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第二百四十二話

「な、なんだって?」

 あまりに突拍子なことに、俺は事態についていけなかった。っていうか、そもそもなんでアリアスが?
 あの袋は屋敷のどこかの倉庫に繋がってるんだよな? っていうことは……。

「グガァッ!」

 ……話は後だな。
 俺は威嚇のように声を荒ぶって今にも飛びかかろうとする相手、王子を睨んだ。

『ちょ、ちょっと待て! この立ち位置、吾が輩が最前衛では!? 今、吾が輩は動けないであるぞ!』
「分かってるよ!」

 ぎゃーぎゃー泣き声で喚くオルカナに言いながら、俺はリビングから庭に飛び出した。
 平衡感覚を確かめるように足踏みし、相手は凄惨な目付きで俺を睨んでくる。

「アリアス、とにかく事情説明してもらうからな!」

 この威圧……──かなり出来るな。あの黒い魔力の正体も分からないのは厄介だけど。
 俺は《鑑定》スキルを打って確認する。ステータスは間違いなくSSR(エスエスレア)級だし、接近戦特化だ。ってことは、スキルもかなり保有してると思って良いな。
 さっきは不意打ちもあったからなんとかなったけど……とにかく接近戦を拒否するか。俺はそもそも接近戦型じゃあない。

「お舘様、危険です。あの魔力はフィルニーア様が封印された実験に失敗した魔力生命体です」

 ハンドガンを抜いて構えた俺に、キリアが警告してくる。

「確か、瘴気の研究の一端で、偶然発生したもののようです。憑りついたものを凶暴化させるもので、かなり危険だからと封印されました。消滅させるには浄化魔法しかないのですが……」
「フィルニーアは使えなかったな、そういえば……」

 フィルニーアは主属性こそ雷だが、他の属性も異常なくらい使いこなしていた特殊能力者だが、付与属性は闇だった。つまり、聖属性の魔法は本来使えないのだ(裏技(ミキシング)を駆使して、それっぽいものは使っていたみたいだけど)。
 よって、純粋な浄化魔法は使えず、対応に苦慮して封印することにしたんだろう。

 誰かに依頼して消滅させなかったのは、たぶん、後々用途があるかもしれないとか思ったんだろうな。いかにもフィルニーアらしい。

 とにかく、正体が分かればこちらのもんだ。俺、浄化魔法使えるし。
 俺は地面を踏みしめる。

「《クリア・フィール》」

 発動させたのは、地面を浄化させる魔法。だが、裏技(ミキシング)によってアレンジがかかっていて、王子そのものに浄化がかかるようになっている。
 光の奔流が地面から放たれ、一瞬で王子を包み込む。

『「ッガァァアアァァァアアッ!?」』

 けたたましい悲鳴が上がり、王子が喉を押さえながら苦しむ。やがて、王子を包んでいた黒い魔力が力なく剥がれ落ち、消えていく。
 よし、これでなんとかなったか?
 王子は一頻り悲鳴を上げた後、がっくりと膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れた。気絶したようだ。

「王子!」

 アリアスが慌てて駆け寄り、その身体を起こそうとする。だが、かなり重いのは明白で、頭を少し浮かせるぐらいで終わった。
 それでも呼吸は確認できるので、アリアスはふうと安堵する。

 俺はちらりとメイとキリアに目線を送る。二人は頷いて屋敷の中へ入っていった。
 とりあえず屋敷に運んで休ませてやるべきだろう。

「アリアス。事情を説明してもらうぞ。そもそもどうやって入って来たんだ」

 俺はため息を交らせながら言う。
 そもそもここは俺の屋敷だし、魔法袋が繋がっているのも屋敷のどこかの倉庫だ。つまり、アリアスと王子は完全に不法侵入してきたことになる。っていうか、この屋敷はキリアが警戒網を引いているし、他にもポチやオルカナ、俺だっているのだ。
 こんな世界最強クラスの警戒網をどうやって抜けて来たんだ?

「あー、それはね。ブリタブル王子の特性のおかげなんだと思う」
「特性?」
「ブリタブル王子は、《完全隠蔽》の固有アビリティを持っているの」

 なんだその字面だけで凶悪なもんは。
 思わずジト目になってしまう。

「これは発動している間、一切の気配探知に引っかからないっていう究極の隠密アビリティなんだけど、たぶん、発現したのはブリタブル王子が最初みたいなのよ」
『であろうな。今まで聞いたこともないぞ』

 ポチが同意を示す。そりゃそうか。今までポチの気配探知をかいくぐって来れた奴はいないからな。
 というか、神獣さえ感知できないようなアビリティって何なんだ。
 もうそれだけでかなり貴重なものであると分かる。というか、こんなんが表に出たら色々とまずくないか?
 俺の懸念はまさにその通りのようで、アリアスは深いため息を吐く。

「本来なら絶対に秘匿されるべきものなんだけど、ブリタブル王子はそういうの気にしない性格で……」
「バンバン使いまくってるってことか」

 沈痛な表情で、アリアスは頷いた。

「今回も、王都をお忍びで散歩してたんだけど、この屋敷のことが気になったみたいで、つい侵入を」
「つい、で人の屋敷に物騒なアビリティ使って侵入してくるんじゃねぇよ!?」
「仕方ないじゃない! っていうか私に怒らないでよね! なんか王子がいきなりすっごく強い奴らが集まってる、どういうことだ気になる! って言いだしたんだから! 私は止めたんだからね! けど聞かなくてずんずん入っていっちゃったの! で、そのアビリティは近くにいたら周囲にも効果があるから、私も隠蔽されちゃったってこと!」

 ほとんど涙目でアリアスは反駁してきた。それだけでもうどれだけ苦労しているかが分かった。
 思わず同情の目で見てしまうと、アリアスはますます顔を赤くさせた。

「っていうか! 強い連中がいっぱい集まってるここが悪い!」
「知らねぇよ!」

 これにはツッコミを入れざるを得ない。
 まぁ、とんでもない連中が集まってるってのは理解出来るけど。何せ神獣にSSR(エスエスレア)に上級魔族並みの力を持つ幽霊(地縛霊みたいなものだけど)に吸血鬼だしな。
 とんでもないのオンパレードだ。

「つか、侵入してくる理由が思いっきり戦闘狂のそれなんだけど、大丈夫なんだろうな、この王子」
「戦いが好きっていうのは否定しないわ。獣人の国でも指折りの実力者だから。ただ、周囲には敵になるような奴がいないからって常々言ってたわ」

 うわぁ、なんかイヤだ。
 脳裏をよぎったのはあのライゴウである。修行をつける、とか言ってドラゴンの巣に連れていくようなとんでもないあの人と同じ系統の匂いがする。絶対に関わりたくないタイプだ。

「俺、そんなのの護衛しないといけないの? っていうか護衛要るか? 全然要らなくね?」
「実力的にはそうなんだけど、国の要人よ? 一人で行動させるワケにはいかないわよ。それに、帝国が狙ってくるなら、護衛はいた方が安心よ」
「それはそうだけどな……」

 色々な体裁という意味もあるし。とはいえ、それで振り回される方はたまったもんじゃないんだけど。

「それに、ブリタブル王子は接近戦特化の特化。中距離戦以上は本当に使い物にならないのよ」
「ひでぇ言い様だな!?」
「言っとくけど魔法だって『避ける必要などない! この鋼の肉体の前では!』とか言って仁王立ちしながら受け止めたのよ!? 黒焦げになっちゃって治療するの大変だったんだから!」

 黒焦げか。黒焦げになったのか。っていうかどういう状況でそんなことになったんだ。

「それはご苦労様。それで? この屋敷に侵入していくうちに倉庫へ入って、ああなったのか」

 瘴気に憑りつかれ、我を忘れる。
 だとしたら、かなりの迷惑である。

「ええ、屋敷で迷っちゃって……不法侵入に関しては謝るわ。ごめんなさい」
「びっくりした。随分と素直だな」
「なんでそんな驚くのよっ! すっごい失礼よ今の!」
「いつもだったら悪態つきながら「謝ってあげなくもないわよ」的な発言するじゃねぇか」
「うぐっ……!?」

 指摘すると、アリアスは唸って硬直した。

「お館様、寝床の準備が出来ました」
「分かった。運ぶよ」

 キリアが良いタイミングで戻ってきてくれた。俺は早速王子を抱き起そうとして――。
 いきなり王子が目を開いて起き上がり、俺に向けて拳を突き出してきた! って危ねぇっ!

「ぬっははははは! 強者よ、余と戦えぇぇぇっ!」

 紙一重で回避すると、ブリタブル王子は盛大に笑って宣言してきた。

「あの、超嫌なんですけど?」

 俺は困ったように眉根を寄せ、即答した。

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