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第二百四十六話

「――来ますっ!」

 メイが警告の声を放ち、甲板に乗り上げてきていたイカの魔物が飛びかかって来る。
 すかさず俺は魔力を高め、手のひらを掲げる。

「《エアロ》っ!」

 放った風の弾丸は、容赦なくイカの魔物を撃ち抜く。頭が風穴だらけになり、力なく地面に落ちて青い血の池を作っていく。
 俺は次の標的を狙おうとして、目眩に襲われてたたら踏む。
 船酔いだ。っていうか、気持ち悪い。真面目に。

 襲ってきているのは、海の魔物でも弱い部類に入る連中だ。
 イカもどきに、タコもどき。それと魚人もどき。たまに魚人が出る程度だ。セイレーンやクラーケン、アプサラスといった上級の魔物が出てこないのが幸いだった。

「うっ……」

 メイも大剣で一匹の魔物を屠るが、動きが鈍い。
 ルナリーも体調がそんなに良くないのだろう。オルカナもそれを気遣って、影から出てくる腕の数がそこまで多くない。
 アリアスやセリナも同じ感じで、ブリタブルに至っては船室でダウンしている。

 故に、俺たちは少し押され気味だった。

 船には俺たち以外に戦える人材がいないっていうのも大きい。チェールタの船は魔物に襲われない。という言葉を信じるせいか、乗客は商人たちが大半だったからだ。
 それだけでなく、船側も護衛を用意していなかった。
 これは完全に相手の落ち度だが、文句を言っても何かが変わるワケではない。とにかく、今生き残るためには戦わなければならないのだ。

「くっ……このっ! 《エアロ・スライス》!」

 アリアスが魔法を放つ。
 風の刃は甲板にせり上がってきたばかりのタコもどきたちを切り裂いた。
 醜悪な悲鳴が上がり、ぼとぼとと落ちていく。だが、それ以上の勢いで魔物たちがやってきていた。

「どうしたものですかねぇ、このままだと不利です」

 セリナはウィンドフォックスとガイナスコブラしか出せていない。
 体調不良のせいで集中出来ていないのだ。かくいう俺も、全くもって《ビーストマスター》の能力を使えていない。そもそも俺と海洋魔物との相性が悪いせいもあるが。
 セリナがヴァータの眷属、レスタに捕まった時も、全く能力使えなかったしな。

「少しずつ応戦するしかないだろ」

 っていうか、船酔いさえなんとか出来れば……。
 俺は気持悪さに耐えつつ、集中の鈍る頭を回転させる。
 確か、あれだ。平衡感覚が乱されるのが主な原因なんだよな。三半規管が揺らされて、脳の予測以上に身体が揺れるから混乱して、不調を訴える。
 分かりやすく自律神経が乱されてしまうからだ。
 船酔いしないのは、三半規管が未熟な赤ん坊とか、衰えた老人とか。

 あれ、っていうことは……。三半規管を強化すれば良いんじゃね?

 考えると、すぐに術式が浮かんできた。
 少しだけ練る必要があるが、なんとかなりそうだな。

「……メイ、ルナリー。しばらく頼めるか?」
「分かりました。任せてください」

 訊くと、メイはすぐに返事をした。ルナリーも一瞬だけ首を傾げたが、黙って頷いてくれた。

「頼んだ」

 俺はそう言ってから、目を瞑って出来るだけ集中する。
 ぐるぐる回る感覚に耐えつつ、術式を構築していく。この際、魔力消費の効率は無視だ。とにかくこの船酔いをなんとか出来れば良い。
 俺は《魔導の真理》を最大限活用し、魔法を完成させた。

「《ストレンジ》」

 赤い光が俺の耳を包み、三半規管を強化する。同時に魔力を身体中に巡らせ、異常を治していく。これで脳の認識と実際の状態のズレも解消される。
 すると、あれだけ身体が気持ち悪かったのが、見事になくなった。

 船酔いを改善する魔法。結構改良したら使える魔法かもしれん。
 思いながら、俺はメイとルナリーに魔法をかけていく。

「……治った!? これなら!」
「ん。幸せ。いける」
『ルナリーの体調が戻ったのなら、吾が輩も遠慮せんぞ!』

 メイは大剣を握って魔物の群れに飛び掛かり、豪快な一撃で一気に三匹を切り上げる。
 その傍から魚人が躍りかかっていくが、ルナリーから大量に伸びた腕がさせじと掴み上げ、あっさりと引き千切った。
 これなら、いけるな。
 俺は飛行魔法を駆使してアリアスとセリナにも向かい、魔法をかけてやってから戦線に復帰する。

「――《ヴォルフ・ヤクト》っ!」

 俺は空中に刃を浮かび上がらせつつ、魔物の群れに突っ込む。
 イメージの通りに刃が閃き、次々と魔物を切り刻んでいく中、俺はハンドガンを撃って氷漬けにしていく。そこへメイの大剣やオルカナの腕がやってきて、魔物を砕いていった。
 戦況はあっという間にひっくり返り、俺たちは甲板の魔物を駆逐していく。

 夥しい魔物の血が甲板を染める頃、俺は幾つか巨大な気配を感知していた。

 海の中だ。これは――クラーケンとデス・オクトパスか?
 大物だ。こいつらに船が襲われたらたまったもんじゃない。

「アリアス! 船長に命令して早く舵を切れって言ってきてくれ! この領域をさっさと突破しないと、いつまでも魔物がやってくる!」
「分かったわ!」

 俺の指示にアリアスがすぐに駆けだした。

「メイ、セリナ、ルナリー。ここは頼んだぞ。ポチ!」
『承知だ』

 別の場所で魔物を屠っていたポチが駆け付けてくる。白い体躯は魔物の血で染め上がっていたが、気にしている時間はない。
 俺はポチを受け入れ、一体化する。

「《天吼狼ヴォルフ・エルガー》っ!」

 稲妻が全身を駆け抜け、一気に世界の感知が加速する。反射神経が飛び抜けて上昇し、一体化が強くなってより力が洗練されていく。
 魔力が、良く分かる。
 ここ数年、ずっとこの訓練を行ってきたからな。使い勝手もバッチリだ。

「《エアロ》」

 俺は自分の周囲に空気を取り来んでから、海へ飛び込んだ。
 う、思ったよりも暗いな。
 っていうか、潮流も結構あって、流されそうになる! 身動き取れにくいな!

 舌打ちを交らせつつ、俺は魔力を高める。

「《ライト》」

 俺は光の球を複数展開し、周囲を照らしてから風と水の魔法を唱える。

「《アクア・エアロ》」

 水流に干渉しつつ、風の力で姿勢を維持する。応用すれば自由に海も動ける。
 いつか水中戦もするかも、と思って作っていた魔法だったが、ここで活用することになるとはな!

 俺の光に反応してか、クラーケンが蠢きながら足を伸ばしてくる。
 ごぼごぼと膨大な水の中、自在に足を動かし、迫って来る。っていうかデケぇな! 足の先でも俺より大きいぞ!
 かなりの圧迫感を覚えつつも、俺は更に《ライト》を量産しつつ、周囲を照らしながら備える。

「船には、触れさせねぇぞ! アテナ、アルテミス!」

 俺の呼び声に従い、手のひらサイズの子犬が出現、ハンドガンに入り込んて行く。ばちっ、と弾ける音を立てながらハンドガンに稲妻が宿る。
 これで、海の魔物にも十分ダメージを与えられる。

 俺は風と水を操作してクラーケンの足へ突っ込む。うねりながら迫ってくる足を見極め、俺はハンドガンを撃ち放つ。
 プラズマを纏った弾丸は、過たず足を貫く。稲妻が迸り、足が跳ねあがった。

「いっけぇ!」

 俺の裂帛の気合いに従い、刃が閃いて足に深く突き刺さり、貫通していく。同時に稲妻を解放しながら傷口をさらに広げる。こうすれば、全方位攻撃であっさりと千切れる。
 悲鳴のような音が響いてくる。
 俺は動揺して後ろに引き下がるクラーケンに追い縋り、目と口の間――つまり、頭に貼りついた。

 知ってるぞ。イカとかタコの頭は、ここにあるってことぐらい。

 俺はそこにハンドガンの銃口を突き付け、何度もトリガーを絞って電撃を放つ。そのたびにクラーケンが大きく震える。
 ある程度傷付いたところで、俺はそこに拳を突き刺し、魔法陣を展開する。

「《白麗に立て》《穢れなき咎め》《嚇怒よ、八重に咲き誇れ》」

 呪文を唱え、魔力の奔流を走らせる。

「《百剣白樹ヴァイス・トロイメライ》」

 白剣が誕生し、クラーケンに突き刺さる。直後、刃が無数に生え、桜のように幻想的な刃を咲き散らし、同時にクラーケンの頭部をズタズタにした。
 びくん、と、大きくクラーケンが揺れ、そして力なく落下を始める。 

 絶命したか。

 だが、安堵する暇はない。俺はクラーケンを蹴り、デス・オクトパスの方へ向かう。
 白いクラーケンとは違い、こっちは淀んだ赤色だ。

 ぎょろり、と、目が動き、オクトパスが俺を狙って襲い掛かってくる!
 こっちは――めっちゃ速い!?
 クラーケンよりも機動性が高い。俺は舌打ちしつつ、一時的に移動する。船が近い。

『グルァァァァアァアアッ!』

 タコが、吼えた!?
 デス・オクトパスってこんな能力あったのか!?
 驚く合間に海の奥から、気配が次々と生まれてくる。――ってこれは、タコもどきとイカもどき?

『どうやら、コイツが魔物を呼び寄せていたようだな』
「――ちっ。だったらさっさと片付けないとな」

 敵が迫って来る。それこそ上下左右、正面、後ろから。数は一〇〇か二〇〇か。もう数えるのもバカらしいくらいだ。
 俺は刃を最大限展開し、身構える。

「《ライト》」

 俺は更に光の球を周囲へ展開して海の中を照らす。
 俺の戦意に応じて、ハンドガンに宿るアテナとアルテミスもやる気をだして稲妻をスパークさせた。

「じゃあ、いっちょやりますか!」

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