してしまうと止められてしまったが、ナビーが何も言わなければハティ可愛さにガッツリ与えていたかもしれない。


 朝食時ハティにミルクを与える。
 ストローでチビチビ飲ますのは面倒だが、可愛いので時間を掛けて与えてやる。

 『……マスター、ガラスコップを一つ潰していいですか?』
 『良いけど何するんだ?』

 『……ハティ用の哺乳瓶を作ろうかと思います。その辺の地中に2~4m程のラバーワームというミミズ型の魔獣が居ますので、それを捕獲してください』

 『名前からして、ゴムの素材になるとかか?』

 『……そうです、100度以上の熱を加えると液状化し、冷え固まるとゴム化するようです。加熱時間や温度でゴムの硬さが変わるらしく、実際にやってみないと分からないので、出来れば数匹確保してほしいです』

 『了解だ。あ!でも俺のMAPに何も反応がないのだけど?』

 『……マスターの探索は主に地上の魔獣設定になってるので、地中も含めるようにしておきますね』

 『もう可能か?お、地中にも魔獣って結構いるもんだな?これ以前の俺の探索魔法だと地中からの不意打ちもあったって事だな?』

 『……違います。ナビーが敢えて非表示にしていたのです。襲われる危険のないものや、経験値や魔石の価値のないものを表示していては見辛いだけですので』

 『確かに。極端な話、蟻などの虫まで表示に反応させてたらMAPは赤一色になっちゃうもんな。今後も適正に審査分別宜しくな』

 『……はい、お任せください』

 食後にそのミミズを捕まえたのだが、最初は色々考えてやってみて失敗した。

 手で掘るのは愚策だ、巨大なミミズ一匹捕まえるのに何時間掛かるか分からない。

 最初に試したのが爆裂系の【ファイアラボール】だ。地中に撃ちこんで爆発させ土を吹き飛ばして捕まえたのだが、火はダメだと分かった。熱で溶けてしまい状態はかなり悪く使い物にならないと、ナビーにダメだしされたからだ。次にやったのは【アクアラボール】で同じように土を爆散させ掘り出したのだが、今回は状態は良いのだが、俺が泥水を被ってしまいこれも却下だ。冬の寒い中泥水なんか被りたくない。

 本来土魔法の応用で掘り起こせばいいのだろうが、俺は土魔法をあまり覚えてないので、応用が利かないのだ。そこで閃いたのが、闇系の重力魔法だ。【バリア】で空間指定をして【レビテラ】でその空間を無重力にして浮かせたのだ。浮かせた土を空中で崩せば簡単にミミズだけ取り出せる。我ながら完璧だ!

 この土を浮かせる応用はとても便利で、周辺の自然薯も同じように折る事も無く簡単に採取できた。自然薯は鍋にしても良いし、とろろご飯にしても美味しい。お好み焼きなどに入れても美味しいし、使い道はいろいろあるのだ。

 自然薯は葉っぱがハート型をしていて、似たような類似物もあるけど慣れれば見分けは付く。
 これも、猪同様料理部の良いお土産になるだろう。

 『……マスター、各種回復剤の試作品が出来ました。今から木材を伐採してもらいますので、MPが尽きかけたらMP回復剤を飲んでみてください』

 『お、出来たのか?等級はどうなってる?』
 『……一束10本の薬草で、初級回復剤の10級品6~8本と、中級回復剤の5級品2~3本が作成可能ですね』

 『級は10級が一番良くて1級の方が等級が下なんだよな?』

 『……はい。魔獣と逆ですね。魔獣は階級を表すので1級が上。回復剤は等級を表すので10級が上とされているようです。こちらの世界の表記ですね。マスターの世界で等級と言えば星の明るさとか自動車保険のイメージが強いのじゃないですか?』

 『確かに……まぁ、こちらの世界に来たんだ。こっちの表記を学習するしかないよ』

 『……ですね。それと哺乳瓶が完成しましたので、お昼にでも使ってみてください。ハティに合った吸い口のゴムの穴の径がいまいち判らないので、サイズ違いを数個作ってみました。どれが最適か使って教えてください』

 『早いな、もうできたのか?』

 俺が自然薯堀りに夢中になってる間に哺乳瓶が完成したようだ。

 『……ミルクも良いですが。果汁100%ジュースとかも喜ぶのではないでしょうか?』

 『そういえば紙パックのモノが大量にあるな。お昼に与えてみるよ』


 ナビーに言われるまま、樹齢数百年物の大木やら真っ直ぐに伸びた杉の木などをガンガン伐採させられた。【アクアラカッター】で300本ほども切らさせられたのだ。これだけで消費MP3900だ。セカンドジョブに大賢者を取ってなかったら、とてもじゃないがMPが足らないどころだった。


 やっと終了の許可がもらえ、昼食をテントの中で取っている。
 俺はテントを毎回張ったりしていない。容量無制限なのを良い事に、張ったまま収納して出し入れしているのだ。時間も要らず便利な事この上ない。立っても余裕な天井の高い4人用のテントに入り、中でベッドとテーブルを出して快適な空間内での食事なのだ。只、食べてる物が携帯食なので味気ないのだが、それは仕方がない。

 牡丹鍋の残り物も温かいままインベントリにあるのだが、それは夕食用の取って置きなのだ。
 朝・昼は携帯食で我慢だ。


 「ハティ、これはリンゴジュースというものだ。美味しいぞ」

 今朝までストローで与えていたので哺乳瓶を見せても何の反応も示さなかった。
 吸い口を近づけても、匂いをクンクン嗅ぐだけでどうしていいのか分からないようだ。

 俺は吸い口にリンゴジュースを少し塗って、ハティの口を少し強引に開いてから吸い口を突っ込んだ。

 「ハティ、舐めるんじゃなく吸うと出てくるぞ」

 最初ペロペロと吸い口を舐めていたが、偶然か俺の言葉を理解したのかは分からないが、勢いよくチューチューと吸い口を吸い始めた。

 こいつ、ミルクの時と比べたら目の色が違っている。尻尾をぶんぶん振って両手で哺乳瓶を抱えるようにしている。俺が持っててやらないと飲めないのだが、なんとも可愛らしい仕草だ。

 未熟児の為、大きさはチワワ程しかないので100cc程の量だったが、あっという間に飲み干した。

 「ハティ、美味しかったか?」
 「ミャン!」

 ハゥッ!ミャンって鳴いた!可愛すぎだろ!
 赤ちゃんのようにミャーではなく、子犬のようにワンでもなく、ミャンなのだ。

 『……マスター、また休憩時間が長すぎだと思うのですが?そろそろ熊狩りに向かわれてはどうでしょうか?日が暮れてしまいます……』

 『うっ……分かっているんだが、ハティが可愛すぎるのがいけないんだ』

 渋々テントから出て、ハティに排尿を促す。
 【クリーン】で奇麗にした後、いつものように服の中にハティを入れて熊狩りに挑戦だ。

 ここから4kmの地点と、MAPギリギリの10km付近の沢で、表示されたり圏外になったりしている奴がいる。
 まずは近い方からだ……合間に居る魔獣も全て狩っていく。
 食用ではない魔獣でも、手当たり次第にどんどん狩っていく。

 居た……体高3mはあるデカい熊だ。
 うーん、近接戦はちょっとご勘弁なぐらいおっかない。
 校舎の2階程の高さがあるのだ、剣で戦うのはなんか怖い。

 上級魔法の【アクアガカッター】で倒すことにした。連弾2発で完全に首が落ちた。

 『……全く面白くもなんとも無いですね……実にあっけない。狩りとはもっと楽しむものです』
 『俺はスポーツハンティングは好きじゃない。あくまで経験値と食料の為だ。それと町に行った後の資金がいるのだ。菜奈たちを飢えさす訳にはいかないからね』

 『……そうですね、不謹慎な発言でした。申し訳ありません』
 『いや、狩りが楽しいのは分かる。俺も少しは楽しんでるからね……ただ恐怖の方が大きいから、俺は魔法で即殺してるんだ。さ、次の奴に向かうか……ん?人の反応?』

 『……人ですね。お待ちください……この娘、茶道部の娘のようですよ。魔素で死にかけてます。もうギリギリ生きてるって感じですね。この周辺でも一番魔素の高いエリアです。良く魔獣から逃げて今まで生きてたものですね』

 『茶道部って、未来ちゃんも美加ちゃんも沙織ちゃんも何も言ってなかったぞ?それにこんな奥地で偶然俺に発見されるか?何かの意図を感じるんだけど、本当に偶然なのか?』

 『……確かに2000人程が暮らすあの学校で、7人しか居ない茶道部のうちの残り3人の中の1人が偶然生き残ってて、しかもマスターにこんな森の奥深くで発見されるなんて、不思議としか言いようがないですね……ちなみに茶道部三人が何も言わなかったのは、黙っていたんじゃなくて生存している事すら知らないのです。フレンドリストに載るのは種族レベルが1になってこの世界に生きる権利を得た者のみです。彼女はまだ種族レベル0の状態です』

 『そうか、ハティは拾った時点でレベル1だったもんな。俺たちの初期はレベル0。この世界に生を許されるにはレベルアップが条件だったな』

 『……どうされますか?』
 『勿論助ける!見殺しにしたら、茶道部の彼女たちに合わせる顔がない』

 『……では急ぎましょう。かなり危険な状態です』


 その娘は大木の木陰で倒れていた。完全に気を失っていて、右足が折れて変な方向に曲がっている。

 『ナビー、どういう状況だ?骨折しているのにここまで逃げてきたのか?魔獣に襲われて骨折したのなら食われてるだろうし、どういう事だ?それに、これって盾っぽく見えるんだが?自作で盾と槍を作ったのか?』

 倒れてる彼女の側に蔦で木を束ねて作った盾のような物と、木の棒に錆びたナイフを蔦で括りつけて槍のようにした物が落ちていた。


 とりあえず直ぐにでも死にそうなので治療する事にし、インベントリからテントを取出した。

しおり