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第二百三十九話

『ふむ、出かけるのであるか』

 家についてから説明すると、オルカナが小さく考え込む様子を見せた。
 くまのぬいぐるみがテーブルに腰かけ、物思いにふける感じで腕を組む様子は大変シュールだ。

 というか、目撃するのも久しぶりな気がする。

 何せ、オルカナはずーっとフィルニーア帽子と部屋に引きこもって、何か研究してたからな。一体何をやっていたんだか。まぁ、屋敷が爆発するとか、そういうのはないので、危険なことではなさそうだが。
 とはいえ、これから長旅になる。色々な場所へ向かうことになるから、ルナリーを連れていってやりたい。世界を見せたい、というのはオルカナの願いでもあるのだから、断ることはないし、絶対についてくる。

「ああ。世界各地を旅することになる」
『成る程な。それならルナリーも喜ぶだろうな。私としても願ったり叶ったりだ』
「……の割には、なんかうかないな?」

 俺は正面から穿つ。
 どうしてか、オルカナの様子がよろしくない。

『うむ。もう少しで研究が完成しそうなのだ。旅をするとなれば、あの帽子とは別れなければなるまい? 王子と仲が良いからな』

 オルカナの言葉に、俺は頷く。仲良しというか、王子が一方的に慕ってるって感じだけどな。フィルニーア帽子もまんざらではないんだけど。
 だからこそ、二人を引き裂くわけにはいかないのだろう。
 なんだかんだでオルカナは優しいのである。

「ってことは、その研究は帽子がいないとダメなのか?」
『うむ。必要不可欠だ。出立は二日後だな? なんとか完成すれば良いのだが……ある程度の検証も済んだし、理論上の完成形は出来上がっているのだが、いかんせん、素材が足りない』
「素材?」
『うむ。それがあれば、なんとかなるとは思うのだが……』
「何が必要なんだ?」

 訊ねると、オルカナは懐から羊皮紙を取り出した。ってどこにしまってたんだ今? そのぬいぐるみ、懐なんてギミックあるの?
 内心で疑惑が浮かぶが、今は気にしないことにしよう。
 俺はその羊皮紙を受け取り、達筆の文字を読んで顔を引きつらせる。

「ド、ドラゴンの鱗に、ホーンラビットの角が一〇〇キロに、紅魔石、風の結晶に水の結晶、巨蛇の毒と抜け殻、ファイズ霊薬……どれもこれもアホほど高いヤツじゃねぇか! いったい何を作るつもりだ!?」
『マジックボックスだ』
「マジックボックス?」

 即答されて、俺はおうむ返しに問い返した。

『うむ。要するにある地点とある地点とを次元的につなぐ袋だ。これがあれば、生活道具を持ち歩く必要などないからな』

 なんだその夢みたいな道具は。
 というか、ある地点と地点を繋ぐって、とんでもねぇぞ、それ。

「そんなもん出来るのかよ」
『あの帽子にはそれだけの可能性があったのだ。複雑に複雑を重ねて究めたような術式だからな、あれは。そこに吾が輩の呪いの技術と魔力、そして素材があれば……』
「可能になるってことか」
『もちろん不眠不休で二週間以上もの時間を費やすことにはなったのだがな』

 オルカナはどこか不満そうに言う。

『もっと吾が輩に力があれば、もっと素材を安いもので済ませられたのだがな……』
「つか、そんな誰もが羨む夢みたいなモノが実現可能になるかもってレベルですでにおかしいからな?」
『だが、入手は困難なのだろう?』

 俺はもう一度リストに目を落とす。

「もしかしたら、可能、かも……」
『なんだと!?』
「そのマジックボックス、あれば便利なのは間違いないよな?」
『うむ。屋敷の倉庫くらいの大きさの空間と接続する予定だ。それ以上は安定化させられん』

 ……十分過ぎるんだけど。
 屋敷の倉庫って、いっとくけどちょっとした民家くらいのサイズはあるからな?

 俺は思わず顔を引きつらせていた。

 もしそれが実現するなら、是が非でも欲しいところだな。
 よし、いっちょなんとかしてみるか。

「とにかく集めてみる」
『頼んだぞ! さすが主よ!』

 やや興奮気味にオルカナは言う。

「まぁ、その間に……オルカナ。お前、風呂入れ」
『何?』
「すんげぇ汚れてるぞ。メイ! ルナリー!」

 名前を呼ぶと、待っていたかのように二人が部屋に入って来る。っていうか待ってたんじゃね?
 メイとルナリーは、部屋に入って来るなり鼻をつまみ、オルカナに非難の視線を送る。

『な、なんだ二人してっ!? ひどい! 吾が輩傷つくぞ!?』
「それに凄い汚れてますね。これは洗わないといけませんね」
「オルカナ。洗う」

 二人は手をくねくね動かしながら言う。もう洗う気満々だ。まぁそれが狙いなんだけどな。
 俺は肯定の意味で頷くと、二人は飛びつくような動きでオルカナを引っ掴み、連行していった。

『ちょ、ちょっと待って!? お願いだから丸洗いは勘弁してくれ!? え、いや、だから、いや、何その丸洗い用のたらい! なんか湯気っぽいのも出てる! だめ、それはダメぇぇぇぇえええ――――っ!?』

 ああ、南無三。
 俺は合掌してから屋敷の外に出た。この屋敷は貴族街でも外れの方にある上に、貴族街そのものが王都の中でも高地にある関係で、死角ができやすい。その上で敷地も広いのだから、背の高い木々を植えるだけでちょっとした囲いが出来る。
 そこにいるのは、言うまでもない。黒矜種(ダイアナプライド)のドラゴン、クータだ。

 俺が『クリエイション』系の魔法で整地したり泉を作ったりしたので、かなり快適に過ごせる。
 俺の気配を感じたか、クータが早速やってくる。
 かなり大きい図体で懐かれると軽く死にそうになるのだが、クータはさすがに心得ていて、器用に頭をこすりつけてくる。

「おお、よしよし。今日も元気だな。二日後にはお前も連れていくからなー」

 クータはいざという時の移動手段にもなるし、超強力な戦力にもなる。連れて行かない手はない。

「くーっ」
「おお、よしよし」

 普段は吠えると雄々しいのだが、甘える時だけは可愛い声を出す。
 俺は一頻りクータの頭と角を撫でてスキンシップを取る。すると、クータはいつも安心して寝るのだ。

「さて、と」

 すっかり寝入ったところで、俺は地面に落ちた鱗を拾い上げる。クータは今成長期を迎えていて、鱗の生え変わりが激しい。故に、ちょっと遊んでやるだけでボロボロと剥がれるのだ。
 これでドラゴンの鱗をゲット、と。
 俺は袋に入れてから、次の目標へと向かう。ホーンラビットの角一〇〇キロか。一体何匹のホーンラビットを狩れば良いのか、と、うんざりしそうではあるのだが、ちゃんとアテはある。

 俺は屋敷を後にして騎士団の駐屯所へ向かった。王城のすぐ傍にある大きい駐屯所は、近衛騎士の駐屯場所にもなっていて、そこにシーナはいる。

 例の貴賓の証を使って渡りをつけ、俺はシーナと面会する。
 場所は騎士団駐屯所の面会室だ。最低限の設備しかないので、部屋も狭い。

「おお、グラナダ殿、どうしたんだ?」
「うん。例の宿場町に出て来た犯罪組織の育ててたホーンラビットのことなんだけど」
「ああ、そう言えば密かに君が関わっていたな。うむ、我ら騎士団が捕縛しているが、どうした?」
「ちょっと野暮用で、角が必要になったんだけど、良かったら切り取らせてくれないかな?」
「おお! そうか! それは良い。実はかなり困ってたんだ……」

 ほとほと困り果てていたのだろう、シーナは本気で嬉しそうに相好を崩してから、がっくりと肩を落とす。思い出すだけでそうなるのか。
 実は言うと、その噂はセリナから聞いていた。
 処分するにも巨大ホーンラビットはかなり強く、騎士団では歯が立たなかったとか。討伐も考えたが、所詮ホーンラビットと高レアリティの冒険者たちは引き受けてくれず、檻も何度も破壊されたのだとか。結局は食事を与えて大人しくさせるしかないらしい。

「グラナダ。君ならなんとかしてくれるだろう。早速案内しようじゃないか」
「うん、頼む」

 早速席を立つシーナの後をついて、俺は駐屯所の奥へ進む。
 普段は訓練に使われているのだろう広い修練場の端(という割りにはかなりの面積を保有しているが)に、何重にも厳重に造られた囲いがあった。

 そこに、ホーンラビットはいた。

 支給されている食事だろう、雑草の山をむしゃむしゃと齧っている。
 俺はシーナの方へ向いて、肯定の頷きを得てから囲いを飛び越えて中に入った。

「! ぎゅるるるるっ!」

 瞬間、ホーンラビットが警戒の唸り声を出しながら俺を睨みつける。
 凄まじい威圧がやってくるが、俺は負けじと魔力を迸らせつつ、ストレッチをして準備運動をした。

「さーて、試させてもらうぞ、と」

 挑発的に《エアロ》を放つと、あっさりとホーンラビットは乗って、持ち前の攻撃性を示してくる。
 巨体ならではのとんでもない威圧を放ちながら跳びかかって来るホーンラビットに合わせ、俺は魔力を指先に集める。

「見せてやるよ、俺の新技」

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